今年7~9月期の日本経済は、消費増税の影響に直撃された4~6月期に続き…[続きを読む]
日本は宇宙政策の軸を安全保障に移したのだろうか。 新たな宇宙基本計画…
日本は宇宙政策の軸を安全保障に移したのだろうか。
新たな宇宙基本計画の素案にはそんな疑問がぬぐえない。
21日までのパブリックコメントのために内閣府が公表した素案には「安全保障」という言葉が頻出する。防衛白書と見まがうばかりである。「我が国の安全保障上の宇宙の重要性が著しく増大している」「宇宙システムの利用なしには、現代の安全保障は成り立たなくなってきて……」といった具合だ。
安倍首相は9月に、政権の安全保障政策を、年末をめどに新しい宇宙基本計画に十分反映させるよう指示した。
昨年1月にまとめた現行計画の期間は5年間。それを途中で打ち切り、2カ月の議論で安保重視に傾斜させるのは、あまりにも性急すぎる。
たしかに宇宙やサイバー空間への対処は、いまの安全保障の「急所」であり、研究が必要な分野だろう。07年の中国の衛星破壊実験は米国に大きな衝撃を与えた。宇宙ゴミの監視・除去など各国が連携して取り組むべき課題も少なくない。
だとしても、科学技術の分野が主導してきた宇宙政策を一気に安保主導に変えてしまうような計画には危うさがある。
日本は1969年の国会決議で宇宙の平和利用を定め、自衛隊の衛星利用を制限してきた。その後、08年の宇宙基本法制定で安保分野に道を開き、再改定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)も宇宙での協力強化をうたう見通しだ。
すでに防衛省は、自衛隊に宇宙監視の専門部隊をつくる方向で動き始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA〈ジャクサ〉)の監視業務を自衛隊に移す計画である。
安保への流れに加え、秘密保持が強調されれば、宇宙に関する情報の透明性が失われる恐れがある。また、日本版の全地球測位システム(GPS)に必要な「準天頂衛星」7機体制の確立や早期警戒衛星の検討などは将来の大幅な予算増につながり財政を圧迫しかねない。
一方で、目立つのは産業界への配慮だ。宇宙関連の投資を誘うため、現行の5年計画を10年計画に長期化し、官民合わせて5兆円の事業規模をめざすという。安保の「官需」を安定的に提供し、宇宙産業を活性化させる思惑があるのだろう。
そもそも日本が宇宙をめざすのは安保と経済のためなのか。科学技術の分野とのバランスは適正か。宇宙利用の国際的なルールづくりに、さらに力を注いではどうか。根本から議論し直すべきことが多い。
朝日新聞デジタルをフォローする
PR比べてお得!