照ノ富士(手前)を寄り切りで下す鶴竜=福岡国際センターで(市川和宏撮影)
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◇九州場所<10日目>
横綱鶴竜(29)=井筒=が照ノ富士(22)=伊勢ケ浜=を寄り切り、唯一の全勝で首位を守った。周囲も太鼓判を押すほどの好調ぶりで、夏場所の横綱昇進以来初の優勝も見えてきた。横綱白鵬は新関脇碧山を寄り切り、1敗をキープ。2006年初場所以来の日本人力士Vがかかる稀勢の里は横綱日馬富士に一方的に押し出された。途中休場明けの日馬富士は勝ち越しを決めた。
鶴竜の存在感が増してきた。照ノ富士の両まわしをしっかりつかんで前に出る。一度残されても、全身の力を伝えるように寄り切った。「踏み込みがよかったから、その後もね(よかった)。いいところに入れた。体がよく動いた」。両手を組みながら納得の言葉を並べた。
夏場所の横綱昇進から4場所目を迎えた。横綱になっても傲慢(ごうまん)さとは無縁。まじめで謙虚な姿勢を貫いている。春場所後の横綱審議委員会で「日本人よりも日本人らしい力士だ」と品格を高く評価する声も出たほどだ。
6月中旬に行われた昇進披露宴の日の朝。ある行司が部屋に荷物を取りに行くと、鶴竜が黙々と四股を踏んでいた。行司に気づいて明け荷を会場まで運ぶことを聞くと「僕の車を使ってください。今、空いているから」。番付発表前に部屋の若い衆による土俵築も率先して手伝う。集団の秩序や礼儀を重んじる「和の心」を持った横綱だ。
この日の朝稽古後にも、そんな鶴竜らしさがにじみ出ていた。8年半以上も出ていない日本出身力士の優勝や和製横綱を待ち望む声はある。裏を返せばモンゴル人ばかりが活躍するという皮肉な状態だが、その話を向けられても嫌な顔一つしない。「(日本人横綱が)出てきてほしいという気持ちは当たり前だと思う。何十年も続くことはない。後でこういう時代もあったなというね。僕の応援をしてくれるのも日本人ですから」
初日から土つかずの10連勝。「それ(10連勝)はそれで本当に良かったと思う。でも、そういうことは考えずに一日一日の積み重ねだと思う」と初体験の展開にも動じない。北の湖理事長(元横綱)は「今の相撲でいけば(優勝を)つかめるのではないか。流れが傾いてきた。全勝で優勝もあり得る」と太鼓判を押した。1差で追ってくる白鵬も、賜杯もまだ頭にない。「しっかり最後まで頑張りたい」。有言実行できた時、千秋楽に初めて見る横綱初Vの景色が広がる。 (永井響太)
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