斎藤小鳥最強伝説 暁の聖女編 ~プリンセスは色々と悩んでいるようです~
そこで、本当にアリスが帰ろうとしたので、小鳥も立ち上がり、オーバーリアクション気味に大声を出した。
「待ってアリスちゃん! ウェイト! ウェイト、ウェイトウェイトウェイト!」
プクリと頬を膨らませたまま、アリスは振り向き、チラリと小鳥に視線を送る。
「帰るもん……私、お部屋に帰るもん……ピーマンはマジ無理……もうここにいるのヤダ……」
真珠の涙を浮かべるアリス。
可愛らしいモノには目が無い小鳥のテンションは、絶賛うなぎのぼり中だ。
――こんな愛らしい生き物を……このまま帰らせる訳にはいかないっ! 可愛いは正義……っ!
そして、と彼女は拳を握った。
――泣いている幼女……このままじゃ……私が苛めたみたいになっちゃう! 可愛い子に嫌われちゃうよ……それだけはダメっ!
「お願いだから帰らないでっ!」
「だから……帰るって言ってる……もん」
「いや、でも、突然私をこの場所に連れて来て、いきなり帰られたら私も困っちゃうよ。さっきの場所で私……人と待ち合わせしてたみたいなんだけど?」
「そんな事は知らないもん」
そこで、小鳥は真剣な表情を作ってアリスに問いかけた。
「ふーむ。でもさ、実際さ?」
「……何?」
「急に私に付き合えって言って連れて来た訳だよね? 結構強引だったよね? で、私に何のフォローも無しにいきなり帰るって……あのさ……アリスちゃんは何様のつもりなの? 」
「……もん」
小声だったために、小鳥は聞き取れない。そこで再度問いかけた。
「えっ? 何? だから何様のつもりなの?」
顔を真っ赤にしながら、アリスは口を開く。
「お子様のつもり……だもん」
そう言われてしまっては何も反論できない。
そして、小鳥は確信した。
――あ、この生物やっぱり超可愛い……と。
それはともかく、結構、アリスの部屋に帰ると言う意志は強情な感じだ。
実際、ここでアリスに帰られて、投げっぱなしジャーマン状態ではこれから先どうしていいかも分からないし、結構困るのも本当なのだ。
で、このままでは不味いと小鳥は脳内CPUを全力で作動させる。
そこで、何かを思いついた小鳥はポンと掌を叩いた。
「アリス様……お聞きください……」
「……にゅ?」
芝居がかった口調で小鳥は続ける。
「ピーマンは……私共のような下賤の民にとっても、いや……人類の敵なのでございます。このようなものは高貴で美麗な貴方様が口に入れるべきものでは――そもそもございません。だから――食べられないと言うその事実でショックを受ける道理はございません」
何故なら……と続けた。
「貴方様は……華麗にして美麗、秀麗にして壮麗な、完璧超人であられるのですから。さあ、機嫌を直してください。貴方様に暗い顔は似合いませぬ」
小鳥の思惑は単純だ。
まず、急な敬語でアリスの失われた自尊心をくすぐる。
なおかつ、ピーマンを食べられない事はそもそも恥ずべきことでは無い……そう諭しているのだ。
いや、正直な話、それはかなり無茶な言い分だろう。
実際問題、アリス自身もピーマンが食べられない事について、かなり思う所もあるらしく、だからこそ、口調を変える程のショックを受けているのだ。
そしてその元凶――煽ったのは小鳥自身だ。
これで思い直して機嫌を直す等、いくら子供と言えども、そんな分かりやすい性格の子がどこの世界にいると言うのか。
フルフルと肩を震わせて、アリスは言った。
「フハハ! そうじゃ、そのとおりじゃ! ピーマンを食べられぬとは言え、そのような事で、華麗にして美麗、秀麗にして壮麗な、完璧超人である……わらわのステータスに、一点の傷もつくはずがない!」
めっちゃ偉そうに笑っていた。
超分かりやすい性格だった。
うんと頷きあった二人。
そして、照れくさげにお互いに笑い合う。
アホの子同士、通じるモノがあったのだろう――そして二人は熱い握手を交わした。
再度、椅子に座り向かい合うと言う格好。
「って言うかアリスちゃん……?」
「じゃから、わらわはこの国の姫なのじゃ。ちゃん付けはよせと言うに」
「固い事は良いじゃない」
小鳥の言葉に、渋面を浮かべるアリスだったが、呆れたように笑った。
「何ていうか……フリーダム……じゃな、お主は。あいわかった。特別にそう呼称する事を許そう」
「でさでさ、なんで、あんなのと結婚する訳なの?」
少し遠い目で、アリスは溜息交じりに呟いた。
「わらわは……この国の姫での。立場という物があるのじゃ」
「んー。私、馬鹿だから良くわかんないんだけど……あのさ、えとさ。嫌なら……断れば良いと思うんだけどな」
「それでも、わらわは行かなくてはならぬ。父上がそう望むまれるのであれば、いや、東方の国に……未だ手つかずの、そして父上が異常な興味を示しておる……古代文明の遺跡があるのであれば……な」
「いや……だからさ……」
そこで、アリスは首を左右に振り、ゆっくりと天井を見上げた。
「お主……後宮に連れてこられてきたという事は……大方、貧乏貴族の娘であろう? ならば街の内壁部分しか見たことはあるまいに……見たことはあるのか? この国の外壁の外を」
「……外?」
コクリとアリスは頷いた。
「貧富の差――外壁から外側にはスラムが形成されていての。ボロを纏った子供たちが、食料としてネズミを奪い合うような惨状じゃ……わらわはかつて一度だけ……この目で見たことがある。それは酷いありさまじゃった」
「……?」
何かを思い出すように、アリスは苦虫を噛み潰したような表情を作った。
「わらわはインテリじゃ。教育は受けておる。この国の穀物生産は……ギリギリ足りているはずで、本来であれば民草が餓える事は無い……」
「でもさ、実際に……国民は餓えているって話なんだよね?」
「元々余剰生産力は無い所……民草に回るべき穀物が畜産に回っておるのじゃ。穀物から家畜の肉に変わる際に、カロリーベースでは、それはもう恐ろしい非効率が生じる。牛肉を一キログラム作るのに必要な穀物の量は10キログラム……そして、それは一部の上流階級の美食の為に…生産されておるのじゃ」
「……」
「全ては権力と富の集中が原因じゃ。後……重税もそうじゃな」
「みんなで普通の生活をすれば、少なくとも、それほど餓える事は無いって事?」
大きくアリスは頷き「けれど……」と続けた。
「……それを、父上や、この国の貴族に説いた所で、何の解決を図る事もできるとは思えぬ。民草など……連中にとっては、まさに草なのじゃ」
そして、とアリスは続けた。
「古代文明の叡智。オーバーテクノロジーの産物……そこにはありとあらゆる可能性が隠されておる。穀物や畜産の革新的な技術も……当然、含まれておろう。貧富の差がどうしようもないことならば……食料問題を筆頭に、この世界に生きる全てを人間の生活環境の底上げを行う。それがわらわが導いた王族たる者の務めじゃ」
「……?」
「だからこそ、わらわは……この身を父上に捧げる。そう決めたのじゃ。わらわ達の贅沢な暮らしを支える為に……民草が飢えて、そして死ぬのは忍びない……」
「でも、それでも……私、馬鹿だから良く分かんないんだけど……何て言っていいか分かんないんだけど……あのさ、そのさ。それでも嫌な事は嫌って言わなきゃ……」
「もう……全てが今更じゃ。この世は残酷に支配されておる……奇跡等は起きぬ。現に……今の、わらわには……この街の外側で起きようとしている惨劇を止める事はできぬのじゃからな?」
「惨劇?」
ああ、とアリスは頷いた。
「今年は、小麦が酷い不作でな……そこに追い打ちをかけて、父上は酷い重税を課したのじゃ」
「えと、あの……どういうこと?」
「民草の怒りは爆発寸前で……鍬を武器に持ち替えて、万を超える農民が、今現在……外壁を囲っておる」
「一揆って事?」
そして、と悲しい目でアリスは呟いた。
「事が始まってしまえば……恐らく……父上の親衛隊が派遣され、容赦の無い血の雨が降る。いや、むしろ見せしめ的に盛大にやるじゃろうな、あの男なら……」
「……」
「そう、再度言うが……奇跡は起きぬ。この世は全て、因果で結ばれておるのじゃ。筋道の無い所に、突然として現れる奇跡等は無い。じゃから……わらわには……この街の外側で起きようとしている惨劇を止める事はできぬ」
そして、続けた。
「じゃからこそ、わらわは……遮那王と婚姻を結び――東方の国の古代遺跡の、我が国による発掘、そして農耕の技術革新と言う因果を作るのじゃ」
何やら決死の表情にアリスに、小鳥は少しだけ気圧されたが……そこで小鳥は思った。
――うわー。同じアホの子だと思ってたけど……意外にこの子しっかりしてる……ってか……難しい話で本当に何が何やらサッパリ分かんない……と。
――奇跡等……起きる者では無い。
そう言い放ったアリスだったが、だがしかし、その時……彼女は気が付いていなかった。
いや、気が付けるはずも無いのだ。
奇跡を起こすミラクルガールが……そこにいる事に。
――そして、斎藤勇気と日暮武が……水面下でこの王国に迫っている事実に。
と、いう事で新連載始めました。
成り上がりダンジョンシーカー ~最弱だった俺が最強になって、奴等を肉塊に変えるまで~
http://ncode.syosetu.com/n0257cg/
是非とも、こちらの方も一読をお願いします。
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