高倉健さん:追悼対談…加藤登紀子さんと倉本聰さん「生き方の理想に、向かって生きていく…」

2014年11月19日

倉本聰さんと対談する加藤登紀子さん=東京都千代田区で2014年11月19日、長谷川直亮撮影
倉本聰さんと対談する加藤登紀子さん=東京都千代田区で2014年11月19日、長谷川直亮撮影
加藤登紀子さんと対談する倉本聰さん=東京都千代田区で2014年11月19日、長谷川直亮撮影
加藤登紀子さんと対談する倉本聰さん=東京都千代田区で2014年11月19日、長谷川直亮撮影

 今月10日、83歳で亡くなった俳優の高倉健さん。ともに親交が深かった歌手の加藤登紀子さん(70)と、脚本家の倉本聰さん(79)が、生前の思い出を語り合いました。

 ◇「健さんってこんな人なの」というぐらい違った面知っている

倉本 僕、ずいぶん、昨日(18日)は、忙しかったんですよ。電話ばっかり掛かってきて。健さんとは親しかったし、笑える話ばかりありますよ。でも、健さんは自分のことを外で言う人とは、すっと交際を絶っちゃう。嫌なんですよ、あの人は。自分のスターとしての神秘性を保つために。今は自分から打ち明けちゃう人もいるけど、スターというのは神秘なもので、「こいつが離婚した」とかいうのは、役者としてやること、一つの役をつくるのと無関係。そういうものに役者として左右されたくない。だから、プライベートなことは、世に出したくなかった。けど、おかしくて世に出したいことたくさんある。笑えること、たくさんある。四十九日過ぎたら、一度書いておいたほうがいいかなってくらい。「健さんってこんな人なの」というぐらい違った面を知っている。でも今話したら、まだその辺にいそうだから。怒られそうな気がしてね。

 ◇健さんが「それをあなたに言ってほしかっただけ」

加藤 健さんが文化勲章を取られたときに、「ぼくは二百いくつ映画出てるけど、ほとんど前科者。なのに勲章いただいて」って。私は映画「居酒屋兆治」で奥さんの役をもらったけど、私なんかできのわるい、女優なんかやったことなかったから、最初ことわったけど、「女優がほしいんじゃなくて、加藤登紀子がほしいんだ」とプロデューサーが言ってくださって、すごく感動して「やらせていただきます」と。せりふを最初に言ったときにこれでいいのかしら、と思っていたけど、健さんが「『人が、心に思うことは、誰にも止められないもの』とラストシーンで奥さんが言う最後のセリフがあるんですが、それをあなたに言ってほしかった。それだけなんです。後は何もしなくていいから、そこで遊んでて」って健さんに言われて、それがすごくうれしかった。演技を極めるとか、そんなんじゃなくて、人が存在することの効果、価値を見ている人だなと思った。

 でも、前科者の妻だってこと、私にすごく親近感を持ってみててくださったんだなと。主人が亡くなった時、一周忌と、必ず花が届くんですよね。兆治がつかまって、刑務所から出てくるシーンがあるんだけど、「迎えにいくシーン、加藤さんよかったですね」ってほめてくださって。前科者の妻だってところに価値があったんだなと思いましたね。健さんに寄り添えたんだ、うれしいと思いました。

 ◇「自分のリスペクトする人間が必ずいる」がシナリオに

倉本 他の役者と違うのはね、(石原)裕次郎さんも勝新(太郎さん)もスターというのは作られる役が誰も恐れないヒーローなんです。でも彼は、やくざ映画のころから、その人が白を黒だっていったら、黒だっていうくらい、その人が頭が上がらない、自分のリスペクトする人間が必ずいるっていうことがシナリオに書かれている。健さんの映画を書くときは、すごくそれを意識した。裕次郎、勝は誰にも負けないヒーロー。東映は頭いい、自分が絶対にこの人のことは尊敬する……。

加藤 生き方に対する理想があって、自分は及ばないけど、たったひとり孤独でも、その理想に向かって生きていく。そのためにぼろぼろになるような役なんですよね。

倉本 そこがあの人の役としての美しさなんですよ。そういう役を求めていた。

加藤 人間の誇り高い部分を持ってるけど、なかなかうまく生きられない。弱さでもあるけど、一番人間としての美徳。それが健さんの描いたものですね。

 ◇「どうしてこんなに…」と、つらいくらい黙る

倉本 健さんと会い始めた頃、「どうしてこんなに黙っちゃうんだろう」と。つらいくらい黙る、コーヒー飲んでても、5分、10分黙り込むの平気ですから。こっちはなんか話さなきゃ、感情を害したのかなと思うじゃないですか。

加藤 普段も無口なんですか。

 ◇車が「キキー」と止まって「女性興味、ありますよ」

倉本 そう、ものすごいですから。ある日、あんまり話題がないから、「女性に興味ないの?」って言ったんですよ。うわさがありましたからね。その時、健さんが運転して、僕が助手席に乗ってたんだけど、車が「キキー」と止まって。「……興味、ありますよ」って。

加藤 (笑い)

 ◇女性のいいところ、「しなやかさじゃないすか」

倉本 それで調子に乗っちゃって、「女性のどういうところがいいのか」って聞いたら、また黙っちゃった。青山の喫茶店から昔の防衛庁のところ通って、六本木を通って、飯倉まで返事がない。困った、どうしたらいいかと思ってたら、飯倉の交差点まで来たところで、急にニコッとして「……しなやかさじゃないすか」。あー、そうか、しなやかさかと、こびちゃったりしてね。この長い沈黙がたまらないんですよ。

加藤 それと同じような話があってね。居酒屋兆治の記者会見で、私が演じた妻と大原麗子さんの恋人、健さんだったらどっち取りますかって聞かれたの。そうしたら、健さん、「はあ」って言ったきり、ずっと沈黙。答えようとして考えている、本当に考えているか分からないけど、みんな息もできないくらい沈黙して、それから「分かりません」。記者が全員メモるんだけどね。

 ◇健さんが「おやじから『一生に二言しゃべればいい』って」

倉本 本当に考えて黙っているのか、「バカなこと聞きやがって」って沈黙しているのか、分からない。そこがあの人の、男の大きさを作っちゃってるの。ひきょうな気もするんだけどね。健さんが「僕はおやじに『一生に二言しゃべればいい』って言われましたから、なんて言うんですよ。「ああそうですか」と言うしかない。

加藤 私が以前に、対談したことがあるんですね、申し入れて。その時、私がね、傍若無人にね、「健さん、誰か誰でもいいから、ジュニアつくって、もったいないから」と。「健さんは日本人にとって魂だから、子孫を残さないのはよくない、こっそりでいいから」と話したら、すごく身を乗り出して、「それはいいですね。あの子、おれに気があるんじゃないか。あの娘はどうだろう」。マネジャーと話し始めていた。出版社の人に「記者はね、あんな質問できない」と言われた。

倉本 ユーモアの感覚はすごいんですよね。これもね、四十九日前だから話したくないけど、「健さん、どういう死に方するんですか」と聞いたことがある、そしたら、「どういう死に方してほしいか」と聞かれて。調子に乗って言ったんですよ。ニューオーリンズかなんかの裏町、汚れた町にどぶ川が流れていて、上からネオン、派手なネオンがどぶ川を時々照らす。そこにある日、東洋人の死体が浮いている。身元が分からない。安置所に運ばれて、2、3日して分かる。昔、日本で有名だった俳優・高倉健だと分かるんです。そういうのどうですか、と言ったら、また黙っちゃった。この時も15分くらい黙った(笑い)。

 そしたら、「違うんじゃないですか」ってうれしそうにいう。「アカプルコのきれいなビル、ヨットとかクルーザーがある。その中に一段とすてきなクルーザーがある。僕のなんですけどね。そこに毎日、東京・青山の「ウエスト」からチーズケーキが空輸して届くんです。それを年取ったソムリエが毎日、チーズケーキを届けに来る、高速艇でね。そしたらある日、チーズケーキがのどにつまって死ぬんです」と。もう僕、おかしくてね。このユーモア感覚はなんなんだと、こんなの思いつかないですよ。

 ◇「しょっちゅう面白いこと言っている人でした」

加藤 ものすごい面白い人ですよね。しょっちゅう面白いこと言っている人でしたよね。

*この対談は、12月1日朝刊「おんなのしんぶん」で連載中「Tokiko’s Kiss」でも掲載予定です。

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