熱戦! 激戦! 超列戦っ! 魔界で一番強い奴っ! その16
「あー、何か、この椅子ヤベぇな……今まで、俺が椅子だと思っていたものは一体何だったんだ……」
コックリコックリと頭を揺らす彼の口元には涎の一滴。
――その玉座はあまりにもフカフカで、あまりにも高級感に満ち溢れ――そしてあまりにも座り心地が良かった。
訳の分からない状態で、突然に転移魔法を喰らった勇気が、あまりの気持ちよさに我を忘れ、ウトウトと頭が船を漕いでしまったとしても――それは致し方ない事だとも言えるだろう。
と、その時、勇気の対面100メートル、出入り口のドアがけたたましい音と共に開かれた。
玉座の間を形容するなら、現代の日本で言うと赤絨毯が敷き詰められた体育館と言うのが一番しっくりとくる。
当然、天井までの高さも体育館のソレで、数十メートルもあろうかと言う代物であり、そのドアの高さも10メートル程はある。
そして、開かれたドアから玉座の間に入室してきたのは二つの異形だった。
片方は身長2メートル程度、甲冑を着こみ、背に翼を携えた鳥の亜人。
鷹の頭から勇気を突き刺す鋭い眼光は、ただそれだけで並の冒険者なら竦んでしまうようなシロモノだ。
そしてもう一人――最早、ソレは異形と言って良いか否かすらも分からない。
その体躯は10メートルを優に超え、巨大なドアをしても収まりきらず、身を屈めなければ入室できないような有様だった。
サイズに合う服が無いためか、ソレは毛皮の腰ミノで局部を隠したのみで、後は大質量の筋肉による肉体美を誇っている。
「うお……デケェ……」
巨人を目の当たりにした勇気は、脂汗と共にそう呟いた。
「突然の侵入者警報……貴様が原因か……何が目的かは分からぬが……豪気な事だ」
巨人の足――くるぶしの真横を歩く鷹の亜人が遠く勇気を睨み付け、玉座を指さす。
「その玉座はナターシャ=エリゴールが座っていたもの……貴様、その玉座に座ると言う意味を……理解しているのか?」
「ナターシャ……ああ、あの姉ちゃんか?」
「貴様……理解した上で座っていると」
遠い目をしながら、しばし物思いに耽り、勇気はうんざりとした調子で応じる。
「ああ、あの姉ちゃんの事なら良く知っているさ。見た目は綺麗だが……とんでもない性格の低級魔法使いだったな」
言葉を言い終えるか否かの刹那、鷹の亜人の姿が消えた。
そう、消えたのだ。
実際には超高速の移動なのだが、常人の目で到底追える速度では無く、先ほどまでそこにいたと思えば突然に消えたのだからそう表現する以外にしようが無い。
ともかく、一瞬で100メートル弱の距離を詰めた鷹の亜人は勇気の眼前に迫り、形相を隠しもせずにまくし立てた。
「低級魔法使い……だと? 故あってヴィクトルの軍門に下っているが……ナターシャ四天王が一人……この疾風のフラロウス、今の貴様の発言は聞き捨てならんっ!」
そのまま、勇気に向けて鷹の亜人は右手の爪による一撃を放った。
「疾風のフラロウス……なるほど。スピード自慢か……」
刺突は空を切る。いつの間にか勇気の姿はそこには無く――フラロウスは驚愕の表情と共に、声の聞こえた背後を振り返った。
「あいにくだが、俺はスピードには自信があってな?」
魔貴族の中でも、スピードに関しては最速との呼び声の高いフラロウスの動体視力を持ってすら、どのような経緯で背後を取られたのか、その勇気の動きの影すら捉える事は出来なかった。
冷や汗で羽毛を濡らしながら、フラロウスは勇気に問いかけた。
「単騎でのこの場への侵入……貴様は一体何が目的で……?」
ふふん、と勇気は含み笑いを浮かべるが、フラロウスの問いには答えない。
「ナターシャ=エリゴールをして低級魔法使いと言う言動……そして、その尋常ではないスピード……恐らく、それはハッタリではなく、実力に裏打ちされた言動だ。貴様は本当に一体……?」
再度の問いかけに、勇気は再度の含み笑いで応じた。
質問に応じない勇気に対し、怪訝な表情のまま、フラロウスは口を開いた。
「なるほど。沈黙が貴様の答えか……強者は口で多くを語らぬもの。要は……拳で物を語るという事だな……」
そして、フラロウスもまた、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。
「この世に生を受け400と余年。俺以上の速度を持っているかもしれない相手と対峙をするのは初めてだ……ならば、俺は俺の持てる最高の技で貴様に応じようっ!」
鷹の亜人の笑みに、勇気もまた口元を吊り上げる。
実際問題、何が目的でここに現れたとか言われても、答えようが無い。
謎のジジイに魔法を喰らって、気が付けばこの場所にいた。そしていきなり、血の気の多そうな連中に絡まれた。ならば――
――とりあえず、愛想笑いでごまかすしか無いのは自明の理。
しかし、勇気は気づいていなかった。
――覆面で、勇気の表情は彼等には伝わらないのだ。
そして、ボルテージが上がったっぽい鷹の亜人はその場で咆哮した。
「虚と実。貴様にこの動きが見切れるかっ!?」
気が付けば――数十体のフラロウスが勇気を取り囲んでいた。
――それは、無数の残像。
遠近感を狂わせ、目の錯覚を引き起こす特殊な歩行法と、フラロウスの尋常ではない速度があわさった事により生じた現象だ。
と、勇気はその場で拳をコキコキと鳴らし、次に、その場で屈伸運動を行い始めた。
「確かに、どれが本当の貴様かは分からねえ……」
だが、と勇気は続けた。
「さっきも言ったが――スピードには自信があるんだよっ!」
それは、反復横とびだった。
勇気の超身体能力で行われる左右への高速移動。
残像の数にして数万、あるいは数十万。
否、残像という生ぬるいものではなく、それは――まさに、壁だった。
それぞれの残像が隙間なく重なり――斎藤勇気の身長をそのままに、横幅が10メートル程度に広がったような印象。
「ぬわああああああああっ!!!!!??」
幾百万の残像が繋がった――巨大な壁を目の当たりにしたフラロウスは、その場で腰を抜かしてしまい、クチバシをカパカパと開閉する事しか出来ない。
「な、何なのだコレはっ!? きっ、きっ……貴様は……」
と、そこで大巨人の指先がフラロウスの肩にポンと置かれた。
「フラロウス。スピードではどうにもならないじゃけぇ……ここはワシが……」
「鷹頭がスピードって事は……こいつは見た通りの力自慢か……ってか……デケェな……」
最後の方の声はビビリから来る震えるような声だったが、小さすぎる声だったために、彼らには聞こえることは無い。
「と、とりあえず握手で……」
何故だか、物凄い好戦的な魔物に絡まれている現状。
やはりここは友好的に事を収めたい。
何しろ、巨人はデカイ。超デカイのだ。
まともにやっては一瞬で潰されてしまうだろう。
勇気の差し出した掌を見て、巨人は口笛を吹いた。
「力比べをしようっちゅう事か……ナターシャ=エリゴール四天王……大地のバルバトスであるワイに対してえらい自信じゃのう?」
巨人の頭の位置は10メートル強で、更には声色も物凄い低い。
しかもほとんど独り言おようなもので、ゴニョゴニョとしたような感じでの呟きで、当然、勇気にはその言葉は届かない。
ともかく、巨人は勇気に向けて掌を差し出した。
小指だけでも直系10センチはありそうな規格外の体型。
掌を大きく広げた勇気は、バルバトスの小指を優しく握った。
その時、事件は起きた。
バルバトスの掌が、勇気の肩口から先を握り込んだのだ。
――腕を握り潰して、そのまま振り回して――壁に叩き付けてやる。
そう思い、バルバトスは思い切り拳を握りこんだのだが、握りつぶすことが出ない。
ただ、硬い感触――神の金属:オリハルコンの塊を握り込んでいるような感触が返ってくるばかりで勇気は微動だにしない。
幾ら力を込めようとも――勇気の顔色一つ変える事は出来ない。
握りつぶすことは無理だと判断した彼は、壁に叩き付けようと――勇気の腕を握ったまま、力任せに壁に向かい投擲しようとした。
が、しかし――動かない。覆面マントは微動だにしない。
10メートルを超える体躯を誇る、魔貴族の中でも誰も比類出来ない膂力を持つ自分が――体重60キロそこそこの少年を、持ち上げる事すらできない。
絶句するバルバトスに、その時、戦慄が走った。
今まで、バルバトスに反撃もせず為すがままにされ、沈黙を保っていた勇気が口を開いたからだ。
「そろそろ手を離してくれねーかな? 握手ってのはそんなに長くやるもんじゃねーぜ?」
勇気はそう言うと、バルバトスの手を振りほどくべく、軽く右手を振った。
パンっと乾いた音。
それは衝撃波の音で――つまりは音速を超えた合図。
そう、力を込めたとも思えない、何気ない動作で巨人が吹き飛ばされたという事だ。
轟音が玉座の間に鳴り響く。
見ると、アダマンタイト製の、更に言えば幾重にも防性術式が組み込まれた特注の壁にヒビが無数に走っていた。
壁に大の字で叩きつけられた大巨人。
クレーターの中心にめり込んだバルバトスの意識は――勇気に吹き飛ばされたことにすら気づかぬままに暗転した。
「ヒッ……ヒィ……」
鷹の亜人――フラロウスは後ろずさりながら声にならない悲鳴をあげた。
彼の視界は恐怖と言うドス黒い暗転に支配され、最早正常な思考能力は失われている様だ。
かつて、ナターシャ=エリゴールのダークネスフレアを見た時に、四天王の全員が思った事がある。
才能や努力、そういう問題では無く――世の中には、同じ生物である事すら馬鹿馬鹿しくなるような、そういう絶対に届かぬ次元というものが存在するのだと。
だが、今、彼が受けた衝撃はその時の数十倍、あるいは数百倍。
――眼前の男の実力の底すら……皆目見当もつかない。
と、その時、玉座の間の入口から拍手の音が鳴り響いた。
勇気がそちらに視線を向けると、スラリとした高身長の細身の男が立っていた。
黒を基調にし、所々に赤のラインが引かれている神父のような恰好、銀色の瞳は切れ長の一重瞼、白磁の肌にスラリと筋の通った鼻。
「あの日。絶対最強であるはずのナターシャが、異世界の勇者如きに……何も出来ぬままに一蹴されたという調査結果報告。実際にこの目で見るまでは信じられませんでしたが――確かに馬鹿げた力です。それに――」
巨人に視線を向け、軽く溜息をついた後、男は続けた。
「……夜会の戦力……四天王。これでも、懐柔には骨を折ったのですよ? あまり、苛めないでやってもらえませんかね……使い物にならなくなったらどうしてくれるのです?」
優雅な歩調で勇気に歩み寄る男。
つまるところは、魔王軍大元帥:ヴィクトル=ベリアルである。
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