勇者イサギの魔王譚
作者:
みかみ てれん
Episode:7 喜びも悲しみも分かち合いながら
7-12 やさしさに包まれたなら
ミラージュの幻影の刃も、カラドボルグの切れ味も、
どちらも晶剣操作の付け焼き刃にしてはうまく働いてくれていた。
だが、それでもまだ足りぬ。
バハムルギュスの嵐のような槍術は慶喜を寄せつけなかった。
距離を離せば、即座に槍が投擲される。
数合打ち合い、致命傷を避けるのが精一杯である。
体術ですら慶喜は決して弱くはない。
磨き続けてきた剣術だけならばむしろ、あの廉造をも上回るかもしれない。
しかし、慶喜は一手ごとに追いつめられてゆく。
なによりも、格が違う。
せめて障壁が役に立てば、と思うけれど。
とっさに展開したものは全て断槍によって叩き潰された。
あまりにも強い。
付け入る隙がどこにもない。
「どうした魔王! アンリマンユはもっと手強かったぞ!」
「ぼくは……!」
「その程度か!? 小僧!
封術を用いながら、なぜ魔術を使わない!
儂を楽しませてみせろ!」
ミラージュの光刃は槍の一振りによって叩き折られる。
そのまま慶喜の手からミラージュが弾き飛ばされた。
慌ててカラドボルグを両手で構える。
だが、そこにブリューナクが放たれた。
かろうじて避けることができたのは、奇跡のようなものだった。
その軌道を追いかけるように、バハムルギュスが飛び込んできた。
上段から渾身の力で振り下ろされるブリューナク。
慶喜はカラドボルグを掲げるけれど。
重すぎる。
受け止めきれない。
雷鳴剣もまた、彼の手から弾かれた。
もはや徒手。
「命運尽きたなぁ、魔王よ!」
ここはバハムルギュスの間合いの中だ。
慶喜は引くことも進むこともできない。
勝利を確信し、竜王は槍を掲げた。
あれが振り下ろされたとき、自分は息の根を止められる。
死ぬのか、ぼくは。
槍が迫る。
この首を掻っ切るつもりだ。
やけにゆっくりと。
死、そのものが近づいてくる。
いやだ、死にたくない。
おかしなものだ。
先ほどまで死を望んでいたのに。
今は全力で抗おうとしている。
だって、仕方ないじゃないか。
生きていたい。
せっかくロリシアが生きていたんだ。
生きたいに決まっている。
だって、言っただろう。
君も聞いたじゃないか。
己に告げる。
あのロリシアが「なんでもする」って、
言ってくれたんだぜ。
耳を疑ったよ。
正気の沙汰じゃない。
あのロリシアが、だ。
「ずっとなんでも言う通りに」だってよ。
笑っちゃうぜ。
それなのに死ぬ?
ありえないだろう。
だってさ。
生きてみたら、その先にはきっと。
光が待っているんだ。
だから、死ねない。
死にたくない。
生きたい。
生きるんだ――
死線をさまよいながら、
数瞬にも満たぬ中、
慶喜は決断した。
右手を突き出し、
描く。
世界を塗り変える意志。
未来を。
魔族のためではない。
顔も知らぬ誰かのためではない。
未来を。
魔王の名のためではない。
地位も名誉も必要ではない。
未来を。
自分のためだけではない。
彼女のためだけでもない。
未来を。
自分たちの。
これから先の。
ふたりの未来を。
「掴むんだあああああああああああ!」
絶叫。
意志に魔力が宿り。
風が。
風が巻き起こる。
慶喜が描いたのは、実に単純な魔術。
相手を吹き飛ばす、ただそれだけの。
誰にでも使える、初歩の初歩もいいところ。
とても禁術師の術とは呼べない威力だ。
バハムルギュスはその場に槍を突き刺し、踏み留まった。
間合いを取ることもできやしない。
「この程度か! ぬるいわ!」
闘気によるその一喝は、魔術をもかき消した。
だが、竜王は知らない。
慶喜が魔術を放った。
そのことが意味するものを。
なぜイサギやロリシアが沸き立っているのか。
竜王にはわからない。毛ほども気にしていない。
感動も感激に打ち震えることもなく。
マニュアルに沿って手順を踏むように。
慶喜は次々にコードを描く。
魔世界は今、慶喜の願望を実現させるためのキャンバスだった。
「*いしのなかにいろ*!」
突如として隆起した石壁に押されながら、
バハムルギュスは槍で魔力の障害物を叩き斬る。
その稼いだ時間に、さらにコードを。
「ファイアバード・ゴー!」
七つの火炎が生み出され、
それらは自由な軌道を描きながらバハムルギュスに襲いかかる。
振り回された槍によって、次々と火の鳥を撃ち落とされてゆく。
その稼いだ時間に、さらにコードを。
「オーバーフリーズ!」
地面を凄まじい早さで流れてゆく氷の津波は、バハムルギュスを飲み込む。
足を取られた竜王は槍を地面に突き刺し、周囲の氷を消し去ってゆく。
その稼いだ時間に、さらにコードを。
叩き込む――。
「――原子はかい爆弾っ!」
半円。闘技場に巨大な爆発が巻き起こった。
それらは障壁で覆われた空間に凄まじい威力を叩き出す。
青い炎が密閉された世界を蹂躙するように猛り狂った。
この間、慶喜とバハムルギュスの距離は一切変わっていない。
竜王はあと一歩をまるで詰めることができず、慶喜の魔術の四連打を叩き込まれたのだ。
足を止めて、足を止めて、足を止めて、そして最後に大火力の一撃だ。
キャスチ直伝のコンビネーションは、あのアンリマンユが用いていたものとまったく同じである。
慶喜の高速詠出術と合わさったからこその芸当であった。
慶喜は距離を取る。
あの火炎を受けて、無事でいられるはずがないとは思ったが。
黒煙の中から咆哮が聞こえてきた。
バハムルギュスはついに、獣術の封印を解いたのだ。
『成る程! これが本来の貴様の力か!
術式の速度はかの魔帝級であるな!
魔法師でないのが惜しい! さすがはアンリマンユの再来よ!』
魔力の煙はすぐに晴れてゆく。
暗雲の中から現れたのは、数千年も生きた巨木のような黒竜であった。
マールやローラなど物の数にも入らない。
その体は彼女たちの数倍以上の大きさがある。
逆立った鱗の一枚ですら、触れれば指先が切り落とされてしまいそうだった。
そして彼は傷一つ負っていない。
体表とその身体に充溢する闘気が、慶喜の魔術を完全防御したのだ。
これが竜王バハムルギュスの本当の姿。
アルバリスス最強の竜化ドラゴン族。
『良かろう! ならば儂も全身全霊を尽くし、
貴様を叩きのめしてくれるわ!』
彼の者の吐く息には炎が混ざる。
鍛えられていないものは、面前に立つだけでも焼け死んでしまうだろう。
バハムルギュスを正面に見据え、慶喜はうなずく。
眼鏡の位置を直そうとして、しかし指は空を切る。
「うん」
すでに準備は整っている。
慶喜の周囲には、魔法陣が描かれていた。
「ぼくもだ」
術式教授キャスチに協力を得て開発をした、慶喜の奥義。
暗黒大陸に放たれ、多くの魔族を畏怖させた禁術師の力。
自己増殖詠出術。
コードにより自動記述するコードは、半永久的に肥大し続ける。
常人なら枯死しかねないほどの魔力を注ぎこみながら、慶喜の身体に刻まれた刺青は赤く輝いていた。
その目もまた、燃えている。
竜王バハムルギュスは理解した。
先ほど放った破壊の爆発ですら、慶喜にとっては時間稼ぎに過ぎなかったのだと。
その場にいた誰もが震え上がるほどの魔力が闘技場に充満してゆく。
魔視を持つものにとっては、悪夢のような光景だった。
まるで意志を持つかのごとく、絡み合いながらコードが描かれてゆく。
慶喜の支配する魔法陣は一本の槍を作り出した。
魔族が極術に例えた慶喜の魔術。
それは決して大げさではなかったのだ。
竜王は今、追いつめられていた――。
『ウオオオオオ!』
バハムルギュスは吼えた。
その巨大なアギトから火炎を噴き出す。
あらゆるものを飲み込むようなドラゴンブレスが迫る。
その彼に慶喜は。
「ぼくは、ぼくの手で、ぼくの未来を。
ぼくが掴むから――今、ここで!」
まるで詠唱のように口走り、放つ――。
魔法陣から出現した魔槍は炎を引き裂いて飛ぶ。
その魔力塊は竜王の胸元深くに突き刺さり、真っ赤に輝いた。
次の瞬間、黒竜は光の球体に閉じ込められる。
光は密度を高めてゆき、やがてなにもかもが見えなくなった。
その中で天地が揺らぐような、バハムルギュスの叫び声が響き渡る。
『これが、新たな魔王――!
なんという力だ、なんという!
儂は再び負けるのか、魔王に、魔王よ!』
そして光は爆砕する。
天を貫く光の柱が立ち上り、
後には獣術の解けたバハムルギュスが意識を失い横たわっていた――。
慶喜はその場に膝をつく。
今はなにも考えられなかった。
全身から緊張が抜け、脱力し切っている。
「は、あはは……」
確かめるように手のひらを握りしめる。
今のを自分がやったことすら、信じられなかった。
そんな彼の元に。
「ヨシノブさま!」
ロリシアが闘技場へと向かう階段を降り、駆け寄ってゆく。
彼女もまた泣きながら、慶喜に抱きついて。
「よかった、ヨシノブさま、よかった」
「う、うん……うん……」
そのときになって、ようやく慶喜の胸に実感がわく。
自分は勝ったのだと。
あの竜王、バハムルギュスを決闘で下したのだと。
力が抜けると、今度は全身に痛みが襲いかかってきた。
あちこちの傷が思い出したように主張を始める。
「あ、いてて……いて……あは、はは……」
「ご、ごめんなさい、わたし……!」
「いや、うん、大丈夫……大丈夫、だから……」
互いに、互いが生きていることを確かめるように。
ふたりは手を握り合っていた。
だが。
その余韻をぶち壊すかのように、そこに槍が放たれる。
慶喜もロリシアも気づいてはいない。
蹴りで叩き落としたのは、いつの間にか彼らのそばにいたイサギだった。
「え?」
硬質な音に表情を凍りつかせる慶喜。
彼らに槍を投げつけたのは、竜王の弟――ベヒムサリデであった。
「ふざけるんじゃねえ! こんなことが許されるとでも思っているのか!
この決闘は無効だ! あんな醜態を晒す男が竜王だと!? ふざけんな!」
闘技場の上から慶喜を見下ろしながら、地竜将は憤怒の顔で怒号を放つ。
「ドラゴン族が魔族になど従うものかよ!
我らは我らの思うがままに奪い、焼き、戦うに決まってんだろうが!」
「そ、そんな、これはちゃんとした決闘で……!」
震え上がりながらつぶやく慶喜。
ロリシアをかばうように抱きしめている。
「やめよ……!」
そこに異議を唱えたのは、竜王バハムルギュスであった。
信じられない。あれほどの魔術を受けてなお、もう意識が回復したとは。
「戦いは、儂の負けだ……ベヒムサリデ……!
これ以上は、例え貴様と言えど、許さぬ……!」
地面に伏せながらも上体を起こし、叱責する竜王に、
その弟は苛立たしげな視線を向ける。
「死にぞこないがよ、ほざいてんじゃねえ!
兄者は確かに強かったさ! だがそれは20年前の話だ!
アンリマンユにも負けて傷を負い、ぽっと出の魔王にも負けやがって!
俺様が助けなければ、てめえは20年前、
スラオシャルドとの戦いで死んでいたものをよ……!」
「……なんだと……!」
目を見開くバハムルギュスに、ベヒムサリデは吐き捨てる。
彼の期待と尊敬は今、侮蔑と怒りに変わっているのだ。
「てめえは実力で勝利をしたと思っているんだろうがよ。
魔力もほとんど残っていないような身体で、調子乗ってんじゃねえぞ!
俺様たちが痛めつけていなければ、兄者に勝てる道理などはなかったんだぜ!」
「貴様は……儂の決闘を、二度も汚したのか……!」
「ドラゴン族の掟は力が全てよ!
負けたザコの言い分なんざ聞きたかねえな!」
いまだ立ち上がることのできないバハムルギュスと、慶喜に新たな槍を向けながら、ベヒムサリデは叫ぶ。
「さあ、行きやがれ、俺様の配下たちよ!
この決闘により、竜王と魔王は差し違えたんだ!
手負いの獣なんて、恐るに足らねえぞ!」
「させるとでも思っているのか?」
「ああ?」
立ちはだかるのは、イサギ。
男はその目で少年を貫く。
「魔王パズズだと? 人間族の生み出した幻想だろうがよ!
一ひねりで握り潰してやるがいいぜ!」
震え上がる慶喜とロリシア。
動かない体に歯噛みするより他ない竜王バハムルギュス。
その三人の前に立ち、イサギは笑っている。
「剣を使うだろう、廉造」
弾かれたように――ベヒムサリデはそばに立つ将を見た。
「ああ。だがこっちが先だな」
拳を握り固めた廉造が肩をいからせながら、竜将の前に歩み出てきた。
「廉造、貴様も行けってんだ!
死ぬまで俺の下で働くんだよ、てめえは!
あの娘がどうなっても良いっつーのか!?」
「よかねェよ」
廉造はためらいもしない。
ねじった拳を、ベヒムサリデの頬に打ち込む。
将軍は部下たちを巻き添えにしながら倒れ込んだ。
「ったく、かてェな」
廉造は彼に背を向け、手を振りながらマールとローラを連れて降りてきた。
一方、ベヒムサリデは顔を真っ赤にしながら起き上がる。
「な、き、貴様! 俺に逆らう気か!」
「さっき言ったじゃねェかよ。
ドラゴン族の掟は力が全て。
負けたザコの言い分なんて、聞く耳持たなくてもいいってな」
「ば、ばかな……! 俺に勝てるとでも思ってんのか!?
20年前は足元にも及ばなかったがな! 今の俺様は兄者より遥かにつええ!」
体の節々を竜化させながら唸るベヒムサリデは、まさしく猛獣のようだった。
廉造は彼に背を向けたまま、告げる。
「おいチビども。慶喜と嬢ちゃん、あとオヤジを逃がしてやれ。
そうだな、しばらく空でも散歩してこい。
日が沈む前には終わるからな」
『はーい!』
元気よく右手を挙げて返事するふたりの少女はすでに竜化を始めていた。
「で、でも……」
渋る慶喜に、イサギが親指を立てて笑う。
「後のことは俺たちに任せろよ。魔王サマ」
ロリシアが慶喜の手を引く。
慶喜は不安そうな顔をしながらも、マールの背に乗った。その後ろにロリシアがつく。
身動きの取れないバハムルギュスは、ローラがくわえていた。
廉造は背を向けたまま、竜王に告げる。
「オヤジ、容赦はしねェからな」
それが定めだと知り、竜王は瞑目する。
「……仕方あるまい……我が弟の不始末は任せようぞ……
おまえの、好きなように、しろ……」
「よし」
許しをもらい、廉造は血沸き立った。
マールとローラは飛び去り、後にはイサギと廉造が残される。
『すぐに追いかけて皆殺しにしてやらぁ……!』
竜化し、灼熱の息をまき散らすベヒムサリデと、その部下たち。
闘技場には瞬く間に竜たちがはびこる戦場と化した。
百名近くのドラゴンの行く手に、たったふたりの人間が立ちはだかる。
多勢に無勢。数の差は絶望的だ。
だというのに、なぜそんなに涼しげに笑っていられるのか。
「廉造、悪いがあいつは俺に譲ってくれないか」
「ああ? なんだ、ずいぶん燃えているじゃねェか」
「古い友の仇だってことがわかったんでな」
「しゃァねェな。ならオレはその後でもう一回ブッ殺してやらァ」
カラドボルグを拾うイサギ。
ミラージュを握る廉造。
「せっかくヨシ公が男になったってのにな」
「無粋な真似はさせないぜ。
邪魔する奴は、叩っ斬る」
ふたつの晶剣は重なり合い、×の字を描く。
刃と刃が交わり、リィンと澄んだ音が闘技場に響く。
それはさながら、戦いのゴングのようだ。
イサギと廉造。
召喚陣フォールダウンによって呼び寄せられた両雄は、並び立つ。
『ガキが! 二匹まとめて喰い殺してやるぜええええ!』
闘技場を埋め尽くすほどの炎を撒き散らし、黒竜ベヒムサリデが吠える。
野望を抱き猛り狂う竜たちを見据え、
ふたりは同時に告げた。
『――かかってこい』
◆◆
空は夕焼け色に染まっていた。
先ほどまでの戦いが嘘のように穏やかに雲が流れている。
手綱を握る慶喜と、その腰に腕を回してしがみつくロリシア。
ふたりの間には、奇妙な沈黙が落ちていた。
「……」
「……」
ロリシアは後悔をしていた。
慶喜を試すような真似をしてしまったことを。
自分の身勝手な思いによって、
イサギにも主人にも迷惑をかけてしまった。
だから自ら口を開くことは、はばかられた。
自ら命を粗末にした自分には、合わせる顔がない。
きっと慶喜は怒っている。
叱られるならまだいい。
もしかしたら完全に嫌われたかもしれない。
立派になった彼に、もう自分は不要なのではないだろうか。
魔王城に帰れと告げられるかもしれない。
もしかしたら、魔族国連邦からも追放されてしまう可能性だって。
頭の中で自罰的な妄想がぐるぐると回る。
こんな気持ちは、初めてのことだった。
「あの、ロリシアちゃん」
声をかけられて、ロリシアは身震いした。
一体なにを言われるのか、まるで想像がつかない。
おそるおそる、返事をする。
「……はい」
慶喜は確かめるように。
「ぼくのために、なんでもしてくれるって言ったよね」
「…………は、はい」
そうだ。
彼のためになら、なんでも。
自分の言ったことだ。
その場の勢いとは言え、自分はそれだけのことをした。
なんであれ、償わなければならない。
どんなことでも。
どんなことでも、だ。
背にしがみつくロリシアには、彼の顔は見えない。
「……じゃあもう、二度とこんなことを、しないでください」
慶喜の声は震えていた。
「ぼくのためにとか、誰かのために死のうなんて、思わないでください。お願いします」
それはあの破壊の魔術を放った魔王とまるで同一人物には思えなくて。
きっとなけなしの勇気を振り絞っているのだ。
もしかしたら、あの竜王に立ち向かうとき以上に。
「その、頼りないぼくだけど……ぼくをひとりしないでください」
ロリシアは気づき、息を呑んだ。
彼はただ傷ついて、震えているだけだった。
「ヨシノブさま……」
彼の望みは、そうだ。
言っていたではないか。
平和で、争いのない暮らし。
ロリシアの願いと同じ、だ。
これから先、魔王は望まぬ様々な出来事に巻き込まれてゆくだろう。
そのたびに傷つき、血も流すだろう。
きっとひとりでは耐えられない。
だから、慶喜は願う。
「どうか、これからも、一緒に、いてください。
ぼくと、一緒に、生きてください」
その言葉は、少女の胸を打つ。
彼に必要とされて、ここにいてもいいのだと思えて。
この気持ちはまだ、恋ではないと思う。
それは自分には、よくわからない。
愛と呼ぶのが相応しいかもしれない。
家族を失った自分には、それもよくわからない。
けれど。
嬉しかった。
そのひとつの言葉が。
願いが。
想いが。
嬉しかったから。
確かなものがここにあるのだ。
もしかしたらそれは、絆というものなのかもしれない。
ロリシアは慶喜の腰に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。
その背に頬を寄せる。温かくて、大きな背中。
体温は彼が生きている証だ。
そのことを感じられる幸せに、涙と笑みをこぼしながら。
約束をする。
「はい、ヨシノブさま。
誓います。
わたしたちは、これから……
Episode:7 喜びも悲しみも分かち合いながら End
……ともに、生きることを」
次回、八章の更新は一ヶ月後を予定しております。
慶喜くんやロリシアちゃん、イサギさんたちの活躍を応援してくださる方は、
ポイントの右側の星を。
そうでもないという方は、ポイントの真ん中をどうぞ押して、
評価してやってください。とても励みになります。
ご意見ご感想なども、お待ち申し上げております
+注意+
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