太平洋クロマグロ 絶滅危惧種に指定11月17日 17時39分
世界の野生生物の専門家などで作るIUCN=国際自然保護連合は17日、太平洋クロマグロについて「絶滅する危険性が増大している」として新たに絶滅危惧種に指定し、今後、世界最大のクロマグロの消費国である日本に対して保護の強化を求める国際世論が高まることも予想されます。
これはスイスに本部があるIUCNの専門家グループが17日、世界の野生生物について絶滅する危険性を分類する「レッドリスト」で明らかにしたものです。
それによりますと、漁獲量が減少している太平洋クロマグロは、これまで絶滅の懸念が少ないとされてきましたが、今回、新たに「絶滅の危険性が増大している」として絶滅危惧種に引き上げました。
絶滅危惧種は絶滅の危険性が高い順に3段階に分かれていて、今回は3番目に分類されました。
太平洋クロマグロを絶滅危惧種に指定した理由についてIUCNは「アジアでは、すしや刺身向けとして漁業者に狙われている」と指摘し、特に成魚になる前の幼魚の乱獲によって繁殖の機会が奪われ、過去22年間で個体数が19%から33%減少したと推定しています。
レッドリストに漁獲や取り引きの禁止など法的な拘束力はないものの、今後、世界最大のクロマグロの消費国である日本に対して、保護の強化を求める国際世論が高まることも予想されます。
IUCNのレッドリストとは
IUCNによるレッドリストの発表は50年前に始まりました。
各国の専門家が協力して地球上のさまざまな動物や植物の生息状況を調べ、絶滅のリスクを毎年、評価していて、「すでに絶滅」から「情報不足」までの8つの段階に分類しています。
17日付けで発表された最新のレッドリストでは合わせて901種が上位2つの「すでに絶滅」、「野生の環境では絶滅」として掲載されているほか、2万2413種が絶滅危惧種に分類されています。
レッドリストには法的な拘束力はありませんが、各国の政府が自然保護を進めるうえで参考にしているほか、絶滅のおそれがある野生動物の国際的な取引を規制するワシントン条約で、規制対象とするかどうかを決めるための重要な資料となります。
水産資源保護巡る議論
今回の太平洋クロマグロなどは水産資源として、主に漁獲している各国の政府などによる国際的な枠組みで資源の管理が話し合われてきました。
しかし、このところ、野生生物の保護という点から国際機関の場で議論されるケースが目立っています。
4年前には結果的には否決されましたが、ワシントン条約の締結国会議に大西洋クロマグロの国際的な取り引きを全面的に禁止すべきだという提案が出されました。
また、ニホンウナギは、ことし6月にIUCNから絶滅危惧種に指定され、今後、ワシントン条約で国際的に規制が強化される可能性も出ています。
こうした相次ぐ動きに日本など漁業関係国は資源管理を強化しなければ場合によっては商業取引などが大きく規制される可能性があるとして危機感を強めています。
このため、太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際的な枠組みでは、ことし、漁獲枠の削減などを相次いで決めたほか、ニホンウナギではことし初めて漁獲している日本や中国などによる資源管理の枠組みが設けられ養殖に使う稚魚の削減などを申し合わせました。
ただ、野生生物としてマグロなどの保護を求める声は世界的に根強く、日本を含めた関係国には漁獲制限などに着実に取り組み、資源管理の実効性を示すことができるかがこれまで以上に問われているのが現状です。
漁業者「心配していたことが現実に」
クロマグロの漁獲量が全国で最も多い長崎県の、壱岐市の漁業者らで作る団体、「壱岐市マグロ資源を考える会」の中村稔会長は「依然はマグロの群れがいくつもあったが、ここ数年はマグロが全くいなくなった。非常に厳しい状態が続いていて、いつか絶滅危惧種になるかもしれないと心配していたが、現実にそうなってしまった」と話していました。
そのうえで、今後のクロマグロを巡る日本の資源管理について、「マグロは資源の回復が比較的早いと思うので、これから適切に管理すれば回復するのではないか。そのためにも国にはしっかりと規制を行ってほしい」と指摘していました。
壱岐市は日本海南西部などを産卵場とする太平洋クロマグロの回遊ルート上に位置する離島で、青森県大間町と並び「東の大間、西の壱岐」とも言われるほど、マグロの一本釣りが盛んな地域として知られています。