熱戦! 激戦! 超列戦っ! 魔界で一番強い奴っ! その6
そして、勇気が去った数分後に、マールの元に一通の依頼文書が届いた。
依頼主の名前を見て、彼女の顔色が青色を通り越して、土気色に染まった。
「こっ……こっ……これっ……これっ……は……っ!」
勇気が退室したドアに向けて、叫んだ。
「ユウキ君っ! これは一体どういう事なのっ!?」
ドアに駆け寄り、入り口の外で左右を見渡すが、勇気の姿は見えない。
マールの掌に握られている書類、彼女は震える手で再度、依頼主の名前と宛先を確かめる。
「ユウキ君……あなた……ミラクルすぎるわよ……こんな大物から名指しなんて……っていうか、この依頼の取次も出来なかったなんて……責任問題に発展したら……大変な事になるわ……」
そして、続けた。
「さっきの手紙を受け取って……すぐに魔界に向かっちゃったのよね? ……今から探しても見つかる気がしないわ……どうしよう……」
その書類に書かれていた依頼主の名は――サルトリーヌ=マルコキアス。
前代未聞――魔貴族からギルドに向けられた依頼要請だった。
ギルドを後にし、そして今現在は市街の大通り。
軽く空を見上げながら勇気を思う。
――なんで、あの姉ちゃんを無下に扱っちまったんだろう……。
思えば、去り際のナターシャの顔は本当に寂し気だった。
彼女に何があったのかは分からないけれど、それでも、今思えば彼女は――勇気を本当に好いていてくれたのだろう。
そして、一つだけ確かな事。
それは彼女は、確かに、その結婚を望んではいなかったという事だ。
思い出した彼女の去り際の横顔が、勇気の心に空虚の風を送り込んでくる。
――なんで、俺はあの時……5円玉を彼女に授ける事しかできなかったのだろう。
やりようは、詳しく事情を聞けば、あるいは……あったのかもしれない。
けれど、あの時、勇気は……ただ、彼女を無下に扱う事しか出来なかった。
――逃した魚は大きい……っつー奴かな……。
彼女の存在が、あの日から少しずつ、勇気の中で大きくなっている。
センチメンタル……というガラでもないが、少なくとも、あれほどの美女に好かれると言う経験は、日本では有りえなかっただろう。
そして一度は得ていたはずの魚が……掌からすり抜けてしまった。
確かに、理由があって彼女を遠ざけてはいたけれど……彼女の人生は彼女の物で、そうなってしまったのは自分が悪いのも分かる。
でも……と、勇気は思う。
――そう。俺はもう2度と、この掌から――取り落さない。そして、取り落してしまったのなら……再度、捕まえに行けばいい。
うんと頷き、勇気はマールから受け取った手紙を開くと、再度目を通した。
「そう。俺はもう2度と失敗しない。この手紙は――ラストチャンスかもしれないんだっ!」
肩に斜めにかけている鞄から、手紙の束を取り出した。
それは、今まで勇気が『彼女』と文通を行った全ての軌跡だった。
そうして、一連の手紙のやりとりは、先ほど、マールから受け取った手紙で終了と言う形になっている。
――勇気が冒険者ギルド掲示板で、その掲示を見つけたのは4週間前の事だった。
冒険者ギルドでは、依頼を受ける方法は幾つかある。
一般的な方法は受付嬢のマールが管理している依頼の中から、仕事を斡旋してもらうという形。
そして、ポピュラーな方法がもう一つある。
ギルド内の掲示板に、依頼主が直接依頼の張り紙を貼り付け、それを見た冒険者が直接依頼主に連絡を取ると言う形だ。
この二つの何が違うかと言うと、コスト面という問題が一番大きい。
ギルド側が直接管理している仕事は、依頼主も請負人も身元はきっちりと保証され、事故が起きた際のフォローも行われる。
勿論、事前にギルドの判断で、依頼主と請負人のニーズを考えた上で、需要と供給のマッチングを行うと言うことは言うまでもないだろう。
ただし、当然そこには、ある程度の事務量が発生するわけで、中抜きという意味での金銭も発生する。
それに比べて、掲示板に依頼主が直接貼り付ける場合は、少額の金銭をギルドに支払い、掲示板のスペースを購入するという形。
後は、野となれ山となれの精神で、ギルドは一切何の責任も取らず、請負人が現れないという事すらも、十分に想定の範囲となる。
と、まあ、そんな感じで……ギルド内の一角には張り紙スペースが設けられている。
そしてその時、勇気はそこで仕事を探していたのだ。
――魔物の討伐依頼やら、素材の収集依頼、そして商隊の護衛依頼。
掲示板には所狭しと殺伐とした依頼の張り紙が張られており、そこで勇気はその依頼を発見した。
実際に、勇気はこの世界の文字を読むことはできないが、カダヒム程の大都市ギルドになると、象形魔法文字の使用も行われる事も多い。
そういった理由で、文章をイメージとして捉える事も可能になるのだが……。
閑話休題。
その掲示の張り紙から得たイメージは、女の子らしい丸文字。
そして、その意味するところは――あまりにもギルドに掲示されるには不釣り合いな内容だった。
その内容は以下の通り。
――――――――――――――――――――――――――――――
おんなの子限定で友達ぼしゅう中でっす~☆
わたしはまぞくで、ニックネームはあーたんだよ~♪
人間で言うと13さいのおんなの子でさみしがりーなんだよ。
でも、おなじくらいの年のお友達がいなくて凹みちゅうなんだぁ☆彡
おてがみで、ちゃんと毎回かまってくれる人がいーなー♪
それじゃ、おてがみまってま~すっ!
P.S れんあいのお話とかもできる子がいいかなっ(照れ
―――――――――――――――――――――――――――――
その手紙を見た冒険者たちの反応は、吹き出してしまうか、本当に意味が分からない……と言う、ありきたりなものだった。
そもそも、報酬が書かれていない。
当然、勇気も絶句したのだが、その数秒後には彼はその張り紙を手に取ってたのだ。
そう。
その昔、日本で流行っていたネット上の掲示板――つまるところは出会い系サイトを、その張り紙から連想したのだ。
――出会い系はヤレる。
そんな根も葉もない事を、日本での友人が言っていた事を思い出した彼は、一も二もなく、その張り紙を引きはがした。
すぐさま、宿に帰った勇気は日本語で文章を綴ると、依頼主に返事を書いた。
『日本語で大丈夫か?』
とは思ったが、象形魔法文字を使用可能な者は、高確率で、理解不可能な言語であっても、文章に残された残留思念を辿る事によって文の意味を把握する事は出来るらしい。
以前にそう聞いたことがあったため、一抹の不安を感じながらも、そのままポストへ手紙を投函した。
勇気が出した手紙の内容と、それ以降のやりとりは次の通り。
――――――――――――――――――――――――――――――――
やっほー、ゆーりんだょー☆
あーたんの友達募集……ゆーりんアンテナにティンっときちゃったのだー(爆)♪
そうそう、私は14歳で人間の女子だょっ!
お返事くれたら嬉しいな(照れ照れ)
恋愛の話も、私も興味あるよー! いっぱいお話しようね~!
――――――――――――――――――――――――――――――――
ゆーりんーっ! あーたんだよーっ!
やったー♪ 超うれしー♪
誰からもおてがみこないから、本気で凹んでいたことは秘密なのだっ!
ほんとうに、同年代のおともだちが少ないから、ずっとお友達でいようねー(はぁと)
実はわたし、恋愛でなやんでるんだけど、だれにもそうだんできないんだー。
めいわくじゃなければ、そうだんにのってくれるかな? くれるかな?
お返事まってまーす☆★☆★
―――――――――――――――――――――――――――――――――
相談ばっちこいだよーっ!
でも。。。実は私、あーたんに隠してる事があるんだ~(泣)。。。
あーたんにそのことを相談したいんだけど(ぇ)。。。
あーたんのお話も聞かなくちゃいけないし、今度、会って相談したいな(汗)。。。
来週の土曜日空いてるかな?
お返事待ってマースっ!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
うーん。。。
わたし、来週のどよう日は、ま界にいるんだけど。。。
でもでもっ!
もちろん、ゆーりんがま界まで来れるなら、あーたん的にもばっちこいなんだよー!
ま界のちゅうおう通りのま王像でわかるかなー?
だいじょうぶだったら、おちゃでも飲みながらおはなししよーっ(ワーイ)!
でもでもー、ゆーりんがどんな子なのか分かんないかなー?
わかりやすい目じるしををしてくれるとうれしいなっ☆
―――――――――――――――――――――――――――――――――
以上のようなやりとりが行われ、最後の手紙が、先ほど勇気がマールから受け取った手紙と言う状況だ。
そして、宿屋の自室に戻った勇気は机に向かい、レターセットとペンを取り出した。
「そう。俺はもう2度と失敗しない。この手紙は……あーたんは――俺のラストチャンスかもしれないんだっ!」
瞳に闘志の炎が宿った彼は、魂を文字に乗せるかのように、己が存在の全てをペン先に乗せた。
「……目印は覆面だよー♪……びっくりしないでね(汗汗)、良し……これで完璧だっ!」
手紙を書き終えた彼は、身辺の整理を始める。
食料、水、そして路銀を、長期冒険用のズタ袋へと詰め込めるだけ詰め込んでいく。
そして勇気は、宿屋の窓から遠く彼方を眺め、ギュッと拳を握った。
――向かう先は魔界。
――目的は夢。
睨み付けるかのように、魔界の方角を見据え――咆哮した。
「俺は……俺はもう……何も取り逃さないっ!」
一面の花畑、鼻先を淡く甘い香りを乗せた風が掠めていく。
小鳥の鈴音が色めく花々を彩る昼下がりの陽気の中、花壇沿いに設置された机からハーブティーの香りが漂う。
そんな中――通路を塞ぐように丸まった、ケルベロスの背に寝そべり、アナスタシアの口からは軽く溜息が一つ。
――魔獣の森の洋館に、サルトリーヌからの書状が届いたのは数日前の事だった。
何度読み返しても、彼女の頭の中には憂鬱という言葉以外の感想が出ない。
「まったく……ボクが争いごとを嫌いなの……知ってるはずなのに……なんで呼んじゃうかなぁ……」
幾度目かの自問自答。
その答えはやはり、いつもの所に落ち着いた。
「まぁ……それだけナターシャさんが追いつめられているって事なんだろうけど……」
上半身を起こし、胡坐の姿勢を取った。
そこで、軽く姿勢を起こしたケルベロスが不安げな表情で、彼女の頬に舌を這わせてくる。
「……大丈夫だよ、ケロちゃん。ボク達にはお兄ちゃんがついてるから。どんなのが相手でも、危ない目にはあわないからさ」
ニコリと笑うと、ケルベロスは安堵したかのように、再度、地面に丸くなった。
と、そこで、サルトリーヌからの手紙を懐にしまい、そして、彼女は、懐から他の手紙を一通楽しげに取り出した。
「それにしても……」
広げた手紙に目を通しながら、クスクスと口元を隠して笑い始めた。
「目印が……覆面って……ゆーりんは変わった子なのかな? まあ、ボクも目隠ししてるから……人の事は言えないケドさ」
彼女は元々、寂しがり屋な性格なのに――自らの持つ特殊能力に悩み、一時は外界の全てを遮断した。
そして、現在は茶会を開いて交流を行ってはいるものの、やはり同年代の友人はいない。
そんな彼女が、友達募集をした所で――誰が責める事ができると言うのだろうか。
――あーたん。
つまるところ――魔獣の森のメデューサ:アナスタシア=セエレである。
サルトリーヌ「えっ……?」
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