安倍首相は2014年11月19日に開催された政労使会議の場において、経済界に対し来春の賃上げを要請した。経済界はこれを受け入れる可能性が高い。
政労使会議は、昨年度は5回開催され、最終的にはベースアップの実施など、賃上げと雇用拡大に関する合意文書が作成され、今年の春闘における賃上げの流れを作った。
本来、従業員の待遇は労使間の交渉で決定すべきものだが、日本の企業や労働組合は完全に機能不全を起こしており、政府が介入しないと、意思決定ができない状態となっている。現在の日本では、政労使会議が実質的な労使交渉の場となっているといっても過言ではない。
安倍氏は衆議院の解散と消費増税の延期を表明した直後、政労使会議の場において、早くも来年の賃上げについて言及した。経済界もこれを受け入れる可能性が高い。この背景にはアベノミクスにおける政策の手詰まり感がある。
アベノミクスは当初、「3本の矢」をコンセプトとしていた。ひとつは財政、もうひとつは金融、最後は成長戦略である。だが痛みを伴う成長戦略に対しては反対の声が大きく、安倍政権はこの導入を断念している。このため、経済政策はもっぱら財政と金融に依存する形となった。
安倍政権は大型の公共事業を実施し、これによってある程度、景気は下支えされてきた。だが極端な人手不足によって、これ以上公共事業を増やすことが現実的に難しくなっている。また日銀が追加緩和に踏み切ってしまったことから、金融面で、これ以上の大型政策を望むことは難しい。
この状況で、当面の目標であるデフレ脱却を実現するには、政府からの強い要請で賃上げを実施し、個人消費を刺激するくらいしか残された方法はない。一部からは物価上昇分と同率の賃金引き上げを経済界に要請すべきという声も出ているようだ。
政府からの要請で今年も賃上げが行われれば、労働者にとっては朗報に見えるが、必ずしもそうとは限らない。この経済状況で企業が賃上げを強行すると、インフレを加速させる危険性があるからだ。
企業は、賃上げで減少した利益をカバーするため、値上げを実施する可能性が高い。追加緩和による円安がこれに加わるので、物価の上昇スピードは上がることになる。
もしそうなれば、2%の物価目標の達成は思いのほか容易になるもしれない。だが、消費者の購買力の低下は、今後も解消されないままだろう。
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