(2014年11月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
「一体やつらはどこにいるんだ?」 ダブリン北郊外の町ドナミードのトンレジー通りを車で走るデレク・バーンズさんは、どうやら獲物を見失ったようだ。獲物とは、水道メーターを設置するバン1台分の技術者だ。20分経ち、多くの袋小路に遭遇した後、探すのを諦めた。
「もういなくなったんだろう」。紛れもない勝利感を漂わせながら、彼はこう言った。「今日は戻ってこないさ」
2人の子を持つ36歳のシングルファーザーのバーンズさんは、11月半ば、小雨の降る、風の強いある朝にエアフィールド住宅地の入り口に集まった一握りの抗議者の1人だ。
彼らにとって、技術者と忌まわしい水道メーターが去ったことは、アイルランド国民は水にお金を払い始めるべきだという考え――今や正式な政府方針――に対する激しい反対運動におけるもう1つの小さな勝利だ。
水道がタダだったアイルランド、「水にお金は払わない!」
「ここはまっとうな労働者階級の住宅地、ケルトの虎が1度も来なかった地域だ」。ドナミードの代わり映えのしない通りを案内してくれたバーンズさんは、もう過去となったアイルランドの好況期に触れてこう語った。「この辺では誰も水にお金を払いませんよ」
この誓いの言葉は、アイルランドの老朽化した水道インフラの運営を地方自治体から引き継ぎ、数十億ユーロの費用がかかる近代化プログラムを監督する水道公社アイリッシュ・ウオーターの設立に反対するアイルランド各地の大勢の国民の共感を呼んでいる。
抗議活動にはダブリンやその他の場所での大規模デモも含まれ、水道料金の徴収を支持しているか否かにかかわらず、すべての政党が守勢に立たされることになった。
2008年以降、アイルランド国民は6年間の緊縮策に耐えてきた。公共支出の削減、最大13%に上る実質賃金のカット、増税、固定資産税、年金税、その他諸々の金銭的な罰――。その間、大した抗議はなかった。政治家にとって不可解なのは、なぜ水が国民をバリケード構築へ導く問題なのか、ということだ。