高倉健さん死去:「不器用な男」日本人の美学重ね
毎日新聞 2014年11月18日 11時53分(最終更新 11月18日 12時43分)
日本映画界最高の銀幕のスター、高倉健さんが10日、83年の生涯を閉じた。俳優の名前で多くの観客を映画館に呼べる数少ない俳優だった。晩年まで、私生活をほとんど公にすることはなく、役柄のイメージの高倉健を観客の心に残したまま旅だった。「健さん」として親しまれてきたのは、役の中での男の生きざまであり、高倉さん自身の生き方も重なって多くのファンが魅了された。日本映画は長年映画界をけん引してきた大きな柱を失った。
高倉さんが人気を不動にしたのは任俠(にんきょう)映画。1960年代に大人気となった「網走番外地」「日本俠客伝」シリーズなどは、学生運動に身を投じる若者らからも圧倒的な支持を得た。着流しのアウトローが逆境に耐えながらも復讐(ふくしゅう)を果たす物語に観客は熱狂した。多くを語らず、いざという時に体を張って、義理や人情を大事にする姿は、男っぽさの神髄と受け入れられた。
任俠映画の減少とともに、高倉さんは人間ドラマやアクション、大作へと出演映画のフィールドを広げた。ただ、過酷で暗い過去をひきずり、大きな重荷を背負って生きる役はその後もずっと続いた。青函トンネル開通に挑む男を演じた「海峡」(82年)、殺人事件を犯し逃亡しながらも母子家族の酪農を手伝う日本版「シェーン」といわれる「遥かなる山の呼び声」(80年)、引かれた女の元情夫が手配中の男と知り職務を遂行する刑事役の「駅 STATION」(81年)など。
武骨で口数は少ないが、人の情を大事にする素朴な男。「幸福の黄色いハンカチ」はその頂点の作品といっていいだろう。愚直なまでのきまじめさ、人生を常に遠回りしてしまい、必死に生きていても損な役回りになってしまう男の姿に、観客は共感と人生のつらさ、悲しみを感じた。
最新作「あなたへ」(2012年)がコンビを組んで20作目となり、高倉さんが最も信頼を寄せる降旗康男監督は同作で「健さんも年を取り、過去の重荷から解放してあげたかった」と話した。さらに、「普通の俳優は努力して人物のキャラクターに入っていくが、健さんはキャラクターを自分の中に入れてしまう。だから、相手とふれあうことでしか芝居が出てこない」。自身を「不器用」と言うのは「それを自認しているからだ」と説明した。