VOL・31   背広の語源   2003・07

死語になりつつある背広という言葉で、スーツ(背広)のルーツを探ってみる。
日本では三揃え(スリーピース)もツーピースもジャケット単体でも「背広」
と表現される。語源としては、形・種類・地名の三説があるとされている。
 まず形から。その名の通り背が広い、若しくは背のパーツが広いから背広と
呼ばれる説。モーニングコートなどは三つの縫い目で裁たれているが、現代の
スーツは、背中が背中心で裁たれた二つのパーツで構成される。背中をやや大
きく仕上げるとともに、パーツも少ない分だけ大きい(広い)物となっている
から背広と呼ぶ説がある。
 次に服の種類からの説。日本にとって最初の洋服は軍服であり、制服として
普及していく。ミリタリークローズに対してシビルクローズ(市民の服)がな
まって背広と呼ばれるようになった。
 最後に最もポピュラーな地名を語源とする説。ロンドンはセビルロー(SAVILE
ROW)に由来する。高級注文洋服店が数十店軒を並べるこの通りでは、世界のセ
レブがスーツを誂えていた。百メートルちょっとの裏通りだが、路面店として軒
を連ね、一階が店舗、地下が工房になっている。全盛の頃に比べると店舗数は少
なくなったようだが、ロンドンのストリートの中でも比較的静かな通りである。
明治の初頭の有力者がセビルロー仕立てを吹聴したのが「セビロ」という言葉を
生み出した。
 スーツとしてはあまり構造物のない背中が呼称になったことは興味深い。背が
広いと書いて「背広」と表記・発音されるのは、諸説が合わさったと考える方が、
語源を補完できて面白い。

VOL・32   ずぼん・ズボン   2003・08

カタカナにしようか平仮名にしようか迷ってしまう「ズボン」という言葉。外来語の
ようだが、各国の同義語は次の通り。トラウザーズ(英)・スラックス、パンツ(米)
パンタロン(仏)・パンタローネ(伊)。仏語の発音が略されて米語のパンツになっ
たぐらいしか語源がありそうにない。日本語のズボンは、外来語ではないと思われる。。
 語源と思われる説の一つ目は、ずぼん!と足入れをするからという説。明治初頭ま
で、両足を別々に包む衣服は股引きぐらいしかなく、少し太めに作られたズボンは、
「ずぼん」とはけるから。当たり前すぎて笑ってしまいそうだが、語源としては最も
有力。
 発音として最も近いのは、仏語のデュポン。しかし、デュポンは、スカートあるい
はペティコートを指す言葉である。デュポンがズボンになった。女服の呼称がどこで
どう間違えて男服を指す言葉になったのか。なんとも苦しいこじつけかも知れない。。
 服装のカジュアル化に伴い、女性のパンツ姿も当たり前になり、ズボンの呼び方も
スラックスやパンツの方が一般的になった。
 英国では、主にジャケットに対するズボンをトラウザーズと呼ぶので、テーラー用
語の表記としては用いられるが、会話的には、パンツとか組下が一般的。左右がある
から複数形で用いられるが、英国で単数のトラウザーは半ズボンの事を言う。英国的
ユーモアだ。