キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

ガイブン初心者にオススメする海外文学・文庫編

秋の夜長に「読みたい本の雰囲気を伝えてもらったら、それっぽい海外文学をおススメする」企画をTwitterでやってみた。

これまで話したことがない人からのリクエストはたいへん楽しく、とくに「あまり海外小説を読まないけれど興味はある」人たちからのリクエストには感動した。「こういう雰囲気の本を求めている人がいる」という発見は、氷河ビールのように新鮮であった。


というわけで、海外文学/世界文学にほんのり興味があるけれど、あまり読んだことがない人たちに紹介できる「オススメの海外文学・入門編」をつくってみた。ちょっとでも興味がある人たちがもっと増えてくれればうれしいし、出版社だって売り上げがあがれば良い作品をもりもり出してくれるにちがいない。ノーモア絶版。『夜みだ』はまだですか。


今回のリストは、ガイブン「早い・安い・うまい」で選んだ。

  • すぐに手に入る(絶版でない)
  • 文庫本(安い)
  • 日本語として読みやすい
  • 長すぎない
  • 本ブログで☆4〜5をつけた(わたしが好きな本)


 

母は狂信者

オレンジだけが果物じゃない (白水Uブックス176)

オレンジだけが果物じゃない (白水Uブックス176)

イギリス文学。母親は熱心な狂信者で、主人公の少女は母から「お前は伝道師になる定めの選ばれた子。世界を救え」と教えられて育つ——このぶっとび設定もさることながら、さらに驚きなのが、この作品は著者の半自伝であること。愉快だが悲しい話でもあるので、ちょっと重めの話を読みたい人向け。

冬の追憶

アメリカ文学。「風の町」シカゴをめぐる短編集。透明な冬の描写と、ときに切なくときに暖かい人間描写がすばらしい。翻訳者の柴田元幸氏は「読むより翻訳する方が早い」という伝説を持つメカ教授で、全盛期には初号から3号までいたと言われている。日本語としての読みやすさを重視するなら、まずは「柴田」ブランドを探してみれば間違いなし。

 

珈琲も供述もあの娘も、すべては鱒なのだ

アメリカの鱒釣り (新潮文庫)

アメリカの鱒釣り (新潮文庫)

アメリカ文学。あまりの翻訳のうまさに本国アメリカよりファンが増えたという伝説を持つブローティガン×藤本和子の名コンビ。ひたすらアメリカのあらゆるものを「鱒釣り」で語るというオフビートなユーモアが魅力。ストーリーはあってないようなものなので、テクストに酔いしれたい人向け。「ヴァーモントでお婆さんを鱒のいる小川と見まちがえ、謝罪するはめになったのだ」——最高。

 

失って失って、最後に残るものは

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

アメリカ文学。閉鎖された町という絶望的な状況でサバイブする、いわゆる流行の「絶望もの」。絶望系のアニメが好きな人はきっと好き。ポール・オースターは煙にまく作品が多いため、ガイブン入門にそれほど向いているとは思わないが、なぜかみんな最初のほうで読む不思議。本書は比較的、ストーリーが最初から最後までしっかりしており、とくに最後の数文で一気に収束するところがすばらしい。

 

書物の形をした蜃気楼

見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

イタリア文学。マルコ・ポーロが皇帝チンギス・ハーンに、ありえない夢のような架空の都市の話を次々と語り出す。都市の説明がそれぞれ1〜2ページずつで、ベッドでごろごろしながら寝る前に少しずつ読めるのがよい。うすぼんやりとした幻影のような、蜃気楼のような雰囲気が魅力。こういうホラ話をゆるりと語れる人間になりたい。

  • ストーリー性:☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆ 明るさ:☆☆☆ 異国度:☆☆☆☆☆ オススメ度:☆☆☆☆

 

死んでしまった君と食べるごはんは、やっぱりおいしかった

レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

イタリア文学。愛しているよタブッキ。毎年7月の終わりに読み返す希有な1冊。死んでしまった人に会いにいって、ゆるりとごはんを食べて帰るだけの1日。まったくふつうに死者と話をして、過去のことを語り、じゃあまた、と別れるこの抒情!愛しているよタブッキ(2回目)。

 

影の中の一つの星

夜間飛行 (新潮文庫)

夜間飛行 (新潮文庫)

フランス文学。青い鉱石のような美しさ、訳文の美しさが絶品。『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」の歌詞そのままの世界。ちなみに表紙はみんな大好きな宮崎駿が書いている。

 

ぼくの鼻がぼくより出世してる件

外套・鼻 (岩波文庫)

外套・鼻 (岩波文庫)

ロシア文学。100年以上も前のロシアで、こんなぶっとんだ傑作がうまれたのは驚嘆すべきことである。とりあえず「鼻」を読もう。ある日、自分の鼻がひとり立ちしていて、しかも自分より出世していた男の話。鼻が歩いていたり、秘書と話していたり、自分の鼻に嫉妬したり。

 

黒歴史の扉をこじあける

賭博者 (新潮文庫)

賭博者 (新潮文庫)

ロシア文学。「栄えある中二病」小説としてトップ陣営を走り続ける。誰もが持つ黒歴史の扉を哄笑してぶちあけてくるドストの手腕がすごすぎて、手が震える。とりあえずウォッカを飲むんだ。

 

人生は意図せず始められてしまった実験旅行である

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)

ポルトガル文学。ポルトガルでは国民的詩人として、このチョビひげおじさんがとても愛されている(銅像も博物館もカフェもある)。憂鬱で、しかしユーモアがほの見える鮮烈な言葉の連なりに、中毒症状が出るひと続出中。ペソアTwitterをやっていたら、ぜったい無言RTが続出する。

  • ストーリー性:☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆☆ 明るさ:☆☆☆ Twitter度:☆☆☆☆ オススメ度:☆☆☆☆

『不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア - キリキリソテーにうってつけの日

 

ぬくぬくスープ文学

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

バベットの晩餐会 (ちくま文庫)

北欧(デンマーク)文学。ごはんの温かさと人間の心の温かさの境界をなくしてしまった、驚異的な小説。人間関係に疲れている人、心が冷えている人は温かいスープとバベットの晩餐会が必要なのだ。

 

ぞっとするほど緻密な超絶技巧

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

南米(コロンビア)文学。「本当にあったありえない事件」を再現したマルケスは、そのあまりのリアルさに「事件に関わったんじゃないか」と疑われたという。予告された殺人はとめられる、殺人者はとめてほしかった、誰もがとめると思っていた、しかし人は殺された。なぜ?「社会」「人間関係」の動きをぞっとするほど精密に組み上げた超絶技巧。爆発して収束するラスト。グロいので(青い内蔵が飛び出たりする)、ミステリーや犯罪ものが大丈夫な人に。

 

傑作短編といえばこれ

南米(アルゼンチン)文学。カタブツの文学おじさんたちでさえ絶賛する傑作短編「南部高速道路」が収録されている。とりあえず言いたいことは
、「南部高速道路」を読んでほしい、ということだけだ。車の渋滞にはまったとき、必ず思い出すことになるだろう。「ざわ……ざわ……」となる驚異的な語りを駆使する、謎のスタイリッシュさ作家。ほか、不気味な「占拠された屋敷」もオススメ。


まとめ

リクエスト企画で多かったのは「美しい小説」「あたたかい小説」「夜のような小説」「水のような小説」「ワンダーランドを見せてくれる文学」。そうした人たちにオススメしたのがこれらの小説だった。「新潮文庫の100冊」に出てくるような、いわゆる「古典」「名作」と呼ばれるものがない。これらは「外した」というよりも「外れた」のだった。

そういえばわたしは「白水uブックス」シリーズから海外文学の世界へはいったのだった。新潮文庫はどれも古くさい感じがして、よくわからなかったから。なので今回の選書も、昔のわたしの記憶がたぶんにはいりこんでいる。


「ハードカバーどんとこい」「もっと強烈なのがほしい」という人は「個人ベスト」をどうぞ。いかれた小説やブラックユーモア小説、ぶんなぐられるような劇薬小説など、世界の珍品(でも傑作)を集めている。


個別リクエストは、魅惑のえさタイム以外ならだいたい大丈夫だと思うので、Twitter上でどうぞ。

 
 

これまでにつくった海外文学リスト






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頭の狂った友だちが書いている、「3冊で広げる世界」シリーズ。

岩波文庫に特化した良まとめ。