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HP1からはじめる異世界無双 作者:サカモト666

第一章 異世界との遭遇

番外編 はぐれメ〇ルの嫁達最強伝説 その15

 ――リンダール皇国。

 首都の外壁をぐるりと取り囲むのは10万を超える魔獣の群れ。
 皇城の外ではサキュバス90名が我が物顔で空を飛び回っている。

 そして今。
 皇帝の間では、元魔王を含めた3魔貴族が土下座する皇帝を睨み付けている。
 中央のナターシャを挟み込むように、アナスタシアとサルトリーヌが控えている。
 そうして、玉座に陣取ったナターシャ=エリゴールは片膝をつきながら皇帝に問いかけた。

「皇帝よ、そろそろ面を上げろ」

 怯えた表情で頭を上げたところで、サルトリーヌがナターシャに問いかけた。

「……ナターシャ? 普通に玉座に座っていますが……」

「ん? 王の椅子とは私が座るものだろう?」

 首を左右に振りながら、サルトリーヌはナターシャへと進んでいく。

「いえ、貴方は退冠した身ではございませんでして? 今現在、この場所で最も地位が高いのは私なのです。つまりその席は私のもの」

「くふふ、堕ちたものだなサルトリーヌ? 正攻法では私に勝てぬと踏んで、権威に頼るか?」

「ふふん、半ば無職に堕ちた貴方に言われたくはありませぬ。それになにより、貧乳が座るよりは巨乳が座った方が見栄えが良いはずです」

 ナターシャの眼前に仁王立ちすると同時に、扇子を優雅に一凪ぎ。

「おどきなさい。ナターシャ」

「断る。座り心地が良いのだ」

 バチバチと火花が出そうなほどの睨み合い。
 皇帝の間の空気がビリビリと、比喩ではなく震えた。
 彼女達の怒りが闘気に変わり空気に干渉した結果、風流が乱れた為に起きた現象だ。

 本質的にはじゃれあっていると言う方が近い。
 けれど、ライオン同士の睨み合いを目撃したウサギと同じように、皇帝はただその場で震えることしか出来なかった。

「お姉ちゃん達、いい加減にしたらどうなの? 席の取り合いって……」

「妹よ、これはただの椅子の取り合いではない。サルトリーヌが噛みついてきた瞬間に、女の戦いへと変貌を遂げたのだ」

「ええ、どちらが上でどちらが下なのか、この貧乳に思い知らせておかねばならないのです」

 呆れ顔でアナスタシアは視線を皇帝に送る。

「本当にいい加減にしたらどうなの? この人怖がってるじゃない、さっきから1時間も土下座させてるし……」

 サルトリーヌはクスリと笑った。

「このような豚はいつまででも土下座をさせておけばよいのです」

「そうだぞ妹よ。そんなことよりも、今は誰が玉座に座るかの方が肝要なのだ。まあ、この争いは子供には分からんだろうが……」

 ピクリとアナスタシアの片眉が吊り上がった。

「だから、ボクを子ども扱いしないでって言ってるでしょっ!」

 頭の目隠しに手を伸ばし、続けた。

「いい加減にしないと……取るよ? 目隠し?」

「しかしだな……」

「もー、めんどくさい人たちだなあ……ナターシャお姉ちゃん、ちょっと立ってくれるかな?」

「どうしたというのだアナスタシア?」

 すっくと立ち上がった瞬間、玉座にアナスタシアが尻を割り込ませた。

「これで二人とも無駄な争いをしなくていいでしょ?」

 うん、と天使の微笑を浮かべるアナスタシア。

「そうだな。妹が座るのであれば誰も文句はあるまい」

 微笑を浮かべながらそう言うナターシャを見たサルトリーヌの胸中に、ある種の予感が渦巻いていた。

 ――このロリータ……ただの愛玩動物と思っていましたが……とんでもない。要注意ですわ……ナターシャを……手玉に取っている……。

 彼女達のやりとりはさておき、胸中穏やかで無いのはリンダール皇帝だ。
 今まで、彼女達の狙いを何も聞いてはいない。
 恐らくは城の中で飼っている数十人の魔物の性奴隷が原因なのだろうが……とりあえず、今のところは土下座しかさせられていない。

 そんな彼にナターシャの声が投げかけられた。

「そろそろ本題に入ろうか、皇帝よ」

 ついに来た、と皇帝はグっと息を呑む。

「我に……何を求めるというのだ」

 サルトリーヌが一通の書状を皇帝の眼前に差し置いた。

「……これは……?」

 覆面マントの男の指名手配状だった。
 皇帝の頭の中がパニックに陥る。魔王も含めた3魔貴族の軍事行動を含めた一連の事件と、覆面マント。何一つとして繋がらず、要を得ない。

「要求は至ってシンプルなのだよ。指名手配を取り消せば良い」

わたくし達にとって、その手配状は若干……気分を害するものなのです」

「なんか、脅かしみたいになっちゃってるけど……ゴメンね? ボク達が来たの理由はコレだけだから」

 ――えっ!? 
 と、皇帝は思う。

 ――そんだけっ!? 要求、マジでそんだけっ!? 城の中で飼ってた魔物は関係ないのっ!?

「……あい分かった。すぐさま取り消しの沙汰を出そう」

 土下座の態勢から立ち上がり、皇帝は3人に語り掛ける。

「要求は呑んだ。と、いう事でお引き取り願いたいのだが? ロクな歓迎もできずに申し訳がないところだが……貴様ら3人は人間の国家にとって……刺激が強すぎるのでな」

 皇帝としては、彼女たちが無理難題を言い出す前に一刻も早く返す必要がある。
 それに、今はどうやら気が付いていないようだが、城の中のアレを見られてしまえば……命は無い。
 何しろ、どんな間柄かは分からないが、変質者一人の手配状を取り消すだけでこの騒ぎなのである。

 皇帝の言葉に従ったアナスタシアが、玉座から立ち上がった所で、サルトリーヌが大げさに鼻をヒクヒクと鳴らした。

「それにしてもナターシャ? この臭さ……何とかなりませんでして?」

「ああ、サルトリーヌ。確かに臭いな、鼻が曲がりそうだ」

「お姉ちゃん達、何を言ってるの?」

 再度、皇帝の頭はパニックに陥る。

「臭い……とな?」

「あー、臭いですわ、臭いですわ、臭いですわ。とても――臭いですわ」

「風呂に位……入らせてやったらどうだ? 人間ヒトよ」

「何を言っているのだ。貴様たちは?」

「本来であれば、この時点で帰る予定でしたが……知ってらっしゃって? サキュバスは精液の匂いに非常に敏感なのです」

「私も魔導を極めた身……入場前にこの城の索敵は終了している」

 皇帝の表情が凍り付いた。
 ニヤリとナターシャは笑った。

「つまり、全てお見通しだ。趣味が悪いようだな、皇帝よ」

「宮殿から追放したとは言え……同族に対してこの仕打ち、まあ、地獄を見てもらいましょうか」

 状況を全くつかめていないのはアナスタシアただ一人だ。

「ちょっとお姉ちゃん達……? なんか本気で怒ってるみたいだけど……どうしちゃったの?」

「妹よ。貴様は知らなくても良い事だ。後の処理は私が行う」

 優雅な口調でサルトリーヌが言った。

「さて、どうしましょうかナターシャ? 熱した油でこんがりと揚げましょうか?」

「いや、時間をかけて、一ミリずつ手足足先から細断していうというのはどうだろうか?」

 クスクスと凄惨な笑みを浮かべながら二人の美女が語り合っている。
 皇帝の頭から血の気が引いていく。

 ――こいつらは、本当にやるつもりだ。生き地獄を自分に見せるつもりなのだ。

 体は小刻みに震え、涙と鼻水で表情がクシャクシャになっていく。

「あらあら? どうなさいました? ご安心なさって結構ですよ? きちんと延命は施しますので」

「最低でも半年は生きてもらう。私のかつての部下で拷問が好きな変態がいてな……途中からは奴に引き継ぐ事にしようか」

「待て……待ってくれ……金なら幾らでも……地位も権力も、我の差し出せるものなら全て差し出す。だから……」

 あら? とサルトリーヌは小首を傾げた。

「何をおっしゃっているのでしょうか、この豚ちゃんは。貴方から何かを奪うならば、力づくの方がよっぽど早いし……スマートですわ」

「魔王の玉座から自ら降りた者に対して地位や権力を差し出すとは、笑止千万だな。もう少し気の利いた取引はできんのか?」

 一縷の望みをかけて、皇帝はアナスタシアに懇願の視線を向けた。
 少し困った表情をした後、彼女は口を開いた。

「ボクには良く分からないんだけど……お姉ちゃん達は遊びでこういう事は言わないし、しないと思う。多分……キミが悪いんだよね? だったらボクには助けられないよ。ゴメン」

 拳を鳴らしながらサルトリーヌが皇帝に向けて歩みを進める。

「さて、それでは第一回戦……始めましょうか?」

「アナスタシアよ、貴様は魔獣の森に帰れ。妹に見せるには、これから先は少し酷な光景になる。貴様はまだ……汚れる時期ではない」

 と、そこで皇帝の間の入口から一人の中年――40代の騎士が駆け出してきた。
 今回の事件において皇帝に全ての伝令を行ってきた――騎士団長:エドワードである。

「陛下っ! 貴様ら……陛下には指一本触れさせんぞっ!」

 サルトリーヌと皇帝の間に立ったエドワードは、キラリと白銀の剣を抜き出した。

「あらあら、人間風情がわたくしに刃向うというのでしょ――」

 サルトリーヌの言葉を、ナターシャが手で制した。

「待てサルトリーヌ。貴様、見た所……普通の人間だな? 私たちをどうにかできると本気で思っているのか?」

 決死の形相のエドワードだったが、気合いとは裏腹に彼の膝は笑っていた。
 ナターシャの問いは、その膝の震えが雄弁に物語っている。

「勝てる勝てないの問題ではない! 義を尽くすか否かの問題なのだ!」

「ふむ……義? その心は?」

「私は18の頃に皇帝に剣を捧げたのだ!」

「なるほど、忠義か。しかし、貴様も気づいているのだろう? この者は貴様の剣を捧げるに値せぬ俗物であると」

 ぐっ、と一瞬詰まったエドワードだったが、それでも彼は断言した。

「私は捧げ、そして誓ったのだ。この身、この魂を皇帝に――ひいては『国に捧げる』と誓ったのだ」

 そして、続けた。

「陛下自身の人間性はこの場合は問題ではない。なぜなら、陛下こそが――この国そのものなのだから!」

 そして、エドワードは剣を振りかぶり、ナターシャに斬りかかった。
 指をクイっと動かすだけで、彼の剣は炎上し、融解、そして気化していく。

 武器を失ったエドワードはその場で放心状態に陥っている皇帝を抱きしめた。

「陛下、私が貴方を守る最後の盾になりますっ!」

 そう――エドワードは、皇帝を抱きしめた。

「おお、エドワード……今まで貴様を冷遇し、黒づくめの男たちに頼ってしまい……すまなかった……最後の最後で大事なものに、ようやく我は気づくことが出来た」

 そして、既にすがるものは何もない皇帝も、エドワードを力いっぱい抱き返した。
 ナターシャの眼前では、男二人が抱き合っている。

 彼女は眼前の光景にしばらくの間固まった。
 そしてフリーズが溶けたと同時に、彼女の口から息が漏れだした。

「イヒッ!」

 旭化成みたいな声だった。

 そう。
 ナターシャは腐っているのだ。

 基本的には綺麗な青年同士、あるいはショタが出てくるボーイズラブを愛する彼女だが、オッサン同士の絡み合いも意外にいける。

 士官学校時代、彼女がお世話になった本には――亡国の王を救う為に盗賊団に集団レイプされたという騎士団長の話もあったのだ。

 その物語の騎士団長は、貴族出身で実力と言うよりも家柄で成り上がった中年だった。
 亡命の旅の途中、二人は盗賊団に囲まれる事になる。
 最早これまでと、最後の時、愛に気付いた騎士団長と王は、お互いに体を交らわせ愛を確かめ合った。

 そして騎士団長は震えながらも盗賊団と相対するも、すぐに負けてしまい――王を救う為に、自らの体を盗賊団に捧げると言う悲愛のストーリーだった。

 つまり、まさに、眼前の光景は腐り姫としての彼女のドストライク。

「イヒッ!」

 更に旭化成みたいな声を漏らす。
 そして、拳を握りしめながら、呟いた。

「……ゃばいょ……ドキドキしてきたょ……マジドキだょ……」

 昔を思い出し、ギャル時代だったころの口調まで飛び出してしまう。



次回か次々回で番外編終了予定。

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