(cache) 最強ニート伝説　～勇者が異世界逆トリップしたらニートだった件～ - エピローグ：最強ニート伝説　～勇者が異世界逆トリップしたらニートだった件～

エピローグ：最強ニート伝説　～勇者が異世界逆トリップしたらニートだった件～

　――代償は、支払わなければならない。

　あれほど暑かった夏も終わり、冬が過ぎ、陽だまりに暖かみが帯びてきたある日、私はそう思いながら中学校で授業を受けていた。
　ベルゼバブとの決戦から平穏な日常を取り戻して――あれから９か月経って、今は四月で桜の季節だ。

「兄上殿……」

　溜息と共に、思わず小声が出てしまった。周囲を見渡すが、誰も気づいた様子が無いので一安心。

　メイド喫茶ならまだしも、ここは学校で、流石に古語口調は不味いのだ。

　――お兄ちゃんがいなくなって半年になる。一人ではできないことも、二人ならできるなんて、漫画みたいなことは……無かった。きっちり、ベルゼバブを退けた代償は――支払わされた。

　最初は凄く寂しかったけれど、時の流れは残酷なもので、あれほど悲しかったのに、少しずつ時が感情を洗い流していく。

　まあ、たまに、どうしようもなく寂しくなる時もあるけれど。

　キンコンカンコンとベルの音。聞きなれた音色は授業の終了と共に、放課後の訪れを告げていた。
　そこで、隣席の女子生徒が声をかけてきた。

「右腕……いつまで経っても治らないね、大丈夫？」

　言葉を受け、右腕を覆うギプスに視線を落とす。

　あの時の傷跡は未だに残っている。
　複雑骨折及び神経断裂、通常生活と言う意味での再起は不能。
　それが最初に私に言い渡された病状で、今現在は全治半年となっている。
　何度も手術を繰り返し、今は絶賛リハビリ中だ。本当なら額面通り２度と使い物にならない可能性もあったけれど、そこは回復魔法の賜物だろう。
　そんなこんなで、結局――あの時、大きく魂の力を奪われた彼は、この世界から消失した。

　恐らく、男と女で八対二位で、エヴァンス・ヴォルケンに魂の力を奪われたのだと思う。半分半分であれば、彼はいなくなくなることもなかったのかもしれない。でも、そこは、彼は男の子だったのだろう。
　多分、あの時、気合を入れたら気合を入れた分だけ、自分の魂を吸えと言うような意思が働いたと思う。彼は、やっぱり男の子だったんだろう。好きな女の子を守りたいと、思ったんだろう。

　溜息と共に、私は帰宅の路につく。

　そこで、件の少女、アラキナがものすごい勢いで私に向かって駆けてきた。未だに仲は悪いけれど……正直な所、喧嘩をするのは楽しい。

　ちなみに、ズル休みの常習犯であるけれど、今は普通に高校に通っているらしい。

　そして、この前……爆笑したのだが、留年が決定して、今も２年生として学校に通っているらしい。まあ、去年の夏までまともに高校行ってないのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれど。

　ちなみに、魂の力を奪われた彼女はあの後、交通事故に遭って、全治数か月の怪我を負った。

　今はもう怪我の跡も無いけれど――どうやら、呪いの力はそういう形で顕現を行うらしい。

「……ヘカテー」

「なんじゃアラキナ？」

「……一人ではやはり恥ずかしい。ついてきてほしい」

「そうか……今日はあの日か。うむ、仕方あるまい」

　そのまま歩くこと３０分程度。
　総合病院の受付にアラキナと共に入る。
　通いなれた道と手続きだ、淀みは無い。
　手続きを済ませると、私とアラキナは病院の一室を目指す。何ヶ月も通い続けたルート。迷うなと言う方が無理だろう。

　そこでは――右腕と左足にギプス、その他、全身に包帯を巻いている少年がベッドに横たわっていた。

「またお前等か……まあ良い、差し入れは何だ？　暇で仕方なかったんだよ」

「……差し入れ。ゲームの雑誌と小説……。あ、メイド喫茶のバイト代で買ったから安心して良い。後、奨学金やら何やらで生活費はギリギリ足りている……そこも心配しないで良い」

「そっか……ちゃんと頑張ってんだな……うん。ありがとう、アラキナ」

「……ん」

　見つめ合う二人。
　そして、共に頬を赤らめてしまった。

　とりあえず、シャイニングウィザード（飛び膝蹴り）を一発決めたい気持ちになるが、そこは堪える。

　あの後、魂の力を奪われた結果――ビル建設の崩壊事故がお兄ちゃんに振りかぶった。ぶっちゃけた話、魔王としての力を使えば幾らでも回避は可能だったんだろうけど、そうは問屋が卸さない。それだと代償の意味がないからね。

　寝たきりの状態となったお兄ちゃんは高校からしばらくの間、いなくなった。で、当然の事ながら、ずっと入院しているお兄ちゃんの高校での出席日数は……非常に不味い事になっている。

「……まあ、儂はここらで席を外そう。そこまで無粋でも無い故に……な」

　そんなこんなで、あの時、聖剣は大きな代償を強いた。

　――お兄ちゃんの留年という代償を。

　病院近くのショッピングモールの野外休憩所。
　四方を建物に囲まれ、丁度正方形の真ん中を刳り貫いたように存在する中庭。
　大きな桜が真ん中にある広場のベンチでアラキナは腰掛けていた。

　そして――対面には、車椅子のロキ。

「結局……あれからあっちの世界はどうなったんだ？」

「オシリスが今はヴルカーン国王……仮面の国王という事で凄い人気らしい。私には信じがたい事だけれど」

「……仮面？」

「とりあえず、あの人については触れないでほしい……考えるだけでツキが落ちる」

　気まずい雰囲気になった二人だったが、ロキが話題を変える為に口を開く。

「結局……何で俺達、普通に生きてるのかな？」

「……根性で何とかなるって言ったのは貴方じゃない？　それに、何事も無くという訳には行っていない」

「まあ、そりゃあそうか……で、お前、これから先どうすんの？」

　しばし考えた後、アラキナは口を開いた。

「とりあえず、メイド喫茶で生活費を稼ぎながら、高校に通って卒業する」

「でもさ……あの時……お前が引きこもってる時は黙ってたけど……」

　ロキの言をアラキナは手で制した。

「……私は親に捨てられた未成年。生活保護でも社会保障でも……やりようによってはどうとでもなるという事？」

「ああ、市役所に行けば、実際何とかしてくれるはずで……」

　そこでアラキナはニコリと笑った。

「そうなれば、私は施設、あるいは里親、またはそういう団体の庇護に置かれると思う。それでは……貴方の側を離れる事になるかもしれない。だから……それはしない」

　アラキナは立ち上がると、ゆっくりとロキに歩み寄る。

　そして。

　車椅子のロキに上半身を近づけると――その唇を己が唇で塞いだ。

　……しばしの沈黙。
　朱色に頬を染めた彼女は、はにかみながらこう言った。

「……つまり、こういう事」

　頬を膨らましながら、ロキは舌打ちを行った。

「それはズルいぞ……お前」

「不快だった？」

　そこでロキは仏頂面を作る。ここで不快と言ってしまっては、後で何を言われるか分かったものでもない。

「……八方塞がり……か。なんだか完全に負けた気がして、物凄い嫌な気分なんだが……」

「ところで――さっきの話」

「ん？」

「……高校を卒業してからの進路は既に決めてある」

「っつーと？」

「……貴方に永久就職したい。貴方は一部上場企業のエリート社員となり、私は専業主婦になって毎日引きこもる――それは不動産所得者に次ぐ貴族……まさに、最強のニート……。私たちの結婚式――それは私の新たなるニート伝説の幕開けでもある」

「どこまで行ってもニートかよっ！！！！！！！！」

　と、ロキが叫んだ時、強い風が吹いた。
　宙を見上げた彼女は、目を見開いて、感嘆するように言う。

「……とても綺麗」

「桜吹雪……か。無理言って外出許可取った甲斐があるな」

　言葉通り、ロキは重病人なので外出許可を得ることには難儀したが――

　――風に乗って舞い散る無数のピンクの花弁が、青空から注ぐ太陽に煌き、一面を桜色に染め上げていた。

　おしまい。

　という事で、一旦、ロキとアラキナのお話はお終いです。

　続けようと思えば、やり方はいくらでもあるので、ひょっとすると、気が向けば更新するかもしれません。
　あるいは、ドタバタの日常の一コマを、後日談で書くかもしれません。

　けれど、とりあえず、一旦はお終いです。

　この物語で、クスリとでも笑っていただけた方は、

　メタルはぐれ最強伝説　～ステータスバグ状態で異世界トリップしたら無双だった件～

　http://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9692bt/

　著者：サカモトの作風の根底は確実に、両方の物語に共通して流れています。
　こちらもよろしくお願いします。

　置き土産に、感想や評価点数を入れていただければ泣いて喜びます。
　作者の小説を書き続ける、活力になります。よろしくお願いします。

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