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◆食物連鎖による濃度上昇も
淡水魚の放射性セシウム濃度は全体的には減少傾向にある。だが、海水魚に比べてその減り方がゆるやかとなっている。
水産庁が委託して実施した、栃木県中禅寺湖におけるモニタリング調査では、ヒメマスやワカサギなど主にプランクトンをエサとする淡水魚は、海水魚に比べてゆっくりではあるが、放射性セシウム濃度は減少していることが確認された。その減少率から、放射性セシウム137の半減期は、ヒメマスが1041日、ワカサギが929日と推定されている。約3年で半分の濃度になるわけだ。
ところが、中禅寺湖では小魚などをエサとするブラウントラウトやホンマス、レイクトラウトでは明確な減少傾向がみられなかった。
いまのところ、その原因ははっきりしていない。
ただ、すでに藻類や陸生植物から、それらをエサにする水生昆虫、さらに水生昆虫を食べるイワナやブラウントラウトへと食物連鎖によって放射性セシウムが濃縮することが確認されており、そうしたエサにいまだに放射性セシウムが含まれているのではないかと考えられている。
だが、単純にそれだけでは説明がつかない調査結果も出てきた。
汚染のないヒメマスやホンマスを中禅寺湖に設置したいけすで飼ったところ、飼育日数に応じて放射性セシウム濃度が上昇したのだ。
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水産庁に確認したところ、この飼育実験は前述したように放射性セシウム汚染がない、ヒメマスとホンマスを汚染されないよう地下水で養殖している。むろんエサもコントロールしていた。放射性セシウムが検出されないことも確認ずみだった。それを持ってきて中禅寺湖にいけすを入れて、飼育したのだという。
にもかかわらず、放射性セシウム濃度が上昇した。その原因については現在も不明だ。
その後、中禅寺湖のモニタリング調査を継続したところ、湖の表面近くの水や流入河川の水に含まれる放射性セシウムの濃度に季節変動があり、冬から春にかけて高く、夏から秋にかけて低くなることが明らかにされた。
中禅寺湖では冬から春にかけて、湖底の水と表層の水が混ざる鉛直混合という現象が起こる。こうした現象により湖水の放射性セシウム濃度に変動が起きることも影響の1つと考えられているが、依然として原因が明らかになったとまではいえない状態だ。
「湖沼などではまだ放射性セシウムが魚に移行する可能性がある。原因究明をして、除染なり環境を改善しない限り、内水面漁業は再開できない」と海洋生物環境研究所の原猛也研究参与は国主導の調査研究や対策の重要性を訴える。
こうした状況から、全国内水面漁業協同組合連合会(全内漁連)らは国に対し、湖沼や河川の除染など抜本対策を求めて要望を続けている。
◆「水の遮へい効果がある」ため対策不要
だが、国側の反応は良くないという。
環境省除染対策チームに確認すると、「いま生活空間の対応をしているところ。魚の被曝をどう抑えるかは明示的には守備範囲とは思ってない」との見解だ。
水産庁に聞いてみると、いくつかの課をたらい回しにされたあげく、「除染は環境省が担当」というばかりだった。
8月22日開催の「環境回復検討会」で、環境省は湖沼や河川では水の遮へい効果があるため「基本的に除染しない」との方針を表明した。
環境省による除染は健康被害の防止と生活環境の保全という2つの理由で実施されており、水による遮へい効果があって、基本的に被曝原因とならないというのがその理由だ。子どもが遊ぶような水辺で高線量などが確認された場合などは「対応する」という。
検討会の委員である東京大学大学院工学系研究科の森口祐一教授が「内水面漁業の観点も重要」として対策を求めたが、環境省と農水省は回答すらしなかった。
その後改めて確認したところ、水産庁栽培養殖課は「何か方法があれば予算化も考えたい」と前向きな返答だった。だが、同時に「現状では方策がない」とも付け加えた。少なくとも何らか方策があれば、対策に踏み込もうとしてはいるようだ。
8月下旬には今後の調査研究の可能性を探る学識経験者らによる自主的な研究会が開催されたが、具体的な対策までは遠い。
福島県では解散に追い込まれた漁協の話もある。健康被害防止や生活環境保全といった観点だけではなく、国レベルの取り組みが必要なのではないか。(おわり)
【井部正之】
※『日経エコロジー』2014年10月号掲載の拙稿「いまだ出荷制限続く淡水魚 国レベルの取り組みが急務」に加筆・修正
福島原発事故による放射性セシウム汚染1~いまだ続く、淡水魚の出荷制限
福島原発事故による放射性セシウム汚染2~なぜ海水魚に比べ淡水魚の汚染が続くのか
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