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【指定廃棄物問題】なぜ、福島集約なのか(11月12日)

 東京電力福島第一原発事故で発生した放射性物質を含む指定廃棄物の最終処分場建設をめぐり、廃棄物を本県に集めて処分する「福島集約論」がくすぶっている。建設候補地を抱える栃木県塩谷町の町長は今月に入り、指定廃棄物は福島第一原発周辺で集約・処分すべきと提案した。同じ被災県にもかかわらず、なぜ、分断を助長するような言動がなされるのか。ため息が出る。
 原発事故に伴って発生した放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレルを超える指定廃棄物は本県をはじめ12都県で合わせて14万6000トンに上る。政府は平成23年11月に発生都県ごとに処理する基本方針を閣議決定した。宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の5県には国がそれぞれ最終処分場を新設する計画になっているが、地元の反発などで思うように進んでいないのが現状だ。
 宮城県は今夏、候補地絞り込みに向けた国の詳細調査の受け入れを表明した。候補地を抱える3市町とも建設に反対しており、首長の一人は「東京電力原発(の敷地)に保管するしかない」と述べ、県外で処分するよう主張した。関係者からは国の方針を変更し、本県での処分を求める声が上がっているという。栃木県の首長も含め、それぞれ事情があるとしても、少し冷静に考えてみてほしい。
 本県でも事故後、除染廃棄物の処理の在り方や中間貯蔵施設の建設をめぐり、議論がなされた。「甚大な被害を受けた地域に、さらに負担を強いるのか」「東電の電力消費地で処分するのが筋だ」…。意見集約は難航し、県が中間貯蔵施設の建設受け入れを国に伝えたのは9月1日だ。感情論や建前論だけでは何も変わらない。復旧・復興に向けて進むには自前で処理するしかない。「苦渋の決断」(佐藤雄平知事)の背景にはそんな県民の思いがある。
 最終処分場の候補地を抱える地域には風評被害や環境汚染、補償などについて不安や不満があるようだ。それは本県も同様だ。共通の課題があるならば、関係する自治体が手を組んで国や東電に必要な措置や対応を求めていくべきだ。国にとって複数の自治体に声を上げられるほど嫌なことはあるまい。逆に被災地が対立、分断されてしまうと国への圧力も弱まる。
 望月義夫環境相は7日の記者会見で「福島県にこれ以上の負担をかけることは理解が得られない」と述べ、現行方針を見直す考えがないことを強調した。当然だ。193万人余りが暮らす本県はごみ箱ではない。(早川 正也)

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