800億円で”電話帳”を購入したオリックス。ユーザーを考えないM&Aは失敗する。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

オリックスが弥生会計を800億円で買収!

オリックスが弥生会計を800億円で買収すると先週話題になった。
”電話帳”

この記事では、「なぜ金融グループが弥生を買うのか?」「弥生のユーザーにどういう影響があるのか?」等を考察していく。
参考:
弥生、クラウド出遅れ挽回狙う オリックス傘下入りで (日経新聞社)
オリックスはなぜ弥生を買収するのか(Business Medeia誠)

買収成立の3つの理由。最重要は”電話帳”?

なぜ、今回の買収成立に至ったのか。その理由をまとめたいと思う。理由は、基本的には3つあると言われている。
3つの目的のなかで、最重要な目的は、顧客基盤であろう。以下詳しく見ていく。

1:オリックスが弥生の顧客に保険等を売りたい

Business Medeia誠の報道によると、オリックス 代表執行役副社長 グループCFO 浦田晴之氏が、
「オリックスの顧客は中規模事業者が多いが、弥生と組むことによって、これまでリーチできていなかった小規模事業者へのアクセスが可能になる」
という発言をしたとされている。要するに、保険等の金融商品販売のチャネルを今回の買収で手に入れたということである。これがオリックスの一番の狙いだろう。

2:オリックスが非金融分野売上を伸ばしたい

オリックスは非金融分野の売上を伸ばす狙いがあるとしている。実際、弥生は100億円以上の売上が安定的にあるが、非金融分野の売上を伸ばすのであれば、他にも選択肢はいくらでもあるため、あくまでも付随的なメリットであろう。

3:巨大グループ傘下でクラウド会計ソフトの開発に集中できる

弥生会計としては、クラウド会計の開発に集中するため、体力のある巨大金融グループ傘下に入るメリットがあると言われている。しかし、弥生は、今回の買収金額800億と数字が表すように、既にパッケージソフトの販売で蓄積してきた体力(キャッシュ等)があり、単体でも資金力の面では問題ないであろう。つまりこれも付随的なメリットである。

上述の通り、オリックスの最重要の目的は、弥生の顧客に保険等金融商品を売ることと言うことができ、まさに800億円の”電話帳”購入といえるだろう。

ユーザーのことを考えないM&Aは失敗する

では、この先、弥生会計はどうなるのか?この買収の帰結を予想する前に、M&Aの事例を見てみたいと思う。
過去の事例を見ていえることは、ユーザーを考えないM&Aは失敗するということである。

Avisに買収され劣化したZipcar

2013年アメリカの大手レンタカー会社Avisがカーシェアリング会社Zipcarを買収した。Zipcarは、スマホで車を気軽に借りられるサービスと評判であったが、買収された後、サービスの質が下がったといわれている。
Zipcarの創業者は買収後辞めており、その際にプランの食い違いがあったことを示唆している。実際、評判サイトを見ても、買収後、車のメンテナンスに問題がある、予約にトラブルがあった等の問題が書き込まれている。
こうした事実から、とりあえず目先の利益を増やしM&A成功をアピールするためにコストカットに走ったなどのことが想像できる。
参考:
Uh Oh, ZipCar’s CEO Stepped Down Right After Its Merger with Avis
Will Avis Ruin Zipcar?
Yelp(NewYork)
この他にも、M&Aの結果、買収された企業のサービスががらりと変わってしまう例はごまんとある。

買収前からユーザー軽視の弥生会計

弥生会計は、今回の買収前からもユーザー無視のビジネスを繰り返してきた。2つ大きな例を挙げておこう。

1:紙を高価で販売

弥生会計は、今の時代印刷して使う必要が到底ないとしか思えない各種書類の印刷用紙を高価な値段で販売している。
例えば、給与明細の純正用紙は、500枚で9720円する。(罫線などのフォーマットが入っている少し特殊な”紙”である。)
1万円近くと、会計ソフトとほぼ同様の値段でこのようなものの使用を推奨しているのは、ITリテラシーの低いインストール型会計ソフトを使っているユーザーを狙い撃ちにしているのであろう。(紙で印刷する必要もないし、値段の高い特殊な紙を使う必要もない。)

2:消費税増税で買換えを促す。

また、消費税増税で税率が変更になったときに、新しいソフトに買換えを促し、売上を増進させている。実際、弥生会計は、消費税増税のあった2014年度記録的な業績を達成している。

軽減税率など大きな変更ではなく、税率が変更というソフトの買換えが必要のないときにも、意図的に5%でしか使えないようにし、買換えを促している。社長のブログやtwitterを見ても、意図的にこうした対応をしていることが伺える。
*参考:2014年度(弥生社長の愚直な実践)

買収後の弥生で起こりうる3つのこと

では、こうした過去のM&Aの失敗事例と、オリックスや弥生の発表から、買収後に起こることを予想してみた。
health insurance form

1:弥生ユーザーに保険等の案内が届く

オリックスは、弥生の顧客基盤が魅力と公式に言っている上、弥生側も”事業コンシェルジュ”サービスの拡大という旨の発表をしている。事業コンシェルジュと称して、必要のないオリックスの保険の広告が送られてきたり、営業の電話がかかってきたりする可能性は十分あるだろう。

2:目先の利益重視が鮮明に

大企業傘下に入れば、1つの部署のような存在になり、利益目標達成のプレッシャーが大きくなるであろう。そうなると、必要のない純正サプライ品や消費税増税などをフル活用した販売戦略が露骨になる可能性もあるだろう。
実際、オリックスは、プレスリリースで、消費税率の引き上げやマイナンバー制度の導入をチャンスと捉える記述をしている。これは、買換えを促し、儲けるチャンスと言っているのと同じである。

3:よいクラウド会計ソフトは生み出せない。

大企業がいくらお金をかけても、よいソフトを生み出せないという例は数多くある。ソフトウェアをつくるには、ユーザーの求めていること等を読み解いていかなくてはいけないからだ。クラウド会計サービスは、ネットバンクや他のクラウドサービスとの連携が機能の肝となる点で、インストール型の会計ソフトとは、根本的に異なる。
しかし弥生はインストール型会計ソフトをクラウドにほぼそのまま移行する戦略を表明している。買収後も現状の弥生の戦略通りインストール型会計ソフトをそのままクラウドにする”作業”を行うだけだろう。
*参考:さらなる市場開拓に向けて(弥生社長の愚直な実践)

ユーザーのためになっているのか?

確かに、個人事業主は保険は必要としている。しかし、必要なのはオリックスの保険ではなく、全ての保険の中から自分に最適な保険である。
弥生が事業コンシェルジュと称して、オリックスの保険だけを顧客にすすめるようなことがあれば、それはユーザーのためにならないのは明確だろう。もし、本当に保険を売るのがユーザーのためと信じているのだとしても、特定の保険会社と組むのではなく、最適な保険を紹介するサービス(exほけんの窓口等)と組んだ方がよいのではないだろうか。今回の買収により、弥生ユーザーが得することはないと予想でき、結果的にユーザーの離脱、業績悪化を招くのではないだろうか。