(2014年11月15/16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ニワトリが何の気なしに歩道をくちばしでつついている。工務店や自動車修理工場が立ち並ぶうらぶれた通りは、夜になると麻薬の売人がうろついて物騒だ。
メキシコシティの、1968年に警官隊が抗議行動の参加者を300人も銃で虐殺したトラテロルコ広場にほど近い、人々から無視されているこの界隈にはあきらめの雰囲気が漂っている。
うんざりしている国民、43人の学生殺害事件に激怒
「約束じゃ生きていけないよ」。タクシー運転手のファン・ロペスさんはこう語る。「また1968年みたいなことになる。あのときと同じ感じがする・・・みんなもう、うんざりしてるんだ」
9月26日に西部のゲレロ州イグアラ市で43人の学生が殺害されたと言われる事件――犯罪組織とつながりのある市長の指揮下にあって腐敗している警察が、学生たちを麻薬密売組織に引き渡して殺害させたとして非難を浴びている――のために、メキシコは暴力的な抗議行動が今にも広がりかねない状況になっている。
ろうそくの明かりで穏やかに死を悼むだけではもう済まなくなっている。
ここ数日は、教職員組合がアカプルコの道路や空港を封鎖したり、デモの参加者がゲレロ州政府や同州議会の建物、さらには連邦政府があるメキシコシティの国立宮殿の門に火を放ったりしている。
2年前に成立したエンリケ・ペニャニエト大統領の政権はこれまで、多方面から称賛された改革プログラムを自分の髪型と同じくらい完璧に実行してきたが、ここに来てスキャンダルに見舞われ、事態が政権の手に負えなくなりつつあるとの印象が強まっている。
大統領と中国企業の癒着疑惑も浮上
大統領は先日、中国企業主導の企業連合が唯一の応札者として先週落札した高速鉄道建設プロジェクトを巡る批判に屈し、36億ドルに達するこの契約を取り消した。間の悪いことに、大統領はこの決断を中国訪問の直前に下すこととなった。
また、この大失態の直後には、その企業連合のメンバーで有利な扱いを受けていた企業が建てた600万ドルの邸宅を、大統領夫人が所有していることも明るみに出た。