時論公論 「新知事誕生 どうなる普天間基地」2014年11月18日 (火) 午前0:00~0:14

島田 敏男 解説委員 / 西川 龍一  解説委員

(島田)
沖縄県の新しい知事に、日米両政府が進める普天間基地の辺野古移設に反対する翁長雄志さんが決まりました。
現職の仲井真さんを大差で破っての当選で、基地移設はどうなって行くのか。
今夜は、時間を延長し、基地問題を取材してきた西川解説委員と共に考えます。
それにしても当選した新人の翁長さんと現職の仲井真さんの得票に大きな差がつきましたね?
 
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(西川)
仲井真さんに10万票近くの差を付けての当選ですから、圧勝となりました。
得票率でも51%あまりと過半数の得票でした。
 
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(島田)
今回の選挙の構図は、仲井真さんを支えてきた保守勢力が分裂し、翁長さんは保守勢力の一部と革新勢力の支持を得ました。
仲井真さんが辺野古移設推進を掲げ、翁長さんは反対を訴えての激突でした。
従来の沖縄県知事選挙では、保守対革新の真っ向からの激突という構図が続き、その中で保守勢力は基地の問題の争点化を避け、経済振興を強調してきました。
それが今回は様変わりしたわけですが、当選した翁長さんを支持する人たちは、今回の選挙の結果をどう受け止めているのですか?
 
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(西川)
今回、沖縄県知事選挙で初めて辺野古への移設計画の賛否が最大の争点となりました。これまで沖縄の人たちは、党派を超えて結集する特有の運動、県民大会などを通して普天間の県外移設やオスプレイ配備への反対の意思を示してきましたが、選挙を通して新しい基地はいらないというオール沖縄の民意がはっきり示されたと受け止めています。
 
(島田)
仲井真さんを支持した人たちは、敗れはしたが、それでも全有権者109万人の4分の1近い支持を得たのだから、決して沖縄県民の総意が辺野古移設反対だとは言えないと指摘しています。
ただ、16日の投票に合わせて行ったNHKの出口調査の結果を見ますと、政府が進める普天間基地の辺野古への移設に対して反対が多かったですよね?
 
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(西川)
今回の出口調査では、移設計画への賛否を聞いています。
結果は、ご覧の通りで計画に反対が7割近くとなり、賛成のほぼ2倍となっています。また、投票にあたってもっとも重視したことは、「普天間基地の移設問題」と答えた人が51%ともっとも多くなりました。
こうした沖縄の人たちの思いの根底にあるのは、国への不信感です。世界一危険な基地とも言われる普天間基地は、1995年に起きたアメリカ海兵隊員による少女暴行事件をきっかけに撤去を求める県民の声が高まり、翌1996年、日米両政府が返還で合意しました。いったん辺野古に代替施設を建設する計画が決まりましたが、その後の政権交代などで県外移設、県内移設と結論が揺れ動いてきました。この間、地元はいつも蚊帳の外で、もともと基地の撤去が目的だったのにいつの間にか「移設」にすり替えられたという思いもあります。
 
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(島田)
今回、基地の移設に賛成、反対の双方の人たちに、沖縄で話を聞きましたが、立場は違っても、
仲井真さんの擁立にそもそも無理があったんだという点では見方が一致していました。この背景をどう見たらいいんでしょう?
 
(西川)
去年の年末、安倍政権と仲井真県政の関係に対する県民感情の潮目が変わりました。移設計画に反対していた自民党の国会議員全員が当時の石破幹事長の説得を受けて、移設容認に転換しました。県民からは、「平成の琉球処分」と批判の声があがりました。その後、安倍総理との会談を受けて、辺野古移設容認を表明した仲井真知事が「いい正月を迎えられる」と発言したことも強い反発を呼びました。
 
(島田)
仲井真さんは第1次安倍内閣当時の8年前2006年の初当選の時、「県内移設も選択肢の一つ」という発言にとどめていました。
そして菅内閣当時の4年前の前回選挙の時には「県内移設は難しいだろう」と発言していました。
それが、第2次安倍内閣になってから態度が変わったと受け止めた人たちが、今回、対立候補の翁長さんの支持に雪崩を打ったとも言えます。
 
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(西川)
地元の人たちからは、仲井真知事が辺野古移設容認を表明した後も「沖縄に寄り添う」と言ったはずの政権側に、自分たちの感情を逆撫でするような対応が見られたと言う声が聞かれます。
今年1月の名護市長選挙で移設反対派の現職が再選を果たしましたが、国は意に介さないかのように次々に工事に向けた手続きを進めました。終戦の日の前日には辺野古沿岸部で本格的な作業に着手しましたが、名護市によると、沖縄防衛局からは、作業期間などについての事前の説明はないままだったと言うことです。今回の知事選を前に、菅官房長官が、移設計画は「過去の問題」といった発言を繰り返したことも、県民の怒りに油を注いだとも言われています。
 
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(島田)
そこで、普天間基地の移設問題が、今後どう展開するかです。
政府は、仲井真知事が承認した辺野古のキャンプシュワブ沿岸の埋め立て許可の手続きに問題は無いので、粛々と建設計画を進める方針です。
明確な手続きの誤りがない限り、知事に承認取り消しはできないとしています。
しかし、地元の反発が強まっている中で建設を進めても、それが新たな反発を生む原因にもなりかねません。
一方で、アメリカ政府は、オバマ大統領のアジア回帰という大きな外交・安全保障政策を展開する上で沖縄に海兵隊を置き続けることに強く拘っています。
アメリカ側は、辺野古への移設ができないならば、普天間基地の使用を続けるしかない。辺野古移設が実現せずに普天間基地が固定化するのは、日本政府に力がないからだという突き放した姿勢です。
 
(西川)
今回の知事選の結果、普天間基地の問題は、日米両政府が返還で合意した1996年のSACO合意時点と同じ状態に戻ることになりかねませんが、地元の意向を無視する形で事を進めるような状況は避ける必要があります。そもそも基地の撤去を求める声が高まった原因は何だったのか。
少女暴行事件や沖縄国際大学へのヘリ墜落事故を起こしたのは、アメリカ海兵隊です。普天間基地を使う海兵隊側に大きな責任があることをアメリカ政府もしっかり受け止めるべきです。
 
(島田)
敗れた仲井真さんを推した沖縄の自民党関係者に聞くと、翁長さんは選挙では「移設反対」を主張したが、革新陣営の「沖縄に基地はいらない」という基地全否定の主張とは一線を画していた。
だから、一定の時間の経過の中で、政府との接点を見いだす現実的な対応も模索するのではないかと指摘しています。
この点は、どうでしょう?
 
(西川)
政府は、辺野古移設を認めない地元名護市長とはまったく接触を断つ対応を取り続けてきましたが、翁長新知事に対しても同様の対応を取ることになれば、沖縄と本土の分断が進むことになりかねません。政府の対応で問われるのは、辺野古移設にはっきり「ノー」を突きつける形となった沖縄県民の意思をどう尊重していくかということです。それが沖縄に寄り添うということではないでしょうか。仲井真知事との間で約束した沖縄振興策を反故にするようなあからさまな対応を取るようなことはあってはならないことです。
 
(島田)
政府の沖縄との向き合い方が厳しく問われると思いますが、一方で朝鮮半島の南北分断といった冷戦構造が残っている東アジアの中で日本の安全保障を考えると、日米同盟を維持して行かざるを得ない面があります。
翁長さんもそこまで否定する考えを表明したことはありませんが、移設に反対しながら普天間基地の撤去を実現させるというのは困難ではないですか?
 
(西川)
翁長新知事にも、辺野古移設は認めないという主張だけで普天間撤去に向けた妙手があるわけではありません。翁長さんは、アメリカ政府とのパイプを強化するため、ワシントンに県の出先を設けて駐在員を置くことなどを訴えていましたが、防衛・外交は国の専権事項だけに、見通しは立たないのが現状です。
 
(島田)
政府と沖縄の関係は、昭和47年の沖縄の本土復帰以来、重い課題として問い続けられてきました。
本土の米軍施設は返還されたり集約されたりしたのに、沖縄では基地が減らず、日本全体でアメリカ軍が独自に使用している専用施設の総面積のうち、73.8%が沖縄に集中しているという現実が変わらないことへの憤りがあります。
 
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政府は「普天間基地が辺野古のキャンプシュワブを利用した代替施設に移れば、基地の面積は減る」と説明しますが、海を埋め立てて、環境に影響を及ぼす「新たな基地建設」に対して、島で暮らす沖縄県民の抵抗感が根強いのは現実です。
 
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(西川)
海を埋め立てれば元に戻すことはできません。私有地を強制的に接収されて押しつけられてきた基地を新たに受け入れることは県民感情として難しい。そうした沖縄のことをもっと知る必要があります。アメリカ軍基地の問題で必ず引き合いに出されるのが抑止力の問題ですが、沖縄の人たちの多くは、すべての基地をなくせと言っているのではありません。今の時代、普天間基地を利用する海兵隊が空軍や海軍と同じように中国や北朝鮮に対する抑止力となり得るのかという疑問もあります。基地がなくなれば基地経済に頼る沖縄の人たちは困るという認識も、本当にそうなのか。
実際返還後新たな商業都市となった那覇新都心地区では、返還前は160人しかなかった雇用が、今や1万7千人を超えているという実例もあります。
 
(島田)
沖縄では、かつて明治政府による琉球処分で日本に組み込まれるまでは、薩摩藩の支配を受けながらも独自の王国でした。
今回の知事選挙で、翁長さんは「ヤマトに対するウチナンチューの結束」を呼びかけ、「オール沖縄」という主張で支持を広げましたよね?
 
(西川)
取材した沖縄の人の中には、これまで沖縄は差別されていると思ってきたが、ここ数年は、無視されていると思うようになったという方もいます。本土復帰後も一部の研究者の中には、沖縄独立論を唱える人たちもいます。これ以上、県民の意思を無視するのなら、日本を見限り、スコットランドのように独立を目指すという動きにつながることのないような対応を求めたいと思います。
 
(島田)
もちろん「ヤマトに対するウチナンチューの結束」という主張が、直ちに沖縄の独立といったことを目指すものではないと語る人がほとんどです。
沖縄の人たちは暮らしやすい日本の中の沖縄を目指しているのだと思います。
 
(西川)
その時に地域の独自性を政府がどこまで尊重するかという問題でもあり、今後、どういう姿形の政権が日本に生まれたとしても、常に沖縄から突きつけられる問題提起です。
 
(島田・まとめ)
以上、見てきましたが、沖縄の人たちが基地に厳しい態度を崩さない背景には、太平洋戦争の末期の沖縄戦で、安全だろうと思って近づいた旧日本軍の基地や拠点が、結果としてアメリカ軍の最大の攻撃目標になったという、つらい記憶の継承があります。
そうした歴史を背にした沖縄の声に耳を傾け直す努力が、日本政府、そしてアメリカ政府にも求められていると思います。      
 
(島田敏男 解説委員/西川龍一 解説委員)