(2014年11月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
筆者は1980年代当時、英国のグリーナム・コモンに集まる女性たちに、あまり関心がなかった。あの時代の少し反動的な学生の1人として、核兵器が配備された英軍基地の外で反核運動のキャンプを張っていた彼女たちのことを、勘違いをした愚かな人たちだと見なしていた。核抑止力が機能していることはこの数十年の経験から分かるじゃないか、と思っていたのだ。
あれから30年、核による平和はまだ保たれている。だが筆者は、核兵器は絶対に使用されないというこれまでの自分の考えに、少し自信が持てなくなっている。
不安を覚える3つの理由
不安を覚える理由は3つある。第1に、核兵器はパキスタンや北朝鮮といった不安定な国々にも拡散している。第2に、世界は過去に何度か核戦争寸前の状態に陥っていたことを示す証拠が増えてきている。そして第3に、これは前の2つよりも差し迫ったものだが、ロシアが核兵器をちらつかせる場面がとても増えているのだ。
最近のロシアは、公式な場と非公式な場の両方で、核兵器を持っていることにますますはっきりと触れるようになっている。
筆者は2週間ほど前、米ワシントンで開催されたある非公開のセミナーで、ロシアのある大物が「プーチン大統領は核兵器という銃をテーブルの上に置いた」と聴衆に警告する姿を目撃した。
確かに、大統領はロシア国内で行った演説で、部外者は「我々に干渉」すべきでないと語っている。「ロシアは核大国の1つだ」というのがその理由だった。
冷戦時代に旧ソビエト連邦政府の代弁者だった新聞「プラウダ」が先週、「ロシア、核でNATOを驚かす準備」という見出しの記事を掲載した。同紙はこの中で、ロシアは米国と同程度の戦術核兵器を保有していると論じ、誇らしげにこう続けた。
ロシアの術中にはまりたくはないが・・・
「戦術核兵器について言えば、現在のロシアは北大西洋条約機構(NATO)に対しかつてないほど優位に立っている。米国はこのことをしっかり認識している。彼の国は以前、ロシアはもう二度と台頭しないと確信していた。今となってはもう手遅れだ」
ロシアの核について文章を書くにあたり唯一ためらいを覚えるのは、これでは先方の思うつぼではないか、ということである。ロシア政府がわざわざ核に言及するのは、西側の評論家にロシアの核の脅威について語らせるためでもあると考えてほぼ間違いない、と筆者は見ている。