太平燕:発祥の店、閉店へ 73歳2代目「やめ時」 熊本
毎日新聞 2014年10月24日 12時45分(最終更新 10月24日 13時40分)
熊本の郷土料理「太平燕(タイピーエン)」の「発祥の店」として親しまれてきた熊本市中央区桜町の中華料理店「中華園」が来年2月、入居している県民百貨店の閉店と共に店を閉じることになった。1933年の開業以来、81年にわたって続いてきた。経営する趙健次さん(73)は「残念だが、私も年なのでやめ時だと思った。長い間、熊本の皆さんにもり立てていただいて感謝の気持ちでいっぱいです」と話している。
中華園は趙さんの父慶餘(けいよ)さん(故人)が33年、現在の中央区花畑町近くで開店。熊本市内で最初の中華料理店だった。開店時から慶餘さんが生まれ育った中国福建省福州市の家庭料理・太平燕を提供し、同時期に開店した会楽園(同区新町)、紅蘭亭(同区安政町)とともに「太平燕発祥の店」として親しまれた。
趙さんは済々黌高校(熊本市)、芝浦工業大を卒業後、慶餘さんの下で料理人の道に入った。慶餘さんの太平燕は、沸騰させた湯に一度通した鶏がらでスープのだしを取るため、生臭さがない。趙さんは「父がだしを取る時は本当に真剣で、私がいいかげんにやると怒られた」と振り返る。72年の日中国交正常化で、太平燕に入れる春雨の原料の福建省産緑豆(りょくとう)が手に入るようになり、本場の味に一層近づいた。
32歳だった73年に独立し、この年オープンした県民百貨店の前身の岩田屋伊勢丹内に開店。「小さい子供たちにこそ太平燕に親しんでほしい」と学校給食へのレシピ提供など普及活動にも取り組み、県民食に育て上げた。
「80歳ぐらいまでは店を続けるつもりだった」と残念な気持ちもあるが、後継者もおらず、県民百貨店閉店を機にやめる決心をした。今後は父の代から一家を受け入れてくれた熊本に恩返しするため、ボランティア活動などに力を入れていく考えだ。【取違剛】
【ことば】太平燕
中国・福建省福州市の郷土料理。中国ではミンチ状の豚肉にサツマイモのでんぷんを練り込んだ扁肉燕(ビェンニュッイェン)やアヒルの卵を用いる。熊本伝来後は春雨や鶏の卵を入れるようになった。春雨はカロリーが低く、野菜もふんだんに取れるため、近年はヘルシー料理としても人気を集めている。