今年7~9月期の日本経済は、消費増税の影響に直撃された4~6月期に続き、2四半期続けてマイナス成長だった。

 特に国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費が弱い。夏の天候不順の影響もあるだろうが、円安や消費増税に伴う物価の上昇に収入が追い付いていないことが響いている。

 サラリーマンの賃金は、上がり始めてはいる。賃金や雇用の増加が消費を促し、それが企業の業績と投資にはね返る好循環を掲げてきた政府は「もう少し時間が必要」と強調する。

 しかし、本当に「時差」なのか。好循環が軌道に乗り切れない背景には日本経済の構造変化があり、それが政府の「誤算」を招いてはいないか。

 「アベノミクス」で、円安と株高の基調は続いている。

 円安によって、日本経済の主力である輸出型製造業をはじめ企業の収益を支える。好業績で外国人投資家の資金を引きつけて株高をもたらし、経済全体の好転につなげていく――。政府の経済運営はそんな内容だ。

 確かに企業業績は好調だ。しかし、円安で増えるはずの輸出数量は伸び悩んでいる。海外への生産移転や一部商品で国際競争力を失ったことが指摘され、消費の不振もあって国内の生産や投資が勢いづかない。原材料を輸入に頼る例も多い中小企業からは「円安はマイナス」との悲鳴もあがっている。

 家計も同様だ。株価が上がっても、大半のサラリーマンは給料が安定して増えていかないと消費に踏み切れない。円安が一因の食料品や日用品の値上がりで財布のひもはしまりがちだ。

 どう所得を増やしていくか。

 まずは民間の取り組みがカギになる。多額の現預金をため込んでいる企業が少なくない一方、人手不足から女性や高齢者を雇い、非正社員を正社員に切り替える動きも目立つ。ヒトへの投資にアクセルを踏むことは、自社の発展に向けた合理的な経営判断のはずだ。

 そうした企業の動きを政府は再教育支援策などで後押ししてはどうか。経営者が歓迎する雇用分野の規制緩和に力を入れつつ賃金増へ圧力をかける「アメとムチ」には限界がある。

 安倍政権が検討する経済対策には、自治体による商品券配布への財政措置や燃料費の補助など、家計や中小企業への支援策が盛り込まれそうだ。

 しかし、目先の対策ばかりでは好循環はおぼつかない。社会保障を支えるのに不可欠な消費増税を先送りするなら、増税できる環境を整えねばならない。