徹底したデータ分析を、新メニューの開発やマーケティング施策の立案に役立てている、すかいらーく。同社では、業務部門のデータ分析専門チームが、インフラの整備から、データのマネジメントまでをこなしているのが特徴的だ。なぜ、そうしたアプローチを採っているのか。チームを率いる神谷勇樹氏に話を聞いた。
――すかいらーくでは、データ活用やデジタルマーケティングの推進において、どんな体制を採っているのでしょうか?
マーケティング本部という組織が主管しています。組織ができたのは2012年。ここ最近の経営改革の一環です。もともと、当社は商品開発に力を注いできたのですが、新経営陣が、さらにマーケティングも強化していく必要があると判断したわけです。
マーケティング本部には3つのグループがあります。(1)メニュー開発を担当するメニュー開発グループ、(2)広告・宣伝などを担当するマーケティング&プロモーショングループ、(3)データ分析を担当するインサイト戦略グループです。
私が担当するインサイト戦略グループがPOSデータなどを分析し、商品開発やキャンペーンに役立つ知見を導き出します。それをもとに、メニュー開発グループやマーケティング&プロモーショングループがそれぞれ具体的な企画に落とし、アクションを実施するという関係です。
従来、各グループは別々の部門にありましたが、データ分析をベースとしたマーケティングを実践するため、一カ所に集約しました。分析する人と、そこで得られた知見を実務に活かす人が同じ部署にいるため、データ活用のサイクルをスムーズに回せています。
――分析インフラの構築・運用など、テクノロジー面はどうされているのですか? 情報システム部門との役割分担なども含めて教えてください。
Amazon Web Services(AWS)上で、Amazon Redshiftを中心とした分析インフラを構築、運用しています。情報システム部門には、POSサーバーのデータをS3に送るところまでをお願いしており、AWS上の分析インフラの構築・運用はクラスメソッドさんのサポートを受けて、データの加工からインフラの管理まで私たちが自分で管理しています。
それ以前は、情報システム部門が構築したDWHを使用していました。ただ、老朽化に伴って性能面で課題が出てきていたので、昨年末に私たちが主導して刷新しました(すかいらーく、全国3000店舗のデータ分析基盤をクラウド使い3カ月で再構築)。
データ分析担当者が情報システムも調達する
――新システムを構築する際、情報システム部門に依頼しなかったのは何故ですか? 協力を得られなかったということでしょうか。
いいえ。最初から自分でやりたいと考えていました。というのも、情報システム部門が得意とする基幹系システムと、データ分析やマーケティング、モバイルアプリといった情報系システムでは必要なスキルやマインドセットが違うと考えたからです。
基幹系システムは、止まれば業務に支障を来たすので安定稼働が大前提です。規模が大きいため、ベンダーやプロジェクトのマネジメントスキルが必要ですね。一方、情報系は柔軟性やスピードが求められます。最初から決まった形が見えていることは稀。動きながら変えていく必要がある。アプリならUIにも気を遣う必要があります。
情報システム部門は、基幹系のノウハウは豊富ですが、最近のデジタルマーケティングに代表される情報系は必ずしも強くないのが一般的。当社も他聞に漏れずそうした状況にありました。一方で私は大学時代にプログラマーとしてシステムを開発した経験もあり、前職ではデータ分析を担当していました。こうした条件下で、どのような推進体制が望ましいかを突き詰めた結果、自分たちで主導した方がよいと考えたのです。
――逆に言えば、情報システム部門が情報系システムのマインドセットを持つべき? そうすれば、分析業務に専念できるという希望はあるのでしょうか?
どうでしょうか。昨今のクラウドサービスの充実などを見ても分かるように業務部門がITを活用するハードルはずいぶん下がりました。例えば、AWSを使えばパッケージされたインフラがサービスとしてすぐに手に入ります。オンプレミスにシステムを構築する場合に比べれば、必要なスキルはずっと少なくて済む。
要件定義や設計も同様です。情報系システムは規模が小さいため、苦労する面はありますが、私たちでも十分運営できるのです。万が一、失敗しても業務が止まることはない。作ってみてダメだと思ったら、システムを作り直すこともできます。
先ほど言ったように、情報系は試行錯誤のプロセスを避けて通れません。自分たちで管理した方が、人を間に挟まなくて良いので、柔軟にシステムを運用できるのです。情報系については、情報システム部門の手を煩わせる必然性は薄れている気がします。
もちろん、情報システム部門でなければこなせない案件は確実にあります。実際、情報システム部門と協業して、進めているプロジェクトもあります。そのシステムがどんな性質のものか、構築・運用するためにどの程度の専門スキルが必要か。それに応じて、だれが担当するかを決めるのがリーズナブルではないでしょうか。