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◆海水魚の放射性セシウム濃度は順調に低下しても、淡水魚の濃度はいまだ高いのはなぜ?
「海水魚は順調に放射性セシウム濃度が下がり、出荷制限が解除され始めているが、全国的に内水漁は出荷制限が少なくない」と海洋生物環境研究所の原猛也研究参与は今年7月、環境放射能除染学会の研究発表会で指摘した。
福島第一原子力発電所の事故から3年あまり、海産物の放射性セシウム濃度は順調に低下してきた。それは汚染が著しい福島県内においてもはっきりと表れている。
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福島県内における海産物の放射性セシウム濃度は、原発事故直後の2011年4~6月には57.7%が1kgあたり100ベクレルを超えた。だが、それ以降、順調に超過率は下がってきた。翌2012年4~6月には21.6%と1年で半減し、2013年4~6月には4.6%と前年のおよそ4分の1、
今年1~3月には1.6%まで低減した。
福島県以外でも同様だ。2011年3~6月で4.7%が1kgあたり100ベクレルを超過したが、翌2012年4~6月には1.1%、2013年4~6月に0.3%に下がっている。今年1~3月にいたっては基準を超えたのは2200検体以上を分析したうち1検体のみ。超過率は0.04%まで激減した。そのため福島県でも2012年6月以降、出荷制限・自粛がされていた海産物の試験採捕や販売が始まっている。
ところが、淡水魚などを対象とする内水面漁業は対照的だ。
福島県の淡水種では、2011年4~6月には46%が1kgあたり100ベクレルを超過し、翌2012年4~6月も25.2%が基準超で、海産物と初期状況はあまり変わらない。だが、2013年4~6月は超過率11.2%、今年1~3月に2.7%と、2013年を境に逆転。超過率は海産種の約2倍となった。
福島県を除く全国ではその傾向がより顕著だ。事故直後の2011年3~6月の段階で超過率はすでに海産種の4倍超。それ以降も差は開き続け、今年1~3月にいたっては65倍に達した。現在でもイワナやヤマメなど全国で計19魚種の一部が出荷制限・自粛の状況だ。
8月下旬にも群馬県の赤城大沼のワカサギが1kgあたり110ベクレルを検出し、県が出荷自粛を要請した。
内水面漁協の全国組織、全国内水面漁業協同組合連合会(全内漁連)は「福島県内には解散に追い込まれた内水面漁協もある」と窮状を明かす。
前出・原研究参与によれば、淡水魚の放射性セシウムが低下しにくいのは海水魚と淡水魚の生体機能における違いが原因という。
「放射性セシウムはカリウムと同じような挙動をします。海水魚は海水にカリウムがたくさんあるため、カリウムを排出する生体機能を持っている。ところが淡水魚の場合、むしろ取り込んだカリウムなどの塩類を体外に排出しない」
カリウムとセシウムが化学的に同じような構造をしているため、それらを区別できず、魚が取り込むというのが汚染されるメカニズムと考えられている。
海水魚は外が海水のため、環境中にカリウムがたくさんある。これを取り込みすぎると危険で、いわば「塩漬け」になる危険がある。そのため、体内に吸収したカリウムをどんどん体外に出す仕組みがある。これにより、カリウムを取り込んでも、体内のカリウムを排出し、新しいものと交換する仕組みになっている。
一方、淡水魚は真水に住むため、カリウムをなかなか摂取する機会がない。そのため、なるべく積極的にカリウムを摂取しようとしてしまう。また一度摂取したカリウムをなるべく外に出さないようにするという仕組みが働く。そうしないと体外に塩分がどんどん出ていってしまい、生きるために必要な塩分を確保できない。
このように海水魚と淡水魚は体の中の甲状腺を保つシステムが違っており、淡水魚は海水魚に比べて放射性セシウムを取り込みやすく、抜けにくい原因になっているのだという。
これは専門家の間ではよく知られたことらしく、こう明かす行政関係者もいる。
「排出のメカニズムが違うという話があったので、当初から淡水魚のほうが厳しい状況になるのではないかと心配していた」(つづく)【井部正之】
※『日経エコロジー』2014年10月号掲載の拙稿「いまだ出荷制限続く淡水魚 国レベルの取り組みが急務」に加筆・修正
福島原発事故による放射性セシウム汚染1~いまだ続く、淡水魚の出荷制限
福島原発事故による放射性セシウム汚染3~放射性セシウム汚染が低下しない淡水魚も存在
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