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 1日22人が自殺している―。

 11月11日の米ベテランズデー(復員軍人の日)に合わせて、反戦イラク帰還兵の会が発表した復員軍人における自殺者数である。

 「復員軍人」というのは、日本では第2次世界大戦から戻った軍人を指すが、米国でいま注目されているのは2001年に始まったアフガニスタンでの戦争と03年から始まったイラク戦争から本国に戻った米兵たちを指す。

 22人という数字は過去2カ月の平均で、単純に計算すると1年に約8000人が自ら命を絶っていることになる。アフガニスタンとイラク両国で戦死した米兵は過去13年で約6800人なので、これと比べると、どれほど多くの若者が自殺しているかがわかる。

 多くの兵士たちは戦地で想像を絶するような試練を経験して帰国する。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患う帰還兵も多い。最近まで高校に通っていた普通の若者までも、従軍により生活環境が一変し、最悪の場合は自殺に追い込まれてしまう。

心を病んでも再びイラクへ

 今回、当欄で記すのは少しばかり憂鬱な内容である。けれども、それが米国の直面する戦争の現実だ。戦地に赴いた兵士たちが抱えるそれぞれの「戦後」と呼んでいいかもしれない。

 ワシントン州に住んでいたデリック・カークランドさんは高校卒業後、米陸軍に入隊。軍事訓練を受けた後、08年にイラクに派兵された。

 ある日、彼の所属する小隊が、テロリスト殲滅を目的とした掃討作戦をイラクの小村で行うことになった。カークランドさんは他の兵士たちと、ある民家のドアを打ち破った。侵入後、中にいたイラク人男性を撃った。イラク人男性は床に倒れたが、すぐに死亡したわけではない。

 小隊長がカークランドさんに命令した。
「そいつの胸を踏みつけろ。そうすれば出血が加速して早く絶命する」
「そんなことしなくとも彼は死にます。早く立ち去りましょう」
 反論したものの、カークランドさんは小隊長の命令に従わざるをなかった。
 この時の光景が脳裏から消えることはなかった。

 その後、米国への帰還を許可されたが、再びイラク行きを命じられる。彼はイラクの戦場で精神を病み、再び米国に戻って陸軍病院にしばらく入院した。その時医師が「自殺する危険性は低いので、小隊に戻るべき」との判断を下し、3度目のイラク行きとなった。

 小隊に戻ると、小隊長が「お前は弱虫だ。くそったれだ」と叱責。カークランドさんはイラクで何度か自殺未遂事件を起こした。それでも任期を終えてワシントン州の自宅に戻った。


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