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余命宣告と優しい嘘

余命宣告と優しい嘘

先日、札幌の病院でいとこの女性が亡くなった。
享年42歳。がん闘病の末に静かに息を引き取ったのだ。

実は、今年の8月に北海道へ帰省した時に、叔母から
「今年いっぱいはもたないと思う」と聞かされていた。

家族は迷った末、本人に告知はしないと決めていたようだ。
私は、ご家族の意思に従い、何も聞いていないふりを装った。

薬

 
10月のはじめ、街にそろそろ来年の手帳が並ぶ時期、
「お見舞いは何がいい?」と聞く私に、彼女は
2015年度の手帳を買ってきて欲しいと言った。

手帳を渡すと彼女は喜び、さっそく予定を書きこむ。

あと2か月しか生きられない彼女が、
嬉々として1年後、2年後の計画を立てる。
手帳はいろんな予定や希望で埋まっていった。

スタバに行く
大好きな○○を食べる
○○をやってみる
××を買いに行く

私はその姿を見ているのが辛く、そっと病室を後にした。
何か声をかけようと思ったが、何も言葉にならなかった。

「スタバに行く、大好きな○○を食べる」

どれも何てことない予定だ。
元気だったら今すぐにだってできることだ。

たくさんのお金もいらないし、大きな決心もいらない。
でも、これらのどれも実現することなく、静かに彼女は息を引き取った。

余命宣告されてから、2か月もたなかった。

手帳

 
それから少しして、叔母から彼女のことを聞いた。

自分の病気のことを知らないと思っていたのに
彼女はちゃんとエンディングノートを書いていたらしい。

エンディングノートとは、自分にもしものことがあった時のために、
残された家族が困らないように、伝えておきたいことをまとめておくノートのこと。

そのノートには、全てのモノのありかと、少しずつためていた貯金や株を誰にどのように贈与するか、几帳面な彼女らしい字で書かれていたという。
いつの間にか正式な遺言書も作っており、それもちゃんと弁護士さんに託されていたのだそうだ。

最期まで、周りに気を遣うひとだった。

ただ、家族を悲しませないため、本当は寿命のことを知っていたのに、
ずっとずっと「優しい嘘」をついて、知らないふりをしていたのだ。

たくさんの夢や希望を手帳に書き遺して、彼女はひとりで逝ってしまった。

東京湾のマジックアワー

 
そのとき、知人から紹介された記事の中のこの一文がふと私の頭に浮かんだ。

「生きているのは今だけで、いつか傷つくことさえも出来なくなる日が必ず訪れる。ー 生きることに理由は要らない。必要なのは衝動だけだ」

出典:引用 いばや通信ブログより

そこにはこう書いてあった。
 

『不安』や『恐れ』を言い訳にして、新しい一歩を踏み出すことを躊躇してしまってはいけない。何か新しいことをやる時に、行動するに足る理由を外部に求めてしまってはいけない。そんなものは必要ない。必要なのは「やりたいと思ったから」という衝動だけで、成功するか失敗するかなんてことはまるで重要ではないことだと私は思う。

そして何よりも重要なことは、私たちは遅かれ早かれ『(生きているのは今だけで)いつか成功も失敗も出来なくなる日が必ず訪れる』ということだ。人生は短い。人は必ず死ぬ。生きているのは今だけで、それなのにやりたいことを躊躇する理由なんて本当は何ひとつない。私はそう思っている。

やりたいことをやろう。やりたいと思ったことをやろう。
そこから栄光に続く道は生まれていくのだと思う。

 
いま、わたしは来年の手帳を前に、自分に問いかけている。

「本当にこれは必要か?本当にこれをやりたいか?」

誰にも褒められなくても、誰にいいと評価されなくても、それでも心から自分がやりたいと思うことなのか?と。

今まで死の寸前までいったことが4回ある私は、どこかで死を意識していながらも、それでも自分には、まだまだ時間があると思っていた。

あれは明日、これは来週、こっちは来年と、いろんなものを先送りしてきたけど、自分にその時間が残されているのかどうかは、誰にもわからない。

彼女の残された手帳を見て、激しくこう思った。

自分の「やりたい」をもっと大切にしよう。
自分の中の「違和感」にもっと耳を傾けよう。
「いつか」と自分に言い訳するのはやめよう。

出来ない理由を探すのも、わざと関心のないふりをするのもやめよう。
もっともっと自分の「内なる声」に耳を傾けていこう。

いつ自分の命が尽きても構わないと思えるような生き方をしよう。
目の前のことを、全力で大事にしよう。

ただ、やりたいからやる。

それだけでいいじゃないか、と。

坂爪圭吾さんの言葉を借りれば、

【生きているのは今だけで、
いつか傷つくことさえも出来なくなる日が必ず訪れる】

のだから。
 
 
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