慰安婦本に中傷落書き 福岡の図書館、閲覧中止 [福岡県]
韓国・済州島で従軍慰安婦の強制連行にかかわったとの証言の信ぴょう性が疑われている吉田清治氏(故人)による「私の戦争犯罪-朝鮮人強制連行」(1983年出版)について、同氏やその家族を「皆殺にしろ」「売國(こく)奴」などと中傷する落書きがみつかり、福岡市城南図書館が閲覧・貸し出しを中止していたことが19日、分かった。専門家は「過去の検証にも必要な資料で、許せない行為だ」と批判している。
著書は一般閲覧可能な状態で所蔵。同市が10月16日に「ひどい落書きがある」との連絡を受け、確認すると、本文のそばに「清治を生かしておくな」「朝鮮人を人間として扱っていない」との中傷や、証言者の名前を仮名にしたとの説明に対して「ひきょう者 さがし出し 皆殺しろ」などの落書きが6ページにわたってあった。中には中表紙の著書、著作名のそばに「売國奴」との記載もあった。同館は翌日から閲覧・貸し出しを中止。市は、福岡県警に今後の対応について相談した。
同氏の証言をめぐっては朝日新聞が8月、「虚偽だった」として過去の掲載記事を取り消したばかりだが、故人を「殺せ」との表記があることから、いつ書き込まれたかは不明という。
市総合図書館の図書サービス課は「ここまでひどい落書きは見たことがない。内容に異論があるならば、別の方法があるはず」と批判している。著書は絶版となっており、市の所蔵はこの1冊だけ。同課は、落書きされたページを差し替えるなどして閲覧再開が可能か検討するとしている。
九州内の自治体では、福岡県筑後市、同大川市、長崎市、鹿児島県薩摩川内市の図書館にも同じ著書があるが、これまでに落書きは確認されていない。
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▼吉田清治氏の証言
戦時中、「山口県労務報国会下関支部動員部長」で、日雇い労働者の調達が任務だったという故吉田清治氏が、1982年に「私は済州島で朝鮮人慰安婦を徴用した」と講演で話した内容。翌年に「私の戦争犯罪」を出版したが、その後、歴史家などの調査で証拠は出ず、92年ごろから識者の間で信ぴょう性を疑問視する声が上がり始めた。証言内容を報じた朝日新聞が今年8月、北海道新聞が今月、それぞれ関連記事を取り消した。
=2014/11/20付 西日本新聞朝刊=