消費税増税後の2四半期連続でGDPがマイナス成長となり、アベノミクスの成果に黄色信号が灯ったとの声もあがっています。
株価が将来の経済状況を示すのと同じように、ビジネス書の傾向も社会の現状や見通しを示すと言われています。
今年刊行されたビジネス書のなかから、土井英司が「ビジネスブックマラソン」で紹介した5冊(+1冊)をえりすぐりました。
Contents
今年のベストマネー本、菅井敏之『お金が貯まるのは、どっち!?』
すでにアベノミクスの減速を予想していたのではと思わせるのが、今年のお金本で売れ行きNo1の菅井敏之『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム、1404円)です。、今年3月に刊行され現在23万部を記録しています。
「秒速で1億」稼ぐという一獲千金のものではなく、三井銀行(現・三井住友銀行)の金沢八景支店長、中野支店長を経て、アパート経営で起業した著者が、お金が貯まる考え方を示した一冊です。
著者の菅井さんは現在、6棟の物件のオーナーとして、年間7000万円の不動産収入を得ているようですが、本書ではいかにお金を貯めるか、いかに金融機関の信用を得て、レバレッジを効かせるか、銀行出身者ならではの具体的ノウハウが書かれています。
信用金庫で口座を開け
冒頭、いきなり心を掴まれたのは、「メガバンクと信用金庫、口座を開くならどっち?」という質問。
おそらくほとんどのサラリーマンは、三井住友銀行やみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行などのメガバンクに口座を持っていると思いますが、この質問の正解は「信用金庫」。
<500万円の預金があったとしても、メガバンクではまったく相手にされませんが、信用金庫なら「上客」として扱ってくれる>というのが理由だそうです。
さらに、著者に言わせれば、<将来お金を借りる予定の銀行に預金しなさい>というのが、口座を開く際の基準。
なんとなく「メガバンク」を選んでいる人。この人たちが、もっともお金を増やせない人です
銀行はお金をおろす場所ではない(中略)銀行は、お金を借りる場所です
だったら、庶民にはなかなか貸してくれないメガバンクより、信用金庫の方がいいというわけです。 さらに、おなじ500万円の貯金でも、コツコツ10年かけて貯めるのと、一括で振り込まれた500万円とでは、銀行の評価は違うのだそうです。
貯蓄のためのTips
本書の命題のお金を貯める基本原理は、<無理なく貯金するためには、手取り収入の15~20%くらいが妥当>。天引きの貯蓄が最強と言われて久しいですが、この数字を念頭にしたいですね。
貯金の具体的な方法として、
昼食代、日用品代、飲み代、書籍代、光熱費、車代など、項目別に箱をつくります。自分のお金の使い方を思い浮かべ、どんな項目をつくるか考えてみてください。次に、この箱を自宅の目立つ場所に、置いておきます
と提唱。
これは無料資産管理アプリのマネーフォワードなどを使っている人には取り入れやすい方法です。
本書にはほかにも、「お金が増えるのは持ち家派? 賃貸派?」、「クレジットカードを持つなら2枚? 4枚?」など、クイズがいくつか用意されており、タイトル通り、どっちがお金が貯まるのか、その答えと理由が示されています。
不動産の資産作り
著者は、不動産で資産を作った人ですから<住んでいたマンションを人に貸し、新たにマンションを購入して、家賃収入でそのローンをまかなっていけば、1円も使わずに2つのマンションが手に入ります>という秘策も紹介してくれます。 ただ、どの不動産でもいいわけではありません。著者の以下のポイントは参考になります。
◆物件選び3つのポイント
1.とことん「いい立地」にこだわる
2.物件価格は、毎月の賃貸料の200倍を目安にする
3.住宅ローンの支払い額を、手取り収入の25%以内に抑える
歴史のある地域は家賃の相場が下がらない
住宅ローンを組むと、購入物件そのものが担保になります。まだ返していないのに、資産が増えるわけです。<ただし担保価格は、だいたい購入金額の70%程度になります>ということはお忘れなく。
クレジットカードの作りすぎはもったいない
また、クレジットカードの場合は作れば作るほど特典が増えるような気がしますが、答えは。
カードの枚数が多ければ多いほど、1枚のキャッシング限度額は少なくなる。カード会社からすれば、あなたの信用が低い、ということになるわけです。これだけを見ても、クレジットカードは、4枚より2枚のほうがいいとわかるでしょう
となります。
勉強熱心な方には基本事項ですが、これから蓄財優等生を目指すなら、読んでおきたい一冊です。
資産形成の王道『お金持ちになれる人』
つづいては、今年刊行ではなくロングセラーを紹介。
直木賞作家であり、評論家、コンサルタントとしても活躍、お金に関する多数の著書を持つ邱永漢氏が、蓄財の方法と、株、不動産とどう付き合うかを述べた一冊。
理論ばかりの最近の書籍と違って、本当にお金儲けに成功した人ならではの「勘所」を学べる書籍で、発行以来9年のロングセラーになっているのも納得できます。
本書の素晴らしいところは、(1)貯金(2)株(3)不動産という、資産形成における王道のステップを、わかりやすく論じた点。
種銭を作るための心構えや、商売の勘所、株は成長に賭け、不動産は利回りを見るという、著者ならではの視点が示されており、じつに有用な一冊です。
貯金についての心構えでは
お金持ちになりたかったら、百円玉どころか、一円玉が落ちているのを見ても黙って通りすぎてはいけません
お金のない人は収入のない人ではなくて、収入があってもすぐに使い果たしてしまう人のことです
「貧」という字を見てもわかるように、貝(お金のことです)を気前よくパッパと分けあたえると貧乏するのです
株については
私の場合、株式投資はお金儲けの手段であるよりは、自分の判断が正しかったかどうかを見る「産業界の覗き窓」であります
不動産では
本当は職住近接を選ぶ人の方が時間を有効に使うので、人より早く職住近接のロケーションに住めるようになるのです。ですから多くの人がそのことに気づくようになったら、一ぺん郊外に拡散した人口は再び都心部に戻ってきます
ロケーションの希少性と通勤時間はお金である
不動産とは身動きができなくなる財産
など、それぞれ名言が並びます。
さらに個人的に気になった部分を、一部紹介しておきましょう。
金ぐりに銀行の力を借りないですむほど資金に余裕ができれば、相互の姿勢は逆転します。しかし、それでも借入金にたよる場合の利息の支払いは経費として計上できるのに対して、自己資本に対する配当は所得税を支払わなければなりませんから、企業としてのコストはまるで違います。
日本の企業がいつまでたっても借金経営から脱けきれないままバブルに突っ込んだのは日本の税法のせいです失敗しているうちなら次々と職業を変えてもかまいませんが、大事業家になる人は一つの事業に成功したら、ほかの仕事はやめて、同じ仕事を次々と拡げて行きます。バカの一つ覚えというのは大事業家として成功した人にこそあてはまることなのです
付加価値はどこで生まれるかと言うと、人の欲しがる物をつくる過程で生まれます
平易な言葉で述べてはいるものの、キャリアやビジネス、借金、資産運用の本質を深く突いた内容で、じつに読み応えがあります。
まだ読んでいない方は、ぜひ買って読んでみてください。
他人が拾わないものを拾えるか『稼ぐ人はなぜ、1円玉を大事にするのか?』
上の本で、<お金持ちになりたかったら、百円玉どころか、一円玉が落ちているのを見ても黙って通りすぎてはいけません>という言葉を紹介しましたが、この本もタイトルでずばり同じことを言っています。
さて、みなさんは、道ばたに1円玉が落ちていたら、拾いますか?
土井は、迷わず拾うことにしています。
これは、お金が欲しいからではありません。元バイヤーとして、投資家として、ビジネスマンとして、他人が拾わないものを拾える人間でありたいからです。
土井は、経営者だった父を敬愛していますが、同じビジネスマンとして、2つ、尊敬できない点がありました。
ひとつは、当時中小メーカーだったとある企業の未上場株を買わず、上場後にずっと悔やんでいたこと。(父はその企業の製品・サービスを大絶賛していました)
もうひとつは、父の車の中に、いつも小銭が散乱していたことです。
他人が拾わないものを拾わなければ、ビジネスでは勝てない。また、お金というものは、集めないと力を発揮できない。
これは、ビジネスの大原則だと思いますが、実際にやれるかどうかは、普段の心構えとトレーニング次第。
そこで役立つのが、今年6月に刊行されたこの『稼ぐ人はなぜ、1円玉を大事にするのか?』です。
タイトルを一目見てわかるように、あの大ベストセラー『稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?』の続編です。
※参考:稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?
以前に、ビジネスブックマラソン(BBM)で、前作を「BBM史上、もっともおバカな本」としてご紹介しましたが、今回の本もロジックは完全無視。あくまでお金を大切にする「心構え」の一つとして、「参考までに」読んでおきたい一冊です。
・お金の入口はコントロールできない。よって出口に意識を向ける
・セルフイメージを高めてくれるものを買う
・「買えない」ではなく「買わない」と言う
・「赤字」のときこそ種まきをしよう
・タクシーの乗車賃を支払い、お釣りは一度しっかり受け取ります。そのあとにあらためて、「ほんのお礼の気持ちです」などと言いながら、そっと100円玉をトレーに乗せます
さまざまなお金の心構えが登場し、気が引き締まる内容です。
トピックが1円玉だけに、初めて前作を読んだ時ほどのインパクトはありませんが、興味深い内容です。ぜひチェックしてみてください。
貧困からの脱出!『貧困OLから資産6億をつかんだ「金持ち母さん」の方法』
離婚目前、乳児と幼児を抱えながら年収100万円、崖っぷち状態にあった著者の星野陽子さんが、資産6億円の不動産を得るまでのプロセスとノウハウを公開した今年4月に刊行された一冊。
結婚はリスクヘッジにならない!
著者は、本来、老後に備えて資産運用を学ぶべき女性が、お金のことを学んでいない事実に危機感を感じ、こう指摘しています。
<女性は男性より平均寿命が長く、年金は少ないという現実があります。つまり、男性より女性のほうが、老後の心配をしなくてはならないということです。厚生労働省によると、厚生年金の平均月額は、基礎年金も含んで男性は16万9000円ですが、女性は10万2000円です>
本書には、著者が結婚していたユダヤ人の家族から学んだ話、セミナーや体験から学んだお金のルールが書かれていますが、内容の多くは、数字のことがわからなくても理解できる、ごく基本的な話。
ある程度資産運用について学んだ方には、既知の内容が多いと思いますが、これから資産運用を始める初心者には、興味深い内容だと思います。
なかでも、お金に困る人の原因を語った以下の箇所は、共感できました。
<お金に困るというのは、「収入より多く使ってしまうこと」、「お金の知識がないこと」、「自らお金を遠ざけてしまう心理」、そして「低い自己評価」が主な原因なのです>
具体的投資ノウハウは書かれていませんが、著者の境遇やエピソード、具体的に何をしたかが書かれているので、読者が行動するきっかけになる一冊だと思います。
独身時代にしておくこと3つ
特に独身女性は次の事実と3つのポイントはおさえておいたらいかがでしょうか。
女性は男性より平均寿命が長く、年金は少ないという現実があります。つまり、男性より女性のほうが、老後の心配をしなくてはならないということです。厚生労働省によると、厚生年金の平均月額は、基礎年金も含んで男性は16万9000円ですが、女性は10万2000円です
◆独身時代に次の3つをしておくこと
(1)手に職をつけておく
(2)お金の勉強をしておく
(3)心理に通じる(本を読む。映画を観る。さまざまな人とつきあう)
『お金持ちになる黄金の羽根の拾い方』の著者、橘玲さんの2014年版マネー本
ベストセラー『お金持ちになる黄金の羽根の拾い方』の著者、橘玲さんが、資産運用の具体的テクニックを述べた一冊で今年5月に刊行されました。
もともとは『週刊文春』に2013年4月から14年1月まで連載した「臆病者のための資産運用入門」と、月刊『いきいき』に2012年1月号から13年8月号まで連載した「65歳からの投資家入門」をベースに加筆・修正したもので、株式投資から債券投資、不動産投資、保険まで、さまざまな金融商品を扱っています。
40歳年収600万円なら期待資産額は2400万円
冒頭に、『となりの億万長者』のトマス・スタンリー、ウィリアム・ダンコが示した「期待資産額」の概念を紹介し、読者がいくらの資産を持っていれば「蓄財優等生」か、数式を示しています。
期待資産額=年齢×年収/10
これによると、読者の年齢が40歳で年収600万円の場合、期待資産額は2400万円。
読者がこれを上回っていれば「蓄財優等生」、下回っていれば「蓄財劣等生」です。
本書では、この概念が示された後、われわれが持っている資産(資本)を最大化するための考え方が示されているのですが、これがフレームワークとして役立ちます。
まず、総資本というのは人的資本+金融資本でできているのですが、人的資本を最大化したければ、自己投資するか長く働くのが正解。
また、金融資本というのは金融資産+不動産+年金資産+相続財産でできており、本書ではこれらの詳細についても解説しています。
「資産運用4つの原則」「生命保険の正しい買い方」など、さまざまな原理・原則が出てきますが、そのいずれもウィットに富んでいて、楽しみながら読み進められます。
10%への消費税増税は延期されたが…『税務署が隠したい増税の正体』
そして最後は消費税増税の先送りに合わせて読みたい1冊です。
消費税8%のスタートに合わせて3月20日に刊行されました。
消費税なんて序の口
10%増税の先送りを表明して、安倍総理が衆院を解散しますが、とってもこわーいこの税金の本に<消費税率は10%で終わるわけではない。3回目、4回目の引き上げのときの国民に対する説明カードとして、将来を見据えた政策論として検討すべきだ>とあるように、「もう増税はないのか」と安心するのは早いと分かるでしょう。
著者は、光文社ペーパーバックスの創刊編集長で、現在はフリージャーナリストの山田順さん。山田さんが、念入りな取材をもとに、今後次々と課せられる「増税の正体」を明らかにしました。
消費税8%なんて序の口。
消費税の来年10%はまぬがれましたが、所得税、相続税、さらに各種控除の廃止まで、増税メニューが目白押しの「重税国家」日本。
そんな日本のこれから、そして富裕層、サラリーマン共にはめられそうな各種減税の本当の狙いまで、幅広く論じたのが、この新書です。
マイナンバー制度で資産内容は筒抜けになり、「資産フライト」への課税も強化、可能性としては否定し切れない消費税20%、死亡税、固定資産税増税の可能性まで、今後あり得る悲観シナリオを、現役の税務職員、税理士、不動産業者などへのインタビューから、徹底してあぶり出しています。
資産防衛のためのヒントもたくさん書かれており、納税者なら誰もが読んでおくべき一冊。
いやはや、想像していたとはいえ、恐ろしい時代がやってきそうです。
以上の6冊で、お金の貯め方、投資、貧困、税金と幅広いマネーの今をおさえることができます。
・土井英司+ビタミンBIZ編集部
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ビジネスブックマラソン編集長の土井英司さんのエリエス・ブックコンサルティングの年末恒例行事、年末スペシャルセミナーが今年も開催します。
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2014年 11月 17日
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2014年 11月 17日
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2014年 11月 18日
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