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HP1からはじめる異世界無双 作者:サカモト666

第一章 異世界との遭遇

熱戦! 激戦! 超列戦っ! 魔界で一番強い奴っ!  その28

 数百人、下手をすれば数千人が収容できる魔王城の宴会用のホール。
 何十メートルあるのか見当もつかない程に高い天井を、幾つものシャンデリアが彩っていた。
 四天王を初めとして、ソロモン72柱に数えられる魔貴族を初めとする面々が、等間隔に並べられたテーブルに正装で着席している。

 檀上では、ウェディング姿の、髪をアップにしたナターシャと、これはいつもと変わらぬ黒神父服姿のヴィクトルが見つめ合っていた。
 彼等の背後、室内の最奥には一面のステンドグラスが設置されており、陽の光を透過し、虹色の文様を室内に落としていた。

 と、そこでヴィクトルは壇上で、数歩歩みを進め、客席側に歩み出た。

「諸君! 式を始める前に――伝えたい事がある」

 ざわざわと、談笑を行っていた客席がしんと静まり返った。

「今、魔界は未曾有の困難に見舞われている! ノラヌークの外道については、ここにいる者であれば知らぬものはいないだろう!」

 大きく息を吸い込み、ヴィクトルは続けた。

「だがしかし、奴をたかが人間の王と侮る者がほとんどだろう――どれほどの者が正確にその危険性を認識しているのだろうか? 四天王の一部と私は現在の事態を非常に憂いでいるのだ!」

 そこで、再度、客席がざわめき始めた。

「事実として、先般の夜会では、人間にアスモデウスが敗れた。そして――人間の勇者:高峰瑠璃に敗れた者も二名いる。我々は、団結し、人間に立ち向かわなければならないっ!」

 更に、会場がざわめく。
 ざわめきはどよめきになり、更に大きなものとなっていく。

「大元帥! 何を言っているのだ!」

「人間如きに何をっ……!」

 ヴィクトルに対して声を荒げる者まで現れる始末だ。
 現在、ノラヌーク王国の外道の狂気の研究結果については、ほとんどが表沙汰にはなっておらず、伝聞でしかその脅威を伝えられていない者も多い。
 先刻の夜会での人間の活躍を目の当たりにしたとしても、やはり長い歴史の中で培った、人間は弱小の種族だと言う認識は中々に覆しがたいのだろう。
 いや、それどころか、人間に対して何らかの対策を講じる、そのこと自体を女々しいと断言する者も、魔界の上流階級には多い物なのだ。

 と、会場がヒートアップした時、ヴィクトルはパチリと指を鳴らした。
 すると、使用人が白い布を被せた台車を引き、檀上まで運び込んだ。
 ヴィクトルが頷くと、使用人はその布を取り払う。

 一部始終を見ていた瑠璃の表情が引き攣り、ざわめいていた会場が再度静まり返った。

「あれは……鬼童丸……?」

 先刻の瑠璃と同じく、全身に傷を負い、血だるまとなっている鬼童丸が意識を失い台車の上で倒れていた。

「何で……何で……? この傷……アンタがやったのよね? 何でこんな事を……」

 瑠璃の叫びにヴィクトルはすまし顔で応じた。

「殺してはいませんよ」

「そんな事は聞いてない! こいつはアンタの為に戦ったのに……何で……何でなのよっ!?」

 不思議そうな顔でヴィクトルは応じる。

「命令違反です。私は鬼童丸に戦えとは命じましたが――降伏を許可はしていなかった」

「ちょっと――」

 喰いかかろうとする瑠璃をサルトリーヌが手で制した。

「あの者に何を言っても無駄でございます。それより、今はナターシャから目を離しませんようにお願いします」

 ぐっと、詰まりながらも瑠璃は首肯する。

「さて、諸君、私はこれからナターシャを妻とし、魔界の王となる。そして私の命令を聞かない者は……鬼童丸のようになることは理解いただけただろう」

「アイツ……見せしめの為だけに……部下を?」

 再度ヒートアップしそうになった瑠璃の肩にサルトリーヌの掌が置かれる。

「瑠璃様……落ち着いてくださいまし」

「うん……けどさ――」

 そこで、ヴィクトルは更に力強い声色で演説を続ける。

「この中には、人間の国を脅威と思わない馬鹿はもういないだろうと思う。私はそう信じたい――でなければ、また……この手で粛清を行わなければいけないのだから」

 最早、ヴィクトルの演説に口をはさむ者などいない。
 その時――四天王の一人、鷹頭のフラロウスは露骨に顔をしかめていた。

 ――やはり、この男に権力を預けるのは……不味かったか?
 とでも言わんばかりの渋面だ。

「さて、諸君。外道の国では魔貴族を凌駕する生物兵器が続々と生産されていると言う情報が入っている。だが、安心して欲しい」

 ナターシャに視線を送り、続けた。

「下手をすればナターシャよりも強力な戦力が……ノラヌーク国にはいるかもしれないのだ。だが、ここに、怨嗟の鎧――禁術のアイテムがある」

 鬼童丸の着用している武者鎧を見て、瑠璃は呆気にとられた。

「怨嗟の鎧って……確か、呪われたアイテムで……強制的にソウルイーターのスキルを……対象の残りの寿命の9割と引き換えに、絶大な力を与えるって言うアレよね、サルトリーヌさん?」

「……まさか大元帥は……いや、それでも……まさか……」

 二人の小声での会話に応じるように、ヴィクトルは宣言した。

「この鎧をナターシャが着用すれば無敵! どこの世界にも敵などはいないのだっ!」

 瑠璃とサルトリーヌは顔を見合わせた。

「……正気なの……アイツ?」

「ナターシャを完全に駒としか見ていない……いや、それ以前の問題です」

「……どうする? このまま……攫った方が……」

「もう少し……もう少しだけ様子を見ましょう」

 なおも、ヴィクトルの演説は続く。

「そして、諸君に大切な事を伝えたい。挙式を終えた後――すぐさまに私は魔王に戴冠する事になる」

 これには一同が絶句した。

「どういう事なのだ? 魔王への戴冠は魔貴族による多数決で、正式な手続きを踏んだうえで……」

 誰かのヤジに対し、ヴィクトルは微笑を崩さない。

「国難は時を争う事態、通常の手続きでは時が足りないのだ。今日、この場で私はクーデターを起こそうと考えている」

「クーデター……だと? 何を馬鹿な……?」

「馬鹿な事では無いのだ、諸君、良く聞いてほしい。ナターシャとの挙式を終えた瞬間、有力魔貴族の全てが集まったこの場をカウントストップの限界を超えた――下級魔族の群れが制圧する」

 呆気にとられる一同に、ヴィクトルは更に続けた。

「私はノラヌークの外道から、禁術の薬を大量に手に入れた。血の気の多い痴れ者を生贄に、諸君は気づくことになるだろう、古代魔術の叡智の結晶の恐ろしさを……」

 と、そこで瑠璃が口を開いた。

「あの外道が対価も無しに薬を渡したとは到底思言えない」

 サルトリーヌも首肯する。

「恐らく……その為に、魔界の有する致命的な何かを差し出したのは間違いないでしょう」

「……それって不味いんじゃないの?」

 二人の会話を補足するかのようにヴィクトルは更に続ける。

「一部、機密情報の漏えいを行いはしたが、それでも……ノラヌークの外道と同じ技術を使えば、優秀なる魔族に、そして強化したナターシャがいれば……我々に負けは無い」

 しばらく固まったサルトリーヌは舌打ちを行った。

「情報が少ないため……私には状況は読めませぬが……恐らく悪手です。敵も馬鹿では無いでしょう」

「私もそう思う……私の受けた実験が大量に行われているとしたら、確かに現状の魔界の戦力ではノラヌークには勝てないけれど……ってか、何なのアイツ? やりたい放題じゃん……」

「それがヴィクトルと言う男なのです。奴は自分の為なら、いや……なるほど、そういう事ですか……」

「どういう事?」

「私も、ヴィクトルがここまでの強硬策に出るまでは気づきませんでしたが……状況は本当にひっ迫しているようですね。あの外道がそこまでの戦力を蓄えているとは考えもよりませんでした。それはともかく、悪手と見えるノラヌーク王との取引、一見……魔界の事を考えて……とも取れますが、狙いは別にあるのやもしれませぬ。魔界にとっての悪手は、奴にとっての最善手足りえる……例えば、最初から負けを認めての属国化……だからこそ、クーデター……そして、恐怖体勢をこの段階から植え付けている理由がそうであると考えれば……そうして、最終的に、属国化を手土産に、ノラヌークの外道に好待遇でヴィクトルが取り入ると考えれば……」

「ちょっ……それって……」

「ですが、それは今考える事ではありませぬ、今はナターシャを注視してください」

 と、そこでヴィクトルは深く頭を下げ、演説を終えた。

「それでは、ここにヴィクトル=ベリアルとナターシャ=エリゴールの婚姻を宣言するっ!」

 半ば頭を抱えるような恰好のナターシャにヴィクトルは歩み寄った。

「ナターシャ? 聞いての通りだよ」

「ヴィクトル。貴様はどこまでも期待を裏切らない下種の極みだな」

「いつまでその減らず口を言うことが出来るかな?」

 ヴィクトルは懐から指輪を取り出した。
 が、ナターシャはその時、露骨に――今までで見せたことの無い侮蔑の視線をヴィクトルに向けた。

「……隷属の指輪か。どこまでも見さげた男だ……聞くまでも無いが、それが私の結婚指輪だな?」

「そう、誓いのキスの後に、君の左手に収まる指輪だよ」

 サルトリーヌの顔色が、蒼を通り越して土気色に染まっていた。

「ちょっとサルトリーヌさん? 隷属の指輪って……?」

「知的生物から自我を奪い……糸の付いた操り人形とさせてしまう禁術の産物です……」

「ちょっとちょっと、それって……」

 コクリとサルトリーヌが頷いた。

「10秒後、一気に壇上に上がりナターシャを攫います。こうなってしまえば……最早、ナターシャの意志による選択を待つ余裕はありませぬ」

「……承知っ!」

 そんな二人のやりとりを知ってか知らずか、ヴィクトルはナターシャのヴェールに手をかけた。
 そして、己が顔をゆっくりと彼女に向けて近寄らせていく。

「それでは、ナターシャ……」

「好きにしろ……」

 ヴィクトルの顔が近づいてくる中、ナターシャは思う。

 ――素敵なお嫁さんに……なりたい……か。

 頬に伝わる涙を感じながら、あの男の後姿を思う。

 ――何故に、こうなってしまったのだろうな……。

 つい先日、たった数時間とはいえ……彼の宿屋で、新婚生活の真似事をしたことを思い出す。

 ――何故、私の眼前があの男ではなく……ヴィクトルなのだ……。

 とめどなく溢れる涙で、最早――何も見えない。
 右手で、彼から貰った五円玉をギュッと、強く強く――握りしめる。

 そして、初めて彼に会った時、言われた言葉を思い出す。
 自分の意志を持たず、ただ漠然と、魔王の玉座で退屈な日々を過ごしていた自分に向けて、彼が言ってくれた言葉を。

 ――俺に……いつか、成長したお前の姿を見せてほしい。

 結局――とナターシャは思う。
 あの時から、自分は何も変わっていないのではないか、と。

 ヴィクトルに乗せられて。
 サルトリーヌには助けられたが、結局彼女の言うがままに事を進めた。
 そこには――自分でちゃんと考えて決めた何かなど、無かったような気もする。
 出来た事と言えば、大人しく自分の身を差し出す事だけだった。

 ――俺に……いつか、成長したお前の姿を見せてほしい。

 再度、彼の言葉が脳裏に響く。

 だから……と、己が唇まで、残り数ミリに迫ったヴィクトルに向けて――勢いよく両手を突き出した。

「だから、それでも、私は――何があろうと貴様と結婚するのは嫌なのだっ!」

 と、ヴィクトルが突き飛ばされた、その瞬間、瑠璃とサルトリーヌが動いた

 神速――と表現しても良い速度だった。
 同時に、式場の警護を任されていた四天王も動いた。

 壇上に駆け寄る瑠璃に向かう、四天王最速――疾風のフラロウス。
 動作の初期位置からして――直線距離で進む瑠璃の眼前に立ちはだかり、刹那の時間だけ彼女の突進を止める事は彼ならば可能だろう。

 だがしかし、フラロウスの前にはサルトリーヌが立ちはだかっていた。

「ここから先は行かせませぬ! 瑠璃様――ナターシャを――」

 言い終えぬ間に、サルトリーヌの表情に驚愕の色が溢れる。
 声をかける為に、一瞬だけ振り向いたその時――瑠璃が、檀上に上がる前に立ち止まっていたからだ。

「瑠璃様……貴方は何故……?」

 ハハ、と呆れたように瑠璃は笑い、ウインクと共に肩をすくめた。

「もう大丈夫だよサルトリーヌさん。に、しても……このタイミングで来ちゃうかぁ……ちょっと……妬いちゃうなぁ……」

 そして、ナターシャを見て、瑠璃は優しげな笑みと共に続けた。

「良かったね、ナターシャ」

「……?」

 その刹那。
 ナターシャとヴィクトルの背後――巨大なステンドグラスが破壊される甲高い音が会場内に響き渡った。
 会場内に無数のガラスの破片が散らばり、何事かと一同にどよめきが走る。

 ステンドグラスの中央を突き破り、会場に派手な入場をしてきた影は――ガラスの破片を避ける為に、頭部を布で隠し、それが何者なのかは判別がつく状態では無かった。

「何事だと言うのです?」

 ヴィクトルの視線の先。
 ナターシャは、今まで流していた悔し涙ではなく、今度は満面の笑みと共に――歓喜の涙を流していた。

「……遅い……遅いぞ……この馬鹿者が……私が……私が……どれだけ貴様を待ち望んでいたが……」

 絶対的な安堵感が彼女を包んでいた事から――今まで張りつめていた緊張がとけてしまったのだろう。
 くたりと、その場でナターシャは座り込み、うずくまってしまった。

「みんなが……みんなが私の為に戦って……傷ついて……どうして良いかわからなくて……それでも私は……気丈に振る舞わなくては……いけなくて……怖かったのだぞ……辛かったのだぞ……寂しかったのだぞ……分かっているのか……この……大馬鹿者めぇ……く……うぐ……ぅ……ひっ……ひっく……ひっく……ぅ……ぅ……」

「……もう、怖がらなくて良いからな。悪かったな姉ちゃん? これでも全速力でかっ飛ばしてきたんだよ」

 そう応じた、突然の乱入者にヴィクトルは顔を向け、叫んだ。

「ここをどこだと思っているのです!? このような所業を行う貴方は……何者なのですかっ!」

「俺か? 俺は……そうだな――」

 頭部を覆うマントを翻し、体に付着したガラスの破片を落としながら――男はニカっと青空のような爽快な笑みと共に応じた。


「――とおりすがりの、はぐれメ〇ルさっ!」



















 だがしかし、ちょっと待ってほしい。
 会場に現れた勇気の姿は、頭部をマントで隠す形……イメージとしては全裸ブリーフで頭部がタマネギみたいな感じです。


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