御嶽山「噴火の証言」

2014年9月27日午前11時52分ごろ
岐阜と長野の県境にある霊峰・御嶽山が噴火。
57人が死亡、6人の行方が今も分かっていません。
仲間と紅葉などを楽しんでいたときに突然噴火に襲われた状況を、
登山者たちは克明に記録していました。
危険のなかで撮影された映像や写真は、
そこで何が起きて、人々がどのように生還したかを伝える
貴重な「証言」となっています。

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※このサイトでは噴火の激しい様子を記録した動画などを掲載しています。 被害に遭われた方にはつらい映像も含まれているかも知れません。 私たちは今後の防災・減災に役立てる貴重な記録として掲載しました。 ※動画や静止画は、撮影者の承諾を得て掲載しています。 証言内容は噴火後にNHKが行った取材に基づいたものです。
3Dマップは国土地理院のデータを基に作成しました。
※噴石は東京大学地震研究所の調査で直径10cm以上の噴石跡が観測された範囲です。(半円状になっているのは南側が噴煙などで調査困難なためです)
※このサイトは音がでます。また最新ブラウザでの閲覧をおすすめいたします。
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ニュース解説「登山の安全をどう守る」

証言から伺える「最悪のタイミング」

御嶽山の噴火では57人が死亡、6人の行方が今も分かっていません(11月17日現在)。今回の噴火が、火山学上では比較的「小規模」だったとされているにもかかわらず、戦後最悪の火山災害となったのは、紅葉の最盛期、休日の昼前という、まさに多くの人が頂上付近にいた「最悪のタイミング」だったこと、そして突然に起きたためだと考えられます。

御嶽山は標高3,067メートルで、車やロープウェーで7合目付近まで行けるため初心者でも比較的登りやすく、「日本百名山」の中でも人気の山でした。

このサイトに掲載した多くの証言からも、その日は紅葉を眺めながら頂上を目指し、噴火が起きた昼前に頂上付近で昼食をとる予定の人が多かったことが伺えます。また噴火直後の映像や証言からは、噴煙は突然湧き上がり(音も聞こえなかったという人もいます)瞬く間に広がったあと、無数の噴石が多くの人を襲ったことも分かります。

「平常」のままだった警戒レベル

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今回の噴火は、気象庁の噴火警戒レベルで、特別な対応を求めない「レベル1(平常)」で起きました。

このグラフは、御嶽山で観測された地震の回数です。噴火前の9月10日ごろから山頂付近を震源とする火山性地震が増加し、14日ごろからは地下の火山活動を示すとされる体に感じない低周波地震も起きていました。

気象庁では火山活動の推移に注意を呼びかける「解説情報」を9月16日までに3回発表しましたが、警戒レベルは「1」のままでした。なぜ、上がらなかったのか。

“前兆現象にこだわりすぎた”

名古屋大学地震火山研究センターの山岡耕春教授は地震の回数が増え始めていた9月11日、気象庁から「噴火警戒レベルを引き上げない」というメールを受けました。

理由は、「火山性地震の規模や回数が、前回(平成19年)の噴火より少ない」「前回の噴火で見られた『地殻変動』が確認されなかった」ということでした。

これに対し山岡教授は、「マグマ噴火でなく水蒸気噴火の場合は地殻変動が観測されない可能性が高い」ことをメールで指摘しましたが、その後、火山性地震の回数が減っていることが報告されたため、教授も噴火が切迫している状況ではないと判断したということです。

しかし今回の噴火は、教授が指摘した「水蒸気噴火」でした。マグマの熱で地下水が熱せられて起きるもので、地殻変動や火山性微動が起きないこともあって兆候を確実にとらえられるほど研究が進んでおらず、予知は難しいとされています。

山岡教授は、「過去の観測データが少ないなかで、地殻変動などの前兆現象にこだわりすぎた面があった」と振り返り、「観測データだけでなく登山客などが多く訪れる時期かどうかも踏まえて防災対策を検討する必要がある」と指摘しています。

噴火の前にどのように登山者に分かりやすく警戒を呼びかければよいのか。気象庁も専門家を交えて情報伝達の在り方の検討を進めています。

シェルター設置は進むのか

御嶽山の噴火では、死亡が確認された57人のほとんどが、噴石が直撃したことによる「損傷死」でした。そのため近くで突然噴火が起きたときも噴石から身を守る「待避ごう」=いわゆる「シェルター」の必要性について、各地で検討が進んでいます。

(消防庁によるとシェルターとは、「鉄筋コンクリートや鉄筋鉄骨コンクリートからなり、噴石などから安全を確保できるもの」とされています)

NHKは、気象庁が24時間態勢で監視している全国の活火山のうち、御嶽山と小笠原諸島の硫黄島を除いた45の山について、ふもとの自治体などにシェルターの整備状況を調査しました。

「コスト」と「環境配慮」が設置の壁に

シェルターを設置しているのは阿蘇山や浅間山など11の火山にとどまり、設置されていないのは34の火山、約75%に上っていました。

そのひとつ、北海道中央部にある「十勝岳」について、上富良野町では4か所へのシェルターの設置を検討していますが、設置のハードルは高いのが現状です。

まず、山頂付近まで車が入れないためヘリコプターを使った資材の空輸が必要で、建設費用は数千万円に上る可能性があり、ひとつの自治体の予算では限界がありました。また十勝岳は国立公園の中でも開発が最も厳しく制限される「特別保護地区」にあり、シェルターを設置する場合には貴重な動植物の生態系や渓谷美などの景観を守る必要があるとされています。環境に配慮しながらどのようにシェルター設置を進めるかも課題です。

「頻度が少ない噴火災害のために、自治体が多額の費用を負担してシェルターを設置するのは難しい。国立公園のさまざまな規制もあり、国が率先して自治体を巻き込んで設置に取り組むべきだ」 火山の防災に詳しい阿蘇火山博物館の須藤靖明学術顧問はこう指摘しています。

国は、噴火などで著しい被害を受けるおそれがある全国8つの活火山の周辺を「避難施設緊急整備地域」に指定して関係する都道県に「避難施設」の整備計画を作ることを義務づけています。しかし関心の高い「シェルター」を作るかどうかはそれぞれの自治体の判断に委ねていました。今回の御嶽山の噴火を受けて、国は中央防災会議のワーキンググループで、「シェルター整備の在り方」などの防災対策について検討を進める計画です。

空前の「山ブーム」といわれるなかで、突然の噴火から登山者をどのように守っていくか。議論は始まったばかりです。