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「愛国のため日本車の代わりに国産車を買ったらクズだった!」中国全土でカーオーナーのデモ(高口)

2014年11月17日

「わしらは反日感情の高まりによって日本車を買うのを止めたんだ。それで全部品を国産化した「サンギター」の売り上げは大きく伸びて、国産車の欠陥が天下にさらされることになったんだ。」

と怒りをぶちまけたのは一汽フォルクスワーゲンの車「サギター」(世界ブランド名はジェッタ)を購入した中国人たち。欠陥を見逃したのは政府の不作為だとして国家品質監督検査検疫総局を告訴しました。「日本車やめたらクソ国産車にあたった?」「車がボロいから政府を訴える?」この不思議な事態の裏側には何があるのでしょうか?

 

My 2007 VW Jetta GLI
My 2007 VW Jetta GLI / Rojer


■騒ぎの経緯


問題の火種となったのは今年8月、中国で「うちのサギターの後部車軸に亀裂が入っているんだけど?」とのクレームが入ったため。ウォールストリートジャーナル日本語版が取り上げていますが、これがなかなか興味深い。「中国人は結構派手にぶつけてもちゃんと修理しないで乗り回しているので、他の部分も壊れてしまうんだよね」という予想外の故障原因が明らかになったという。


VWによると、中国で2カ月前、「サギター」の後車軸のトレーリングアームが破損するという苦情を受けて今回の調査が始まった。40台以上を点検した結果、どれも後部の衝突事故と関連があった。事故で車軸が損傷を受けたにもかかわらず運転を続けたため、サスペンションに使われるトレーリングアームが折れるに至ったという。

VWの広報担当者は「曲がった車軸のまま運転を継続すれば、サスペンションアームが破損する可能性がある」と述べた。その上で「問題になっているのは、欧州の運転手なら修理工場に持ち込むような極めて深刻な後部衝突だ。だが中国では持ち込まないのだ」と続けた。

VWは、車軸にもサスペンションアームにも異常はないと強調している。中国以外ではサスペンションアームが折れる事態は発生していないが、顧客に安心してもらえるよう点検に踏み切る。

(…)中国では、同国国営の第一汽車集団(FAWグループ)とともに、サギター56万3605台と、輸入したビートル1万7485台をリコールした。いずれも11年5月から14年5月に生産されたものだ。

VW、米中独で100万台以上をリコール」 ウォールストリートジャーナル日本語版、2014年10月18日


■大騒ぎの合理性

リコールしたならばそれで一件落着じゃないかと思ったら大間違い。リコールの主な目的は検査、つまり事故後も乗り回していないかをチェックする目的のようだ。一応部品を金属板で補強する措置をとったようだが、これがカーオーナーたちの不満を招いた。

かくしてオーナーたちは自らの権利を守るために実力行使にでる。全国60以上の都市でデモを展開したり、ネットに書き込みしたり……ついには政府の不作為だとして国家品質監督検査検疫総局を告訴するまでにいたり、中国メディアの注目を集めている。

この常軌を逸したかのように見える行動をどう理解すればいいのだろう?

第一に中国における企業の信頼性の低さだ。問題があってもリコールしないなどのごまかしは当たり前と言われており、今回の一汽フォルクスワーゲンの対応も果たして十分なものなのか疑心暗鬼になっている点。

第二に大声で騒げば勝算はあると考えられている点だ。「民草に優しい独裁政権」が売りの中国共産党はこの手の騒ぎになると、消費者の肩入れをする傾向が強い。「自分の懐が痛まないならば、民に優しい共産党をアピールしたほうが得だ」という算段だ。裁判したり消費者センターに申し立てするよりも、大騒ぎしたほうが勝算がある。少なくともなんらかの譲歩は企業から引き出せるはずというソロバンをはじいているわけだ。

そうした大騒ぎの中で出てきたロジックが冒頭のもの。

「わしらは反日感情の高まりによって日本車を買うのを止めたんだ。それで全部品を国産化した「サギター」の売り上げは大きく伸びて、国産車の欠陥が天下にさらされることになったんだ。」

愛国心を発露して国産車(といってもブランドはフォルクスワーゲンだが。一応全部品が中国製らしい)を買ったのにこんなことになってしまった……と同情をひくロジックである。


■見えない正解

これほどの騒ぎとなると、一汽フォルクスワーゲンがなんらかの譲歩をしなければならない可能性は高そうだ。中国でのビジネスのもっとも厄介な点が露出した事件と言えるのだろうか。

広報戦略的には速攻土下座がオススメだと言われるが、しかし簡単に譲歩すればカーオーナーたちはもっといけると騒ぎを続けるだろう。火が燃え広がらないうちに消化しつつ、しかしこちらの弱みは見せない。中国での商売はなかなかタフな交渉術を強いられる。

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