書名は『沖縄文化はどこから来たか』。本書の結論は「北から来た」である。良い意味で問題の書である。なぜなら、通説では琉球王国は内的発展によって成立したと考えられているからだ。
本書は、まず「グスク時代に何が起こったか」というテーマで考古学1名、日本語学2名、地理・民族学1名の計4名の研究者が報告する形で、自説のポイントを語る。異分野の研究者が、それぞれの最新の研究成果を披露する。これは「序にかえて」という位置づけで、その後に各自の研究論文が並ぶ。
さまざまな分野からの結論は、沖縄諸島以南のグスク時代(11〜12世紀)の開始には外的な衝撃が大きかったのではないかという点で、ほぼ一致。すなわち、従来の研究に再検討を迫る異議申し立ての書と言えよう。
考古学からは、奄美諸島の喜界島で発見された城久遺跡群(9〜12世紀)に、沖縄諸島のグスク時代が始まるより早い段階から九州地方の文物が大量に搬入されている事実を踏まえ、九州地方から人間集団が南漸した結果との見方が示される。
日本語学からは、沖縄の古謡集『おもろさうし』の対句部における単語をよく観察した結果、室町時代に用いられた単語を積極的に取り入れていることが判明。室町時代語と重なるという事実は、グスク時代、『おもろさうし』の編纂(へんさん)に大和の人間が深くかかわった証拠ではないか、と論じる。
もう一つは、日本語のハ行子音が宮古や八重山などの琉球方言でp音と対応しているのは、大和で古く文献時代以前にp音であった、その名残をとどめるものではなく、実は新しく生まれたp音と解する可能性もあると指摘し、琉球語の分岐が文献時代以前と考える説に疑問を投げかける。
民族学からはDNA資料等を考慮し総合的に判断すると、弥生時代より後の時代からグスク時代の初期の間に弥生人の形質を持つ人々が琉球祖語をもたらした可能性が大との大枠が提示される。
意欲的かつ挑戦的な書で、内容も多岐にわたるだけに、より一層の研究の深まりが期待される。
(間宮厚司・法政大学教授)
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