インタビュー

「Amazon Aurora」は伊達じゃない! ─FlyData 藤川氏が読み解くAWSのデータベース戦略

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第3回めとなるAmazon Web Services(AWS)の年次カンファレンス「AWS re:Invent」が,今年も例年通り米ラスベガスにおいて開催されました。11月11~14日の4日間に渡って延べ1万4000人の参加者を集めた今回のカンファレンスは,例年にも増してその規模も熱量もパワーアップしているのを実感させられました。

Werner Vogels氏

今回のre:Inventでは合わせて11の新サービスが発表されました。その中でもこれからのエンタープライズITを最も大きく変える可能性があるサービスといえるのが新データベースエンジン「Amazon Aurora」です。このAuroraの魅力について,今回,re:Inventに初出展を果たした米FlyData ファウンダーの藤川幸一氏にお話を伺いました(インタビューは現地時間の11月12日に実施)。

re:Invent 2014会場でAmazon Auroraが発表された瞬間

re:Invent 2014会場でAmazon Auroraが発表された瞬間

「MySQL互換の速いDB」ではAuroraを見誤る

──re:Invent初出展,おめでとうございます。

藤川:ありがとうございます。スタートアップ用の小さなブースなんですが,去年までとは違った形で参加できるのはすごくうれしいですね。

──御社のビジネスのお話はあとで伺うとして,とりあえず今日(11月12日)の発表でいちばん印象に残ったサービスは何でしょうか。

藤川:「Amazon Aurora」です。アンディ・ジャシー(Andy Jassy,AWSのトップでSVP)のキーノートでは「MySQLの5倍の速度で商用データベースの10分の1のコストのRDB」と説明されていましたが,ただのMySQL互換の速いデータベースではないと思います。

──というと?

藤川:AuroraはMySQL互換,正確にはMySQL 5.6互換ですが,おそらくAWSは現在RDSで提供しているMySQLを徐々にAuroraにシフトする方向にもっていくと見ています。

──えーと,たしかAuroraは「Amazon RDS for MySQL」で選べるエンジンのひとつとして提供されるわけですよね。RDSのMySQLユーザはこれからはオープンソースのMySQLか,それとも今回発表されたAuroraか,どちらかをデータベースエンジンとして選べるようになると。それを今後はAuroraオンリーにするということでしょうか。

藤川:もちろん急にはそうならないでしょう。ただAuroraの特徴を見ていくと,これが単なる"速くて安いMySQL互換RDB"ではないことがわかります。もっとはっきり言うと,AWSがクラウドのために新たに作りなおしたRDBですね,これは。

Amazon Auroraの特徴,一見すると「速いMySQL」だが…

Amazon Auroraの特徴,一見すると「速いMySQL」だが…

「クラウドのためにゼロから再設計されたRDB」のポテンシャル

──具体的にはAuroraのどういうところがスゴいんでしょうか。

藤川:まずストレージです。デフォルトでは10GBのディスクが提供されますが,テーブルの容量が増加するにつれて透過的にディスクを拡張します。最大64TBまで拡張可能で,ユーザは利用しただけストレージ容量料金を支払う仕組みになっています。

──それって本当の意味のクラウドデータベースっぽい感じがします。

藤川:その通りです。これが本当にうまく機能すれば従来のRDSで提供していたMySQLはいらなくなるはずです。わざわざアプリケーションをとめてストレージを追加しなくてもAuroraのほうで自動的に増やしてくれるんですから。

──ストレージ増設によるダウンタイムがなくなると?

藤川:ダウンタイムなしの運用は,おそらく相当な数の顧客からAWSに対してリクエストがあったはずです。これはFlyDataのお客様からもよく聞く声なんですが,たとえばソーシャルゲームや金融などでは「サービスを止めてメンテナンスを行う」なんて,本当に冗談じゃないという時代になっているんですよ。でもこれまでのRDBでは信頼性や可用性の面からも難しかった。それがAuroraの登場で大きく変わる可能性は高いですね。

──Auroraは信頼性と可用性を担保するために,ストレージを3つのAvailability Zone(AZ)に2つずつコピーするとさっきキーノートでジャシーさんが言ってました。これも大きなポイントでしょうか。

藤川:そうですね。合計で6本のディスクにコピーが作られることになります。ストレージ側で分散処理による同時書き込みを行い,可用性を担保(99.99%)しているわけですが,これぞクラウドでの分散処理という感じがします。内部に並列分散機構をもたせたのは,クラウドでデーターベースを運用するというスタイルがこれからのITの前提になると踏んでのことでしょう。

つまりAuroraは,AWSによってまったくゼロから再設計されたRDBというわけです。これはいままでのシステムインテグレーションの常識すら変える可能性をもつデータベースだと思います。

「Durable」(永続性)にAuroraの正体をひもとくカギがある

「Durable」(永続性)にAuroraの正体をひもとくカギがある

──MySQL互換というところに目が行きがちですが,そうではなく本当の意味でのクラウドデータベースというわけですか。オンプレミスで使われていたデータベースをクラウドに持っていったのではなく,クラウドのために作られたデータベースだと。それならAWSが徐々にAuroraにシフトしていこうとするのもわかる気がします。

藤川:Auroraはほかにもリードレプリカとプライマリインスタンスがストレージを共有するとか,アーキテクチャ的に非常に興味深い点が多いです。FlyDataでもこれから使い込んでみる予定ですが,「FlyData Sync」にもそのまま使えそうな気がします。

「クラウドありき」で常識を塗り替えるAWS

──そういえばビジネスのお話を聞くのを忘れていました。Redshiftビジネスのほうはいかがでしょうか。

藤川:ニュースにはほとんどなっていないんですが,今回,RedshiftにUDF(User Defined Function)が導入されたのが我々にとっては非常にうれしいニュースでした。これは本当にRedshiftユーザ待望の機能だったので。

Redshiftはいま,とくに米国では本当にユーザの裾野が拡がっています。今回の出展でもすごく手応えを感じました。これまでは従来のデータウェアハウスが高くてRedshiftに乗り換えるという話が多かったのですが,これからはオンプレミスのデータウェアハウスではできない,Redshiftだからこそできるビジネスも増えてくるんじゃないでしょうか。

Auroraもそうですが,AWSはこれからもどんどん既存の常識を塗り替えたサービスを出してくると思います。FlyDataもスタートアップらしく,そのスピードに遅れないように追いかけていきたいですね。

──では来年はもっと大きなブースでお話できることを期待しています! ありがとうございました。

会場のFlyDataブース前でインタビューを受ける藤川幸一氏(右),同社のロゴ入りTシャツにはRedshiftのロゴも。これを許されるのは特別なパートナーだけとのこと

会場のFlyDataブース前でインタビューを受ける藤川幸一氏(右),同社のロゴ入りTシャツにはRedshiftのロゴも。これを許されるのは特別なパートナーだけとのこと

著者プロフィール

五味明子(ごみあきこ)

フリーランスライター兼エディター。札幌市出身。東京都立大学経済学部卒。技術評論社で雑誌/書籍の編集に携わった後,「マイコミジャーナル」で主に技術系記事の取材/執筆/編集を担当する。フィールドワークはOSS,Javaプログラミング,Webアプリ開発,クラウドコンピューティングなどエンタープライズITが中心。ビジネス英語やマネジメント,コーチングスキルなどビジネス系のネタもたまに手がける。

Twitter:http://twitter.com/g3akk

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