熱戦! 激戦! 超列戦っ! 魔界で一番強い奴っ! その30
「ククク……フハハハ……」
勇気の言葉を聞いた瞬間、ヴィクトルは立ち上がり、高笑いを始める。
「何を笑ってやがる……?」
「ああ、そういえば……貴方は私の演説を聞いていなかったですかね?」
「演説……?」
「夜会は確かに私の負けです。降参です。ナターシャを得る事については諦めましょう」
ですが、とピシャリと言い放った。
「私の合図と同時に、この場には下級魔族――ノラヌークの外道の薬により、カウントストップの向こう側に到達した猛者たちが現れます。その数――総数100余名。力の程は――ソウルイーターのスキルを使用した鬼童丸と同程度と言えばいくらか想像がつきましょうか?」
と、そこでナターシャの表情に戦慄が走り、隣の瑠璃に問いかけた。
「瑠璃……? 貴様、その連中相手を……何人までなら抑えられる?」
しばし考え、瑠璃は冷や汗と共に呟いた。
「……20……いや、25……そこが限界。でも、ナターシャ? それでもアンタなら……」
「ダークネス・フレアで全てを吹き飛ばしても良いならば、あるいは。……しかし、アナスタシアやサルトリーヌのいるここでは、そういう訳にもいくまい。近接戦闘に限定されるならば、5名が限度だ」
満足げにヴィクトルも頷いた。
「概ね、私の想定の範囲内です。良い読みをしていますね」
つまり、とヴィクトルは断言した。
「確かに、夜会はこれで終わりです私が真の意味で敗北する為には、そこの覆面マントが、一人で100名以上も相手に完勝しなければならない」
「ふん、ヴィクトル? 貴様は何を言っているのだ? なるほど。貴様はこの男の力をそこまでは知らぬと見える、この男は私を一撃で宇宙空間まで――」
と、そこで勇気が口をはさんだ。
「ちょっと待ってくれ姉ちゃん……そいつは俺は聞いてねえぞ? 今回は魔法使い相手だからって出張って来ただけで……ってか、100名……だと? 念の為に聞くが……そいつ等は魔法使いなのか?」
勇気の言葉で、しばしヴィクトルは押し黙り、そして応じた。
「魔法使いは10名ほど……残りは戦士タイプですね」
その言葉を聞いた瞬間、勇気は顔面を蒼白にし、その場で腰を押さえて崩れ落ちた。
「くっそ……こんな時に……アイタタタタ……」
「アンタ? どうしたの? まさか……ソウルイーターの反動が……?」
「アイタタタ……くっそ……こんな時に腰痛が……」
物凄く芝居がかったセリフと共に、勇気はオーバーリアクションで額に脂汗を流し始めた。
その様を見て、瑠璃はまつ毛を伏せた。
「ダメ、ナターシャ。コイツはもう戦えない……」
「どういう事なのだ瑠璃?」
「コイツは……コイツは……あれほどの馬鹿げた力の代償に、ソウルイーターの術式を使用してるんだよ。それで、今……後遺症が……」
眼を見開いたナターシャは勇気を見据える。
「……恐らくは、私、あるいは瑠璃クラスの実力者が、いや……それ以上の者が、更にソウルイーターを使用して……その力まで到達したという事か。こやつの力の秘密にはそのような事情が……」
まあ、実際、仮病である。
しかし、彼女達は土壇場のこのような状況でそのような考えには夢にも至らない。
「でも……そんな……コイツが戦えない以上……そんな奴等をどうにかできる訳が無いじゃん……」
「くそ……」
憎々しげにナターシャが吐き捨てた時、サルトリーヌがヴィクトルに問いかける。
「時に大元帥? 貴方の目的は……? 早急なクーデターにしろ何にしろ、今回の貴方はあまりにも何かを焦っているような……」
「サルトリーヌ嬢? おおよその所は貴女も気づいてはいるのでしょう?」
「やはりそういうことですか。ノラヌークの外道が貴方に何を見せたかまでは存じ上げませんが――」
コクリとヴィクトルは頷いた。
「どの道、我々では奴と闘っても勝ち目はない」
「――開戦以前に敗北を認めて……属国化ですか。その為に貴方が魔界を手中に握る……と。腑抜けにも程がありまする」
「ご名答。流石、貴女は話が早い」
「ヴィクトル、貴様……どういう事なのだ!?」
「簡単な話ですよ。戦って勝てない相手と対峙した際、採るべき方法は二つに一つ――つまりは、逃げ回るか、あるいは、味方となるか」
「しかし、しかしだ! そのような事をして魔界の民はどうなるというのだ? ノラヌーク国王は外道と聞く……民に苦難の道を、戦いもせずに――」
「それがどうかしましたか? 少なくとも、私は外道の王から待遇を約束されている。それだけがあれば良いし、それ以上に何も求めるべくもないのです」
そこで、パンと掌を叩いた。
「ナターシャ。ここまでの馬鹿とは思いもよりませんでした。もう、貴方は私の道には必要はない。今から始まるのは魔界のクーデター……最早、貴方の生死すらも問いません。文字通り――地獄の始まりです」
そして、ヴィクトルはパチンと指を鳴らした。
当初の打合せでは1分以内に、ここに馳せ参じる事になっていた、悪夢の集団に――魔術的な伝令と共に、号令を飛ばした。
「さあ、出でよ私の懐刀達よっ!」
――10分前。
魔王城にほど近い兵士の詰所――それは結婚式場から概ね8キロメートルほどの距離となっている。
広さは現代の日本で言うと柔道場ほどの大きさ。
簡易ベッドやテーブル、椅子の類、そして装備品のロッカーのようなものが部屋の隅に並べられている。
そこは魔王城の警備の巡回を行う兵士たちの詰所だったが――一面が血の色に染まっていた。
そんな中、簡易ベッドに腰掛ける一人の獣人が溜息交じりに呟いた。
「しかし、この薬は一体……何なんだ? 本当に……魔王城を守る精兵が……ただの一撃でミンチになっちまった」
「知るかよ、考えるだけでツキが落ちる」
「何で一介の下級魔族でしかない、俺たちがこんな力を……」
「だから知るかよって、とりあえず、あの薬がヤバイもんなのは間違いねえ」
二日ほど前に服用した小さな薬瓶を取り出し、獣人はやるせなく呟いた。
「いや……副作用とかヤバいんじゃねえのか、これ……」
「だから考えるなって! 俺たちは絶大な力を手に入れた、で、今からクーデターを起こして、魔貴族は俺たちと全員が入れ替わる。金も女も好き放題……それだけを考えろ。ハナからヤバい話なのは最初から分かってただろうが?」
「そ……そうだな。とりあえず……今から俺たちは魔王城に突入して制圧を行う。とりあえずそれだけを……」
と、その時――アビスから勇気が抜け出してきたのだ。
魔王城から少し離れた所に開いている穴から、飛び出してきた彼はこう独り言ちた。
「くっそ……1時間のつもりが、13時間も寝ちまった! これはヤバイっ! ってか、どこに向かえば良いんだ?」
その時、ヴィクトルとナターシャの結婚を告げる鐘の音が魔王城に鳴り響いた。
「結婚式……鐘……あそこだなっ!」
そして、勇気は全力ダッシュをした。
那由多の馬力で、一直線に――全力ダッシュをした。
そのスピードは実にマッハ300。
ナターシャ、あるいは瑠璃ですらも、半径1メートル以内にいればタダではすまない――そんな全速力で、一直線に会場に彼は向かったのだ。
そう。
物凄い勢いで――進行方向上の全てを薙ぎ払いながら――勇気は結婚式場に向かっていたのだ。
そして、進行方向上には――兵士の詰所。
「うわっ――」
詰所にいた獣人は、今生に別れを告げるその間際、確かに見た。
覆面マントにブリーフの……ふざけた男を。
――ヴィクトルの懐刀。100名を超えるカウントストップの強者たち――全員退場の瞬間だった。
「……ん?」
いくら待っても現れない懐刀たちに、ヴィクトルは怪訝な表情を浮かべる。
「……呼ぶ方法を……間違えたかな? それでは改めて……再度、宣告しましょう――地獄の始まりです」
再度、ヴィクトルはパチンと指を鳴らした。
「……」
ゴクリとナターシャは息を呑む。
「……」
続けて、瑠璃が息を呑む。
「……」
サルトリーヌも息を呑んだ。
「…………? ……それでは改めて――地獄の始まりです」
再々度、ヴィクトルはパチンと指を鳴らした。
「……」
ゴクリとナターシャは息を呑む。
「……」
続けて、瑠璃が息を呑む。
「……」
サルトリーヌも息を呑んだ。
「…………あれ?」
ヴィクトルの呟きに、3人の乙女は口を開いた。
「……来ぬな」
「……うん、来ないね」
「……何も来ないでございますわね」
ヴィクトルの視線が、砕け散ったステンドグラスの向こう側に見える、兵士の詰所に向けられた。
と、その時――魔術的な結界により強化施術が施されていた、詰所の外壁にピキピキと亀裂が入り――建物が倒壊した。
勇気の突進の余波に今まで建物が崩れなかったのは僥倖と言えるだろう。
ともあれ――ヴィクトルの頼りの綱が、懐刀たちが詰めているはずの建物が――倒壊した。
「なっ……!? 何が起きたと言うのです? まさか……まさか貴方が……?」
ヴィクトルが顔を向けた先には視線の先では、形成逆転っぽい雰囲気に復活した勇気が肩をすくめていた。
「おっと……腰痛は急に具合が良くなったようだ。で、どうするんだ大将?」
斎藤勇気、ナターシャ=エリゴール、そして高峰瑠璃。
ノラヌークの外道ですらも、憂慮を抱いていた規格外の3名が――自分に敵意の視線を見せている。
特殊スキルを除けば、鬼童丸いすら実力が及ばない自分で……何がどうできる訳も無い。
「ば……ば……馬鹿な……何が起きても大丈夫なように……幾重にも石橋を叩いたはずなのに……何故!? 何故!? 何故っ!? 斎藤勇気!? アビスに落としたはずの貴方が何故にこの場に現れたのです!? 全ては……全ては貴方が元凶……くそぉおおおおおっ!!!」
言葉と共に、ヴィクトルはその場に倒れ込んだ。
そこに駆け寄ってきたのは、いつの間にかサルトリーヌに回復魔法の施術を受ていた鬼童丸だった。
「大元帥……もう、負けを認めろ……もう……お前は終わりだ」
――優しい声色だった。
やはり、何だかんだでヴィクトルは鬼童丸にとっては上司であり、昔――不遇な境遇の時に、形だけとは言え救ってくれた……という事もあるのだろう。
武士としての精神を持っている鬼童丸にとって、引き際は大事な物であり、見苦しい醜態をヴィクトルに晒してほしくなかった……と言う気持ちもあるのかもしれない。
が、そこで鬼童丸は怪訝に首をひねった。
彼がヴィクトルに近寄ると、何事かをうわ言のようにヴィクトルは呟いていたのだ。
「何故……何故効かない、何故奴には私の力が通用しない!? 有りえない、有りえない、何故、何故何故何故何故……なっ……なっ……がっ……がっ……、がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……」
言葉の途中から過呼吸のように体を痙攣させ、ヴィクトルは壊れたテープレコーダーのように、同じ言葉を繰り返し始めた。
「……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……がっ……」
「大元帥……? 気を……気を確かにするのだっ!」
その言葉でヴィクトルはしばらく黙り、一呼吸おいてから口を開いた。
「ガチョーン」
「大元帥ぃいいいいいーーーーーー!!!!!!!!!!!」
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