高倉健のインタビュー本からプロフェッショナルとはなにかを学ぶ

10日になくなられた高倉健さん。77年『幸福の黄色いハンカチ』でブルーリボン賞、日本アカデミー賞の各主演男優賞受賞、99年には『鉄道員ぽっぽや』でモントリオール世界映画祭最優秀主演男優賞を受賞した名俳優、高倉健さんのインタビュー集を紹介します。ほとんど取材を受けない高倉健さんのインタビュー集ということで、2012年の刊行時から注目されていた本です。

本当に嬉しい、もしくは悲しいと感じたとき、人は「嬉しい」とか「悲しい」なんて言葉を口にするでしょうか。僕はしないと思う。声も出ないんじゃないか……

 

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映画・演技の枠を超えて、プロフェッショナルの「姿勢」が学べる一冊だと思いました。

まず、ビックリしたのは、高倉健さんが映画に出る時の基準。

映画に出るときの基準はまず、ギャランティがいいこと、それから、拘束時間が短いことの二つです

とのことで、一瞬目を疑いました。

しかしながら、読み進めていくと、これは氏がどれだけ必要とされているのかを見極めるためであり、また自分を追い込むための方法論であるということがよくわかります。

仕事を決めるにはまずホン(脚本)を読みます。ホンのなかに一言でもいいから、ゾクゾクっとくるセリフがあればやることにしてます

撮影に入る前から多くのものを背負っていれば、励みになりますし、自分を追い込むことにもなる。「今日はつらいから撮影をやめる」なんて絶対に言えなくなります

事実、氏は『八甲田山』の撮影では、明治時代の服装で三年間、計一八五日雪中での撮影に耐え、『単騎、千里を走る。』の現場では、決して座りませんでした。食事に関しても、お腹をこわさないように、ロケ中の食事は豚汁とカレーライスに決めているそうです。

本書には、氏が良い演技をするために、どれほど熱心に研究しているか、努力しているか、関係者の証言があり、心から尊敬の念を抱かされます。

役者で自分の声に神経を使う人は少ないです。カメラ映りを気にして撮影中にラッシュをチェックする人はたくさんいますが、声の調子を知ろうとするのは珍しい。健さんは撮影の合間に「紅谷さん、頼む」と私のほうにやって来て、レシーバーを耳にあてて自分のセリフを聴き直すことがあります。やっぱり他の役者さんとはひと味もふた味も違います

読んでいくと、氏の真摯な姿勢がスタッフのやる気を引き出し、良い仕事につながっていったことがよくわかります。

そして極めつけは、氏が「気」と呼んだものの正体。

人に気をもらうからこそ自分が動けるんです

実際に映画の撮影現場で彼が発している気とは人を威嚇し、畏縮させるものではなく、相手を包み込んでしまうような感謝の念だ

 

感謝を捧げることが良い演技につながり、良い作品につながる、という視点は、目からウロコでした。

僕は大上段に振りかぶってやたらと大声を出す映画には本当の力はないと思う。思っていることを低い調子で、そっと伝える映画に出たい

スタッフや共演の方たちが寒い思いをしているのに、自分だけ、のんびりと火にあたっているわけにはいかない(「女性自身」吉永小百合との対談 七九年一二月二七日号)

本書を読んで、かつて『鉄道員 ぽっぽや』を観た時の感動の正体が、おぼろげながらわかった気がします。

「伝える」ことを職業にしている人、プロフェッショナルとして、頂点を極めたい人に、ぜひおすすめしたい一冊です。

古典を勉強しろ

そのほか、印象的な部分を一部引用します。

 

うーん、お手本というか、好きなのはジャン・ギャバンですねえ。あの人、神父さんでも、マフィアのボスでも、ボクシングのマネジャーでも何でもやるでしょう。そして、派手に笑うわけでも、涙を流すわけでもない。走ってるシーンなんて想像もできない。それでも、あの人の演技からは悲しさとか喜びが確実に伝わってくる。セリフでも動作でもない。ただ黙ってカメラを見つめてる表情のなかに感情の動きが表現されてる

相手役が速く動いているように見せるには自分がゆっくり動く、あるいはその人を前面に出すためには僕が少し後ろに動く……。しかし、若いうちはそんなことがなかなかできませんでした

黒澤(明)監督が演技について話されていたことをうかがったことがあるんです。いえ。直接ではなく、非常に近いところにいた方から聞きました。「形を真似ろ」と。心や感情はいつでも真似ができる。俳優を一年もやれば心のなかで悲しい気持ちを作ることなんて誰でもできる。だが、悲しみを形で表現することは難しい。そのためには古典を勉強しろ。そうおっしゃったそうです

考えてみると映画というのは時代を先取りしているべきものなんだ。今の流行りを追っかけるものじゃないんだよ

セリフだけが表現じゃありません。僕は大上段に振りかぶってやたらと大声を出す映画には本当の力はないと思う。思っていることを低い調子で、そっと伝える映画に出たい

映画とともに、ぜひ読んでください。

・土井英司+ビタミンBIZ編集部

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