7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質で2四半期続けてマイナス成長となった。先週末時点ですべてプラス成長としていた民間調査機関の予測とかけ離れ、市場に与えた影響は大きかった。消費税率を上げた後の個人消費は想定よりも冷え込み、在庫の動きもGDP統計をかく乱しており、景気の基調を読みにくくしている。
「想定を大きく下回る弱い結果」(大和総研の熊谷亮丸氏)、「2四半期続けてのマイナス成長は衝撃的」(農林中金総合研究所の南武志氏)。GDP公表後、民間エコノミストは一様に驚きの表情を隠せなかった。増税前の駆け込み需要の反動減が強く出る4~6月期よりは、7~9月期は良くなるはず。こんなエコノミストの常識をGDP速報値は覆した。誤算は在庫、設備投資、消費の3つだ。
GDP統計ならではの下振れ要因となったのが在庫だ。GDP全体の伸び率は在庫の取り崩しだけで前期比0.6ポイントも下がった。
企業が出荷の落ち込みに応じて生産を抑えれば在庫は減り、抑えなければ増える。ただ、理由を問わず、原則として前期より在庫が大幅に増えればGDPを押し上げ、前期より大幅に減ればGDPを押し下げる。仮に在庫変動がなかったとすると、実質成長率は4~6月期は年率マイナス12.1%と速報値(マイナス7.3%)より悪かった。逆に7~9月期はプラス1.0%だった。
鉱工業生産統計の在庫指数は9月末に6月末と比べて1.1%上がり、多くのエコノミストは在庫の取り崩しがそれほど進んでいないと見ていた。内閣府はGDP速報では製品在庫を91品目別に計算し、統計が出そろっていない原材料や仕掛かり品は過去のデータから予測する。これを民間エコノミストが正確に予測するのは難しかった。
7~9月期に減ったとはいえ在庫の水準はまだ高い。10~12月期も在庫の調整に時間がかかれば、「生産の回復が一段と遅れるリスクはある」(第一生命経済研究所の新家義貴氏)。
設備投資は民間が前期比1%程度の増加と見ていたが、結果は0.2%減だった。日銀短観などで企業が強気の設備投資計画を保っていることを考えると、「想定外」の一つだ。
企業がどれだけの設備投資をしたかが分かる法人企業統計は7~9月分が12月1日の公表で、GDP速報値には間に合わない。このため速報値では鉱工業品のうち設備投資に使われる製品の出荷の指標などを使って推計する。
設備投資の一致指標とされる輸送機械を除く資本財出荷は7~9月に前期比0.1%増。この指標だけ見れば設備投資は横ばいだが、内閣府は品目ごとに細かく推計をする。企業の計画から考えると2四半期続けて設備投資が減るとは考えにくい。こんな考えから設備投資が増加と見たエコノミストは多かった。このため法人企業統計を反映して推計されるGDP改定値では「設備投資は上方修正される可能性がある」(熊谷氏)との見方は多い。
消費は自動車や家電などの耐久消費財が実質の前期比で4.5%減った。増税直後の4~6月期の18.8%減が底かと思われたが、さらに下振れした。内閣府が11月上旬にGDPと同じ手法で推計した消費総合指数は7~9月期に前期比0.7%の上昇。結果は0.4%増だ。日本経済研究センターの竹内淳氏は「想定外であり、駆け込み需要の反動減がぬぐいきれていない印象」と話す。
日銀が10月末に見直した14年度の実質成長率見通しは0.5%だった。民間調査機関12社は全社が14年度はマイナス成長との予想に転じている。
■出荷・在庫バランス 出荷の前年同月比増減から在庫の前年同月比増減を差し引いた指標で、製造業での在庫調整圧力を示す。同指標が示す振幅は、景気循環の動きに沿うことが多い。
製品の売れ行きが落ちれば、出荷の伸びを上回って在庫が積み上がり、出荷・在庫バランスはマイナス幅が拡大する。近い将来、生産活動を落として在庫を減らす調整がなされ、景気が低迷する。逆に企業が想定する以上に製品が売れれば、在庫の伸びを上回って出荷が増えるため、出荷・在庫バランスはプラス幅が拡大する。企業は増産に走るので景気は改善する。
GDP、マイナス成長、日銀