斎藤小鳥最強伝説 暁の聖女編 ~プリンセスには苦手な物がありました~
アリスに連れられて来た場所は、後宮の食堂だった。
先ほどの例に漏れず、無駄に高級な調度品の数々、そして、二人が向かい合うテーブルには湯気の匂い立つチンジャオロースが大皿で置かれている。
「時にお主の名前は?」
「え? 斎藤小鳥だけど。後、なんでこんな所にこんな料理が……?」
「ふむ。付き合ってもらった身じゃからな……本来であれば、お主などわらわとは口も聞けぬ立場じゃが……特別に発言を許可しよう」
それにの……とアリスは続けた。
「和洋中、ここのシェフ達は全ての料理を作ることが出来る。まあ、王の後宮の食堂じゃからの……」
に、しても……なんでチンジャオロースがそのままの形で……と、少し引っかかったが、小鳥はそこはスルーして口を開いた。
「で、今なら……質問してもいいのかな? いいのかな?」
「ああ、構わぬ……華麗にして美麗、秀麗にして壮麗なわらわ……そんなわらわに質問を出来ると言う僥倖――感謝するが良い」
あっ……と小鳥は思う。
――たっ……たっ……高飛車のお嬢様系……やっぱ……この子可愛いっ……!
「ところでさ、アリスちゃんは……」
チンジャオロースをかっこみながら、小鳥はそう尋ねた。
「アリスちゃん……じゃと? 高貴なるわらわに向かって……不敬であるぞ?」
チンジャオロースをつつくアリス。
そんな姫君のコメカミに青筋が走った。
慌てた様子で、小鳥は言葉を訂正する。
「お姫様は……なんで……そんな事を? めっちゃ……気になるんだけど」
ああ、ついに説明しなくてはいかないのか……とばかりに、アリスは首肯する。
「望まぬ婚姻……それには深い事情が……」
そこで、小鳥は首を左右に振った。
「そこじゃないよ」
「ふむ。そこじゃない……とな?」
「……何でピーマン食べてないの?」
「……え……そこなのか?」
「……うん。そこだよ。私はそこが凄い気になるんだっ!」
確かに、小皿の上のチンジャオロースは、タケノコと豚の小間切れ肉は食べられているが、ピーマンはそのまま残されている。
少し考え、アリスは気まずそうに眉間に人差し指を押し当てた。
「……」
「……」
しかし、言葉は出てこないようだ。
しばしの沈黙の後、小鳥が意地悪気に笑った。
「お姫様は偉そうにしてるけどさ……結局……子供なのかな? ピーマン嫌いなのかな? なのかな?」
煽るような小鳥の口調に、ググっと、少し詰まったようにアリスは応じる。
「……ふふん。華麗にして秀麗、美麗にして壮麗な……、そう、まさにパーフェクト超人である……わらわが……ピーマンが苦手などと……そのような事はありえぬだろう?」
ふむ。
と、小鳥は顎に手をやり、口を開いた。
「じゃあ食べてよ」
グッと詰まった様子のアリスは、しばし固まった後、高笑いを始めた。
「ククク……わらわは子供では無い……ピっ……ピッ……ピーマン程度、わらわはとうの昔に克服しておるわっ! 確かに以前は宿敵だったがな……血の滲む、想像を絶する苦行を、わらわは以前にやり遂げたのじゃっ!」
『ピーマン程度』と言った時、確かにアリスの声色は裏返っていたのだが、そこは小鳥はスルーした。
どころか、冷たい声色で更なる追い打ちをかける。
「……なら食べてみせてよ」
「ふふん、既に克服したと言うておるのに、わらわの弱点をピーマンだと信じて疑わぬようじゃの? 好きな食べ物は後で残すと言う趣味嗜好も知らんと見える」
余裕の笑みを浮かべると同時に、アリスは大皿からピーマンだけを集めて小皿に載せていく。
そして、アリスは山となったピーマンに箸をつけて、小鳥を睨み付けた。
「……ふふん。……止めるならば今の内じゃぞ? 本当に……止めるならば今の内じゃぞ?」
「誰も止めないから……早く食べてよ」
「ほっ……本当に、本当に止めなくてもいいのじゃな?」
「止めないから。早く」
「本当に……本当に止めなくてもいいのじゃな?」
「だから止めないって。早く食べて」
「……ぐっ」
その言葉を受けて、アリスは大きく深呼吸をする。
そして、大口を開いて、一気にピーマンをかきこんだ。
モグモグと咀嚼。
小鳥はその様子を固唾を飲んで見守り続ける。
そして、ゴックンとピーマンを飲みこみ、アリスは――
――泣いた。
大粒の涙が頬を流れ、テーブル上に置かれていた冷水を一気に煽る。
涙を拭きながら、彼女はまつ毛を下に伏せた。
そしてプルプルと肩が震えはじめる。
「どうしちゃったの急に!?」
「ちゃんと前振りしたのに……止めてくれたってよかろうがっ! お主程度の下賤なる民に……弱みを見せれる訳がなかろうがっ!」
と、そこで再度アリスはまつ毛を伏せ、視線を下に向けた。
そして、ぶつぶつと小さい声で何かを呟き始めた。
「……たれ……小鳥の……たれ……」
「どうしたのアリスちゃん? 何言ってるか分かんないよ?」
「これも全部、小鳥が悪いのじゃ……小鳥の……小鳥の……」
そして、大声でがなりたてた。
「小鳥の……うんこたれーっ!」
「今、絶対にお姫様が言っちゃいけない言葉が聞こえてきたけれどっ!?」
興奮が収まらないのか、アリスはその場で大きく息をつくこと数回。
そして、徐々に彼女の呼吸は収まり、少し落ち着いた所で彼女は立ち上がった。
「あれ? アリスちゃん、どうしたの? 急に立ち上がって?」
未だに半泣き状態の彼女は、頬を膨らましながら、吐き捨てるように呟いた。
「……帰る」
「えっ?」
「もうヤダ。ピーマン無理。小鳥は意地悪だし……私の……自分の……お部屋に……帰る……もん……」
「いやいやいや、こっち、まだ質問してないよ!? ってか、ロリババァ口調はどこにいったの?」
「……口調……私は王族で……みんなに舐められないように……背伸びして……やってるだけだもん……」
うわぁ……と小鳥は思う。
――背伸び幼女だっ……! これは噂に聞く……伝説上の生物……そう……間違いなくこれは……背伸び幼女だっ!
つまり、と、小鳥は更に思う。
――あらやだ何この生物……本当に可愛い……と。
と、いう事でニート勇者を見てる方ならお気づきかもしれませんが、アリスはヘカテーの遺伝子を色濃く受け継ぐキャラです。
彼女と違って戦闘は出来ませんが……。
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