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本人(自分自身)そのものをじっくりみつめてみる。

 静かだけれど、とても澄んだ空気と言えばいいのだろうか。加瀬亮の周囲には彼の人となりを思わせるような、エネルギーが漂う。国内はもちろん、クリント・イーストウッドやアッバス・キアロスタミなど、海外の有名監督からも出演オファーを受ける実力派俳優でありながら、無理がないその佇まいが、様々な人を引き付けるのだろう。最新作、『自由が丘で』も、ホン・サンス監督とのお互いの自然なやりとりから映画は生まれていったという。
「ずっと一緒にやりたかった監督だったから嬉しかったです。彼は役者を見てセリフを書くスタイルなんです。だから決してその人自身の中にある自然なエネルギーの流れを止めることがないんです。監督はこれを<FLOW>と呼んでいましたが、まさにこのFLOWを大切にしてくれたからこそ、今回の作品ではとても自分らしくいることができましたし、演技していて不思議な充実感がありましたね」と語る。
「俳優の仕事だけではない、今は色々な情報も氾濫していて、みんな求めすぎというか…。

その人にないものを求めすぎだと思うんです。ホン監督は俳優に対してそういう無理を一切求めないのです。俳優自身、僕自身をじっくりと見つめてくれて、考えてくれる。だから発するセリフには無理がなく、この感覚は映画を観ている方にも伝わると思うんです。自分自身を見つめ直すという作業は、今の時代もう一度ゆっくりと考えられてもいいのかもしれません」
 だからなのだろうか、韓国という異国の地を舞台にしているにもかかわらず、観ている私たちは“デジャヴ”というか、この人(加瀬亮演じるモリという男性)の事を知っているという感覚に陥る。それはホン監督が人間の中に備わる根源的な、でもとても些細な感情の機微を大切に描くからなのだろう。それは監督だけでなく加瀬も大切にしている部分のようで、「自分が経験したことあるできごと、もしくは経験したことある感情が演じる役と共感できると、自ずとセリフは自分の言葉となって出てくる」と語る。
 そんな“自分”という存在をベースにしながら俳優という仕事をする加瀬にとって、“自分自身とはそういう人間なのか?”と聞いてみた。
「頑固で好き嫌いがはっきりしていると思います。あと、わがまま。自分の感覚や思いを大切にしたいのですが、その感覚をうまく言葉で説明できないことも多くて…。昔はよく殴り合いのケンカもしましたね(笑)。逆にそういうやりとりがなくても、伝わる人には一瞬で伝わるんです、不思議ですよね」
 そうひとつひとつの言葉を慎重に選ぶように話す加瀬さん。
「みんな意味とか記号を求めすぎだと思うんです。僕はそれより、感情や感応を大切にしたい。そうした身体性をキャッチしてくれる監督とは仕事がしやすいですね、そう、ホン監督のような」
 あらゆる面でオールドスクール。良い意味で自分の感情にわがまま。でも言葉で表すことのできない感情を大切にすることを知っているから、私たちは加瀬の演じる作品に心が大きく揺さぶられるのだ。

加瀬亮 かせ・りょう

1974年、神奈川県生まれ。俳優。多数の映画やテレビドラマに出演し、クリント・イーストウッドら海外の監督からも声がかかる実力派。最新の主演映画『自由が丘で』が12月13日(土)に公開。

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