季節柄大変寒くなってまいりました、本日は釣り場と幽霊についてお話をして参ります。わが国は面積あたりの人口密度が高く、皆様に少しでも縮まっていただこうなどと企てている次第で、怖いお話を・・・
浪士様は現実的な人ですから、釣り場に出てまいります幽霊にはいまだ遭遇なされた事が御座いません。幽霊などと言いますものは怖いようで優しいところもありまして、手加減をして人間を脅かしてまいります。
優しいといいますのは、大概が驚かすだけで命まで獲ろうとはいたしません。驚いた人様が慌てて転んだ際に擦り傷を負うぐらいのことでして、命に別状があるわけではありません。そうです幽霊が人を殺めたとは聞いた事が御座いません。
釣りを長く致しておりますと、あちこちで怖い目に合った話を聞きます。浪士様は夜は釣りをなさいません。釣れるからと何が悲しくてそこまで、それでなくとも昼間でも怪しまれるのですから、夜ならなおさら世間様から疑いの眼で見られるのは、たまらないからです。
日に焼けた顔で、釣りの工夫につながるものはないかと日夜、ぎょろぎょろ殺気立った目で見渡しておりますから、怪しさにかけては、誰も前は歩かせないのです。
これは怪しゅう御座います。
お話を伺っても実体験が無いものですから、話半分と言うところですが、そこはそれ諸兄に注意していただくためにも書き記しておきましょう。
佐藤さんは若い頃からの釣り好きで、投げ釣りが本職なのですが、磯に渡ってメバルなどを探るのも好きな方です。
その佐藤さん渡船の磯渡しで友人と夜釣りに出かけてまいります。釣り場は砂浜をはさんで両端に竿を出すに丁度よい岩場があったそうな。二人ともそれぞれ分かれて釣ることになり両端の岩場に揚がって参ります。
幽霊などといいますものは、大抵が夜中の人目に付かない場所と時間を選んで出てくると言うのが定説でして、この回もその様になりました。へたに日中出てまいりまして捕まりでもしたら、見世物にされた挙句、放送局のレポーターなどに追い回されたのではかないませんから、幽霊のほうもそこは良くわきまえております。
さて夜中、佐藤さんが連れのほうを見ると盛んに釣って居ります。頭のライトが良く動いております。そこに夜目ですからはっきり分かりませんが、白っぽいウエアに身を包んだ釣り人が現れ、連れの方となにやら話し始めております。
そのうち一緒に釣る話がまとまったのか、明け方近くまで二つのライトが動いております。時折話し声など聞こえますから折り合いは付いている事です。
朝方、渡船が迎えに来る時間が近くなりまして、仕舞い支度をしております。
「おいどうだった?」
「釣れなんだ、そっちはどうね?」
「だめだねえ、ところで昨日の晩の後から来た釣り師は誰だい?釣ったかな?」
「何のこった、こっちはずっと一人だったぞ!お前こそ白っぽい服の釣り師と一緒だったじゃあねえか、随分と話してたじゃあねえか」
渡船が来るまで二人とも、砂浜の真ん中で背中合わせで固まっていたと言う事です。
だからね、幽霊が怖いったって、悪さをして後ろめたい事が有るから怖いんで、清廉潔白なら何が出ようと恐れる事はありません。
大体幽霊は恨みを持った人間が化けるもので、動物が化けたら化け物だ。ほんとに怖いのは、教えましょうか?
それは生身の人間だ!
浪士様などは、幽霊に脅される心当たりがいっぱいあるから・・・・
夜釣りなどだれが行くものか!