死神:チェルノボグその3
さて、森の中である。
カダヒムから東に30キロ程度。
死神:チェルノボグとドラゴンゾンビの群れの出現報告が多発しているのは、カダヒムでは塔と呼ばれる巨大建築物――古代遺跡を中心としている。
森は深く、昼間だと言うのにどこか薄暗い。
と、そこで柔らかな陽だまりに一行は差し掛かる。
丁度、木々が開けたようになっている場所で、視界は幾らか良好となっている。
遠く、そびえる塔を眺めながらシュワルツは口を開いた。
「それにしても、古代文明とは恐ろしい物ですね。あの塔は高さ数百メートルはあるんじゃないでしょうか? 遠近感が希薄になります」
うーん……と勇気は顎に右手をあてがう。
「いや、アレは塔っつーか……」
しばし、続く言葉を勇気が考えていた時、それは起こった。
まず、反応したのは巨人である。
「ドラゴンゾンビ、キケン。カコマレテル」
巨人は人間よりも野生的な感覚が鋭い種だ。
そして、それは森に棲むハイ・エルフの彼女も同様。
「……索敵終了。距離、400~1000――円状、全方位に散在している。囲まれていると言っても差支えない。総数12。狩猟ランクは単体でS+」
エルフの彼女の言葉が終えた所で、ようやくシュワルツは頷いた。
「我々がここまで近づかれるまで気づかないとは……ただのアンデッドではありませんね」
そして、二人に問いかける。
「確認するまでも無いですが……我々3人で……狩れますか?」
「ドラゴン、ツヨイ。ハッキリイエバ、ムリゲー」
「……ルリがいなければ12体は不可能。3人なら狩れても精々が3~4匹」
と、3人の視線が勇気に集まる。
「ということで先生。お願いします」
「ユウキ。ツヨイ。トテモツヨイ。ドラゴン、イッパツ。オネガイ」
「……研究対象として貴方の力を興味深く思っている。派手に暴れると良い」
3人の冒険者たちが勇気に期待の視線を向けている。
勇気は思う。
この3人は、先ほどの冒険者ギルドのやりとりを察するに、物凄く強いらしい。
そして、3人の会話を整理すると、彼等でも狩れないレベルの凶悪な生物に囲まれているらしい。
更に言うと、彼らは、本当の実力者……覆面マントのそっくりさんと自分を同一人物だと思い込んでいる様だ。
そして、期待の眼差し。
なるほど、と彼は結論を付けた。
――うおおおおお!!! ヤッベーーー!!!! マジヤッベー!!!
が、しかし、彼は冒険者ギルドで出世すると言う志を捨てている訳ではない。
実力者っぽい彼等に、ヘタレな所を見せる訳にもいかないのだ。
余裕の笑みを浮かべて、勇気は言い放った。
「ああ、任されたぜ?」
うんと、氷の微笑をシュワルツは浮かべる。
「先生が出れば、ゾンビドラゴンの1000や2000……瞬殺でしょう」
「ユウキ、サイキョウ」
「……今度、是非とも貴方を解剖させてほしい。謝礼は弾む」
と、そこで勇気はオーバーリアクション気味に、腰を抑えた。
そして、蒼白な表情を作り、その場で蹲った。
「と、思ったんだが……持病の腰痛が……」
勇気の演技に、一同は絶句した。
口を開いたまま、彼らはしばしの間固まる。
「そういえば、前回も……ドラゴンを500匹狩った所で腰痛が……」
「ユウキ、サイキョウ。デモ、ヨウツウニハカテナイ」
「……不味い。腰痛を回復させる手段。私は持ち合わせていない」
3人の間に戦慄が走り、緊張感が皆無だった一向にピリピリとした空気が走った。
ハイ・エルフの姉ちゃんはその場で目をつむり、杖で魔法陣を描き出した。
シュワルツは抜刀し、周囲の様子を伺っている。
巨人の彼が、動けぬ (と、彼は思っている)勇気を担ぎ上げた。
と、そこで勇気は思う。
――こいつらが以前に会ったっていう最強の覆面マント男……そいつも腰痛でやらかした事があるみたいだな。そいつ、俺と色々被りすぎだろう。
「……シュワルツ。こちらの最終兵器は使い物にならない。状況は最悪」
魔法陣を地面に描きあげた彼女は、無表情ながらも冷や汗を垂らしながらそう言った。
「――甘く見ていました。彼にはコレがあったことを忘れていた……ルリさんの離脱を止めるべきでしたね。私のミスです」
「アキラメル。ヨクナイ。ニゲルダケナラ……」
巨人の言葉が終わらぬ間に、黒い何かがこちらに向けて突撃を行ってきた。
――紫電の反応だった。
即座にシュワルツが前面に出て、黒剣を一閃。
ヌチャリ、と緑色の粘液と共に、ドラゴンゾンビの横腹が裂かれる。
が、相手は知能を持たぬ中では最強と呼ばれる下等生物、
腹を斬られたお土産、とばかりに、右前足の爪がシュワルツの胸部に強烈な一撃を叩き込んだ。
派手に吹き飛ばされ、背面の木に衝突。
メリメリと爆音を立てながら、運動エネルギーは細木を破壊した。
背後に向けて吹き飛ぶ勢いは止まらない。そのまま数本薙ぎ倒した所で、シュワルツはゆるりと地面へと着地する。
そして『コプリ』、と口から血の飛沫を吹きながら、前方の化け物を睨み付ける。
体高4メートル、体長14メートル程度。
傷口から臓物を垂らしながら、ドラゴンゾンビは一瞬の間その場に立ち止まり――そして咢を開いた。
臓物と口から洩れた強烈な腐臭が一面を支配する。
腐龍の大口の向かう先はハイ・エルフの少女。
ドラゴンゾンビの咢が彼女を捉えようとした瞬間、巨人の彼がその顎に両腕を差し込んだ。
上顎と下顎に手を割り込ませて、咢の口撃を中途で阻止する。
先ほどのシュワルツの剣撃が、口回りに作用する筋肉の一部を切断していたのだろう。
咀嚼する力を、確実に巨人の両の腕は上回っていた。
と、そこでハイ・エルフの彼女の美声が響いた。
「……火と風」
それだけ口にすると、先ほど彼女が地面に描いていた魔法陣が、泡白い発光に満たされる。
巨人はその言葉を聞き終えるや否や、その場から離脱。
そして、腐龍を包み込むように焔の柱が円状のサークルを形成する。
炎柱が中心点――つまりは腐龍に向けて収束していく。
龍が炎に包まれたところで、焔の柱は火勢を強め、天に向かって爆発的に伸び始めた。
その高さは概ね100メートル強。
そして、今度は炎が下方に向けて一気に突き進みだした――地表――腐龍に向けて。
地面への衝突。
そして轟音。
後に残ったのは、くすぶり続ける炭化した龍の死骸だけだった。
と、そこで吹き飛ばされていたシュワルツが、涼しげな微笑を浮かべながら一同に合流する。
表情からを見ている分にはダメージを受けているようには見受けられない。
巨人の肩に担がれながら、勇気は思う。
――うおおおおお! こいつら、半端じゃねえっ!!!! いけんじゃね? 後11体位だったら、何とかいけんじゃね?
と、そこでシュワルツの無慈悲な宣告が行われた。
「不味いですね……肋骨が数本持っていかれました。身体能力は30パーセント程落ちましたかね」
「……大規模魔法は打ち止め。1か月溜め込んでいた魔力を全て使い果たした」
「シュワルツ。サキニコウゲキシテナカッタラ、イマゴロ、オレ、マルカジリ」
――使えねえええええええ!!!!!!
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大体、お爺ちゃんも含めた4人でサルトリーヌさん位の力と思っていただければ。
今回、かなり強いモンスターなので……。
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