2014-11-16
新マネタリストの新フィッシャー派的結論
経済 |
昨日紹介したDavid Andolfattoの論考は、最近彼がStephen Williamsonと共著した論文(スライド)が背景にあったようで、Williamsonが自ブログエントリでその論文の概要を紹介している*1。Williamsonによると、論文の結論は以下の通り。
- ゼロ金利下限はテイラールールに従う中央銀行の陥る政策の罠である。もし中央銀行が、低インフレと積極的に闘うことがゼロ金利下限に留まることを意味していると考えるならば、それは誤りである。ゼロ金利下限に留まると、中央銀行は恒久的にインフレ目標に届かないことを運命づけられる。
- もし名目金利がゼロでインフレが低ければ、インフレを恒久的に増やす唯一の方法は名目金利を恒久的に増やすことである。
これにコメント欄で共著者のAndolfattoが反応し、2番目の結論は財政側の適応[fiscal accommodation](リーパーの言葉を使うならば受動的財政政策[passive fiscal policy])が裏にあることを明記しないと誤解を招く恐れがある、と注意を促した*2。それに対しNick Roweが、「インフレを恒久的に増やす唯一の方法はM(貨幣)とB(国債)を恒久的に増刷し、その増刷分をBに支払われる名目金利を恒久的に増やすのに使う」という表現ではどうか、と横レスしたところ、Andolfattoは、Williamsonはそれに相当することをエントリの説明中では述べている、としてその解釈を肯った。
その後もRoweとAndolfattoはコメント欄でさらに議論を重ねているが、まず、Roweが論文のモデルの特性を以下のようにまとめた。
- 交換の媒介がMとBの2つある。交換の市場が2つあり、Mは両市場で使えるが、Bは2番目の市場でのみ使える。
- 「制約付き」均衡では、政府が固定された額のシニョリッジにこだわるために均衡が最適ではなくなる*3。
- MとBはいずれも流動性プレミアムを持つ。
- フリードマンルールではMとBも同じ率のリターンとなるはずだが、このモデルの「制約付き」均衡ではそうはならない。換言すれば、中央銀行はMに対しBよりも高い流動性プレミアムを与える。
その上でRoweが、なぜフリードマンルールが成立しないかについて疑問を投げ掛けたところ、Andolfattoが以下の点を指摘した。
- 「制約付き」均衡下で名目金利を上げるには、中銀が「公開市場操作」で債券の売りオペ(=表面上は金融引き締め)を行い、債券貨幣比率を恒久的に上昇させなくてはならない。同時に貨幣/債券の名目供給の伸び率が引き上げられ、減税も行われる。
- 中銀の債券の売りオペにより、市場2での債務制約が緩和され、その市場での消費は拡大する。市場1での消費は、選好が対数型ならば変化しないが、一般的には不定(=増加するかもしれないし減少するかもしれない):
- 結局、フリードマンルールに近い形で、金利上昇がGDPと厚生の増加をもたらす。
この回答を基に、Roweは論文のモデルについてさらに以下のように考察している。
- 「価格弾力性の低い商品の税率を高くし、より価格弾力的な商品の税率は低める」というラムゼイルールが働いているようだ。それは次善の理論とも整合的だ。
- そうしたラムゼイルールは、B/Pへの需要がM/Pへの需要より弾力的な場合に成立する。その弾力性の違いは上記のAndolfattoの回答にも含意されているが、ただ、そうなる理由が良く分からない。
- 財政当局は(M+B/(1+i))/Pを一定に保つ。そのため、中銀がiを0%以上に引き上げると、(M+B)/Pは増加し、買い物の総額も増加し、厚生は上昇する。しかしiを引き上げ過ぎた結果、Bに比べたMの購買力を減らしすぎると、厚生は減少する。
最後の点についてRoweは、フリードマンルールからの逸脱をもたらすにはあまりに弱い仮定ではないか、また債券が論文の一期間ではなく多期間、もしくは永久債だったら話はかなり違ってくるのではないか、と述べている。それに対しAndolfattoは同意する姿勢を見せているが、Williamsonは定性的な差は生じない、とRoweの懸念を一蹴している。
Roweは以上の考察をWCIブログエントリでもまとめているが、そこでWilliamson=Andolfatto論文の描く新フィッシャー派の世界をムガベ政権下のジンバブエに喩えている(=AK47を持った人が貨幣の発行量を決めると同時に、見返りに債券を中銀に渡し、物価が高くなると貨幣の増刷を要求する。中銀が金利を引き上げると債券を売って貨幣を流通から引き揚げることになるが、高金利を払うためにさらに貨幣を増刷しなくてはならない)。
*1:エントリの最初と最後には、新フィッシャー派[小生の表現を使えばフィッシャー式逆さ眼鏡派]の考えをけなしたクルーグマンの悪口が(例によって)ちりばめられている。
*2:その際、この記述は不必要に挑発的だ、という表現を使ったので、Williamsonの反発を招いている。
*3:この均衡についてWilliamsonのエントリ中では以下の3つの式で説明されている(記号は一部変更している)。
c = V+K
π = β[u'(V+K)/A] - 1
r = A/[βu'(V+K)] - 1
ここでcは消費、Vは統合政府の債務の実質価値、Kは信用限度額、πはインフレ率、βはディスカウント・ファクター、u'(V+K) は消費の限界効用、Aは労働供給の限界不効用(定数)、rは実質金利である。ゼロ金利下限にあるため、名目金利i=(1+π)(1+r)-1=ゼロとなる。
今は制約付き均衡を考えているため、財政当局がVを増やせば厚生利得が発生するがそうしない、と仮定する。その場合、u'(V+K)/Aは非効率性ウェッジとなる。これはゼロ金利下限の制約無し均衡下では1となる。
安全資産が少ないほど、即ち、V+Kが小さいほどインフレ率は高くなり、実質金利は低くなる。これは日本や米国で長期間のゼロ金利が続いても必ずしも完全なデフレが生じなかった理由の説明になっている、とWilliamsonは言う。
- 12 http://t.co/RsHAmQ8CLO
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