勝手にメディア社会論

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タモリはジャズである〜「ヨルタモリ」の評価が二分するわけ(後)

ジャズというジャンルはない

現在「ヨルタモリ」は大まかな設定があるだけで、まだそのスタイルが固まっているとは言い難い。だから出来にかなりのバラツキがある。その典型はゲストとの絡みで、第二回の井上陽水(陽水はタモリの親友)はとにかく丁々発止の展開だったが、第三回の上戸彩はどちらかというと宮沢りえがフォローしていたという感が強い。堂本剛の際にはタモリが蘊蓄を披露するという点で興味深い展開を示したが、第五回の松たか子は、どうも少し話が空回りしていた(一方的な展開。ちなみに、これは松のせいというわけではないだろう。以前、松が「タモリ倶楽部」で空耳アワードの審査員として登場した際には、まさに丁々発止と渡り合っていた。状況によって出来が異なってしまうのは、後述するが、要するに「ジャズだから」)感も否めない。まあ、これもその内ダラダラとやっている内に収まりどころが決まってくるのではなかろうか。ただし、どんどんとスタイルを変えながら(その一方で番組の形式は、いつものように究極のマンネリパターンを目ざすのではないか?)

そして、今回の「ヨルタモリ」。ある意味タモリの哲学が前面に出されたものでもある。それをいわば「吐露」してしまったのが第四回だ。その哲学は「ジャズ」の一言で表現することが出来る。この回でタモリは吉原という一関でジャズ喫茶を経営する人物を演じているが、これは一関に実在するジャズ喫茶「ベイシー」のオーナー・菅原昭二氏をモデルにしていることは明らか(菅原氏は早稲田出身で早稲田のジャズサークル“ハイソサエティ”の座長を務めていた、日本のジャズ界では知る人ぞ知る人物。何度も一関にカウント・ベイシーを呼んでいることでも有名だ。ちなみにタモリが演じる吉原という人物のヅラ=髪型は最近の菅原氏をリスペクトしてか?)。この吉原という人物を通して、タモリはジャズについて次のように語る。


「ジャズというジャンルはない。ジャズな人がいるだけだ。」

「ジャズをやっている人で、ジャズでない人がいる」(クラッシック畑の人間がジャズを演奏した場合を一例としてタモリは挙げている)

「音楽やんなくてもジャズな人がいる」


さらに「ジャズとは何か?」については「スイングしていること」と答え、その具体例として”博多のラーメン屋のオヤジがリズミカルに首を振りながらチャーシューを次々と盛りつけていく動作”を挙げている。いわばジャズは「グルーヴ感」や「うねり」と言ったところにポイントがあると言いたいのだろう(ちなみに、この発言は第五回でもやっている)。

タモリがやっているのはモード・ジャズ

この”ジャズ談義”。タモリ、実は吉原という人物を借りて自らの芸風を語っている。

ジャズの典型的なスタイルのひとつとしてモード・ジャズがある。これはテーマ(これで音階=モードとメロディを提示する)を決め、コードを単純化あるいはある程度無視して演奏枠を確保し、これらを基調にしながら、各パートが自由にアドリブを繰り広げるというもの。それ以前のビ・ハップ、ハード・バップのコード進行に基づいた手法よりも自由度が高いが、半面、より多くの技量と想像力=アドリブ力を必要とする。実は、このスタイルを番組コンテンツに援用したのがタモリの手法なのだ。たとえば「タモリ倶楽部」では、毎回お題=テーマが決められ、同じパターンで番組は展開するが、その都度、准レギュラー的なゲストが複数名登場(なぎらけんいち、水道橋博士、ガタルカナル・タカ、江口達也な、どきわめて技量とアドリブ力の高いパーソナリティが出演する)、ここにそのお題にちなんだエキスパート(「書道の墨の達人」といったようなきわめてマニアックな人物)がスペシャルゲストとなり、テーマ≒音階に基づきながらグダグダと番組を成り行きで進行する。言い換えればお約束=コードがほとんどない。その間、タモリは、まさに「適当」にアドリブをやりつづける。そしてこの時、メンバー同士の丁々発止の渡り合いは、互いを配慮すると言うよりも、互いのアクションにインスパイアされるというかたちで進行する。言い換えれば、誰もが気ままにアドリブを飛ばし、次にそれを打ち消すカウンターがタモリや他のメンバーから繰り出され、さらにこれへのカウンターが続きという具合に、相互インスパイアによってアドリブが果てしなく提示される中で、番組はひたすらグルーヴし続けるのである。

「ヨルタモリ」はクインテットによるジャズ

このスタイルは「ヨルタモリ」においても何ら代わるところはない。いや、むしろ徹底されていると言ってもいい。わかりやすいようにジャズのクインテット(五重奏)、60年代後半のマイルス・デイヴィスのグループになぞらえて説明してみよう。当時のユニットはマイルス(tp)、ハーヴィー・ハンコック(p)、ウェイン・ショーター(ts、ss)、ロン・カーター(b)、トニー・ウイリアムズ(ds)といった布陣。「ヨルタモリ」でベースを奏でるのは宮沢りえだ。第一回目から堂々としたママぶりで、落ち着き払い、全くブレることがない。さながらR.カーターのウォーキング・ベース。見事にタイムキープしながら通奏低音を奏で続ける。これで番組の「枠」が安定する。一方、もう一つのタイムキーパー、ドラムスを担当するのが能町みね子だ。能町の役割は時に脱線するアドリブとインタープレイを元のペースに戻すこと。常に冷静で、タモリのアドリブにアクセントを入れるという「ツッコミ」的な役割も演じる(まさにT.ウイリアムズ的!)。また、能町は時に画面の外に飛び出して茶の間の側に立ち、タモリのバカバカしいアドリブを冷笑するような態度をとるのだが、これがタモリの暴走を防ぐとともに、結果としてタモリが展開する密室芸のパフォーマンスを相対化し、その面白さを語る役割を担うことになっている。知識人ゲストはH.ハンコックあるいはW.ショーター(実際、2人ともインテリだ。ただし、2人ともレギュラーだが)の役所で、宮沢と能町のタイムキープに彩りを添える。言葉は少なめだがトークに芳醇さを加える。これにスペシャルゲストが加わってメンバーとアドリブを繰り広げる(ちなみに当時のマイルス・クインテットでスペシャル・ゲストを迎えるというシチュエーションはない)。

タモリは言うまでもなくマイルスだ。このメンバーをバックに好き勝手に吹きまくるのである。しかもメンバーにも勝手にやらせているようでいて、その実、キチッと仕切ることも忘れない。タモリ=ホスト、その他のメンバー=ゲスト及びスタッフという「権力関係」の中で番組が展開されるので、結果としてタモリがいなくても、その場は「タモリ・ユニット」として稼働し続ける(これはマイルスがよくやった手口だ)。その典型が番組冒頭の5分間で、なんとこの間、タモリは登場しない。にもかかわらず、タモリ独特のダラダラ、ゆるゆるとした雰囲気=グルーヴ感が流れている(これは「笑っていいとも!」でタモリが登場しないコーナーでも同じだった)。

タモリは楽器を持たないジャズマン

だから、基本的なタモリ・モードは存在するが、面子でその雰囲気はガラッと変わるし、時にはうまくいかないこともある。面子の技量にかなりグルーヴ=スイング感は左右されるからだ(これまでのゲストでベストは当然、気心の知れた井上陽水だった)。モードを使いこなせない人間がメンバーに入ったときには、そのインタープレイはしばしば破綻を来す。だが、それでいいのだ。いつアタリでいつハズレ、いつスイングし、いつポシャる。どんなアドリブが出る……こんなことが予想不可能に展開する。これこそが、実はタモリのモード・ジャズの醍醐味なのだから(これもまたスイング感をメタ的に構成する)。この先の見えない状況がどうなるかとドキドキワクワクで待ち構えるようになれば、あなたは、もうすっかりタモリワールドに引き込まれていることになるのだ。そして、それこそが、実はタモリの芸の原点である密室芸の本質=ジャズということになるのだろう。

で、これを可能にしているのが、タモリの「適当」という哲学なのだ。「適当」である限りスイングが止まることは、恐らくないだろう。失敗?成功?そんなものはどうでもいい。先ずは「スイングすること」なのだ。


つまり、

”タモリは楽器を弾かずスイングするジャズマン”

なのである。


「いいとも!」でやっていたジャズはお昼向けのかなり基礎的なジャズ。だからみんなある程度わかったけれど、夜向けの「ヨルタモリ」は本格ジャズ。だからジャズがわからない人には「ヨルタモリ」はわからない。

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こちらの記事、堂本剛さんファンに教えていただいて拝見しました。「ヨルタモリ」剛さんの回を見て、すごくツボに嵌りました。以前のタモリさんの芸はイグアナ他少ししか見た事ありませんが、タモリさんが物事の真髄を捉えられているのにすごく興味を感じました。
松さんの回も見て「時間」の話もすごく良かったです。
楽器を持たないジャズマン、カッコいい表現ですね。
大人が見るに耐えるこのような番組、若者にも支持されるような日本であればもっと良くなるだろうなって思いました。

2014/11/20(木) 午前 10:25 hiro3 <<コメントに返信する

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