時論公論 「安倍首相解散表明 大義は何か」2014年11月19日 (水) 午前0:00~

城本 勝  解説委員

安倍総理大臣は、消費税率の10%への引き上げを1年半先送りした上で、その判断について国民に信を問うため衆議院を今週21日に解散する考えを正式に表明しました。デフレ脱却のためアベノミクスの継続を掲げる安倍総理に対して野党側は、「アベノミクスの失敗を隠すための大義なき解散だ」などと一斉に反発。いったい何のため、誰のための解散かという論戦が早くも始まりました。今夜の時論公論は、安倍総理のこの決断について考えます。
 
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記者会見の内容はニュースで詳しくお伝えしていますので、ここではポイントだけを整理します。
 
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安倍総理は、(1)月曜日に発表された7月―9月期のGDP・国内総生産の伸び率が、2期連続でマイナスになるなど、経済状況が厳しいことから、来年10月に予定されていた消費税率の10%への引き上げは1年半後の平成29年4月まで先送りする。
(2)こうした判断は、税をめぐる重大な政策変更にあたるので、改めて選挙で国民に信を問う。
(3)選挙の争点は、アベノミクスを続けて、日本経済を再生させる道をさらに前進させるかどうかだと強調しました。
これが安倍総理にとっての解散の大義です。
当然、野党側は、自分の都合だけ考えた「身勝手な解散で大義はない」と反発しています。
この解散の大義が、大きな争点になっているわけです。
 
では、詳しく見ていきます。
 
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消費税率の再引き上げについては、今年4月の8%への引き上げの後、景気が思うように回復せず、今回のGDPの速報値も、事前の民間の予測を上回る悪い数値だったことが決定的でした。
 
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特に、個人消費の冷え込みは、安倍総理が経済界に強く要請して賃金が上昇したにも関わらずあまり回復していません。円安による原材料の値上がりなどで物価が上昇したのに賃上げが追いつかなかったためで、物価上昇分を差し引いた実質賃金は、いぜん低下傾向が続いています。ここで景気が腰折れすれば、アベノミクスは失敗だったということになってしまう。そういう危機感があったのは確かだと思います。
 
一方で、安倍総理は、いわゆる景気弾力条項は廃止する、つまり18ヶ月後には、必ず10%に引き上げると確約するとも述べました。不人気な増税を避けたという批判をかわす狙いでしょうが、
1年半経てば必ず景気が良くなると言えるのか、そもそも、それがなぜ1年半かといった点については、「必ずやり遂げる」というだけで具体的な根拠は示されませんでした。
 
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消費税率の再引き上げについて、40人以上の有識者から意見を聞いた「点検会合」も終わったばかりです。その中では、痛みがあっても財政再建のためには増税を先送りすべきではない、という意見の方が六割を超え多数でした。
しかし、結論は「先送り」。ある出席者は、「何のための会合だったのかわからない」と不満を漏らしていました。
 
政治の責任としてどうなのか。解散となれば、この増税先送りの大義がまず問われることになります。
解散の判断はどうでしょうか。安倍総理は、税の問題は民主主義の根本に関わる問題であり、改めて国民の信を問うのは当然だと述べました。「民主党の大失敗は、マニフェストに書いてないのに選挙をせずに増税を決めたことだ」とも指摘していました。
しかし、その増税法案には自民党も賛成していましたし、そもそも負担の先送りで信を問うという意味はあるのでしょうか。
 
安倍総理は、アベノミクスを続けるかどうかも問いたいとしていますが、景回復の実感を持てない国民が多いこともあって、世論はこの時期の再増税には慎重な意見が多数を占めています。国民に何を聞きたいのか、なぜ、今なのか、この点も、やはり分かりにくいといわざるを得ません。
 
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むしろ、野党側は、一強多弱の政治状況の中で、いま選挙をすれば自民党が有利だという判断があったのだろうとか、閣僚辞任に追い込まれた政治とカネの問題を隠すためのリセット解散だなどと批判しています。
景気の冷え込みの中で「年末の忙しい時に何百億円もかけて選挙をやる位なら、経済対策に全力をあげるべきだ」という声が、野党側だけでなく、自民党の支持者からもあがっています。「増税を先送りしての解散に国民の理解は得られない。自民党は思わぬしっぺ返しを食うかも知れない」そう危惧する自民党幹部がいるのも事実です。
 
いま解散する大義があるのか。こうした批判を意識してか、安倍総理は、「アベノミクスを続けるか。以前の民主党政権に戻すのかが争点になる」とも言っています。
経済最優先の姿勢を明確にし、そのために消費増税も先送りして、経済対策を打つ。その上で、いまのアベノミクスの政策をさらに進める。そうすれば、原発再稼働や集団的自衛権など、世論が別れている様々な政策課題についても、これを推進する政治的な力を得ることができると考えているのでしょう。
もともと安倍総理の周辺では、内閣支持率が高いうちに解散に打って出て、長期政権を確実にするというシナリオが以前からささやかれていました。しかし、内閣改造後の閣僚辞任などもあって、内閣支持率はジリジリと低下傾向が続いています。
 
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一方、民主党など野党側は、「そもそもGDPが悪化したのはアベノミクスが失敗したからだ」と批判しています。 
アベノミクスが成功している好循環ができているというのなら、何も増税を先送りする必要は無いはずだ」というわけです。むしろ、急速な円安などが家計や中小企業に負担を強いているとして、大企業中心、大都市中心のアベノミクスは失敗だったと批判のトーンを強めています。
 
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実際、NHKの世論調査で「安倍政権の経済政策を評価する」という人が、このところ目立って低下し、今月の調査では、「評価する」と「評価しない」が逆転してしまいました。内閣支持率を支えてきたアベノミクスへの評価ですが、なかなか賃金が上がらず、生活が良くならないという不満が高まって、期待が薄れていることは確かです。
 
だからこそ、じり貧になる前に、野党がバラバラのうちに選挙をすれば、負けは少なくて済むという計算もあったのでしょう。
 
事実、野党側は、突然の解散に準備が整っているとは言えません。アベノミクスの失敗を批判する点では一致できても、集団的自衛権などの基本政策では違いが大きく、連携を模索する様々な動きも始まっていますが、野党がまとまって選挙に臨めるかどうかは予断を許さない情勢です。
自民党に対抗できる勢力を作れるのか、あるいは独自の路線を維持するのか、野党側には、そのことも問われることになります。
 
こうしてみると、最大の争点は、この2年間の安倍政治そのものだといえるのではないでしょうか。
結局、会見を聞いても、何のための解散なのか、やはり分かりにくい点が残ります。アベノミクスを継続すれば、本当に経済は再生し、国民の暮らしは良くなるのか、具体的な道筋を示さないと説得力はありません。
受けて立つ野党側も、安倍政権に代わって、どのような政権の枠組みを作り、どんな政策を展開するのか、国民に示さないと勝機はないかもしれません。
 
その、いずれに大義があるのか。評価を下すのは国民・有権者です。
様々な思惑が交錯して、突如浮上した解散劇ですが、2年間の安倍政治をどう評価するのか。その判断材料になる論戦を期待したいと思います。
 
(城本 勝 解説委員)