トヨタ自動車が11月18日に発表した燃料電池車(FCV)の「ミライ」。水素と酸素の化学反応で電気を起こし、車を動かすためのモーターを回す。走行時に水しか出さないために「究極のエコカー」と呼ばれるが、車としての性能はどうだろう。12月15日の発売に先駆けて、記者が実際に運転してみた。
■加速性能は「プリウス」以上
走り出してまず印象的だったのは静かだということ。エンジンがとどろく音がしないため、車内での会話もクリアに聞こえる。聞こえてくるのはモーター駆動の車特有の「キーン」という音だが、特に不快さはない。このあたりは、同じくモーターで動く電気自動車(EV)と同じ特徴を備えているといえる。
だが、アクセルを踏み込んでみてまた印象が変わった。速度が増すとともに今度は「グオー」という不思議な音がじわじわと響いてきた。何の音か。同乗したトヨタの人に聞くと「水素です」。FCVは加速時に燃料タンクの水素を大量に発電装置に送り込むため、高圧ポンプがフル稼働する。その作動音だという。
FCVならではの「水素音」が加速とともに高まっていく――。静寂を保ったままスピードが上がるのは、少し味気ないかなと思っていた記者にはこれは新鮮な驚きだった。ちなみにモーター駆動なので加速感もよい。停止状態からアクセルを踏んで時速100キロメートルに持っていくまで9.6秒。ハイブリッド車(HV)「プリウス」の上を行く。
長さが限られたテストコースの中だったのでフルパワーで走ることは難しかったが、ミライの駆動システムはガソリン車のエンジンでいえば6気筒で3~3.5リットル級の性能を持っているという。トヨタ車でいえば高級車「クラウン」と同じような走りの性能を出せるということだ。開発責任者の田中義和主査は「エコだけでなく走りもしっかりした車」と言い切る。
■「レーサー」豊田社長の感想は…
ペーパードライバーの記者が限られた時間の運転で分かるのはこのくらい。だが専門家は違うらしい。例えばトヨタ自動車の豊田章男社長。11月1日に愛知県でのラリーにミライで出場した際は「重心が低く、乗っていて楽しい」と話していた。低重心は車の安定につながり、きびきびしたブレーキ操作やハンドルさばきが可能になる。
重心が低いのも、エンジンをボンネットに入れるなど従来の設計思想にこだわる必要がなくなったから。ミライは燃料タンクや発電用の燃料電池スタックといった基幹部品を座席の下部にまとめて配置。これにより前後や左右のバランスがよくなり、車がぶれにくくなった。レーサーでもある豊田社長のお墨付きを得たゆえんだ。
運転を終え、車から降りて後ろに回ってみた。ガソリン車でいうマフラーの位置から水がしたたり落ちている。まさにこの車で水素の分解が起きていたことの証拠だが、小学生で習う化学の原理で車が動くというのはどこかSFの世界を思わせる。「ミライとともに未来がやってきた」(豊田社長)。自動車の進化がひとつ階段を上ったことは確かだろう。
(名古屋支社 中西豊紀)
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