挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
HP1からはじめる異世界無双 作者:サカモト666

第一章 異世界との遭遇

番外編:はぐれメ〇ルの嫁達最強伝説 その13

「で、どうすると言うのですか? ナターシャ?」

 遠くリンダール皇城を眺めながら、サルトリーヌは扇子を取り出しながら言った。

「どうする……とは?」

「我らの思い人を愚弄した豚の処遇です」

「ふむ……」

 顎に手を当てながら、ナターシャは豪快に笑った。

「爆発に決まっているだろう。リンダール首都ごと……な」

 うん、とサルトリーヌもニコリと頷いた。

「爆発好きな貴方の事……当然そうくると思っていました。派手に行きましょうか?」

 表情を蒼白にしたのはアナスタシアだ。
 目の前のキ〇ガイ二人は、今、あっさりと――数百万の人間を丸ごと吹き飛ばすと宣言を行ったのだ。

「待って待って待って待って! たくさんの人が死んじゃうんだよ?」

 ポカンとした表情を浮かべる二人。

「アナスタシアよ、お姉ちゃんは怒っているのだ。そうであれば人間の100万や200万……」

「皇帝の所業なれば臣下が責を取るも必然です。まあ……私がやるには後味が悪いので、先ほどの戦闘では不殺としましたが」

 言葉に詰まったアナスタシアだったが、そこで思い直した。

 それでも――この二人は、まだまともな部類だと。
 元々、人間と魔貴族では力に差がありすぎる。
 必然、神が天災で人間をいたぶるが如く――人の命など紙切れ以下にも気にも留めていない。

 けれど、この二人は――恐らくは彼との出会いによって――人間に微かな価値は見出している。
 証拠に、そこには彼女たちの怒りという動機が存在している。裏を返せば、怒りが無ければそのような事はしないと。

 けれど、不殺を信条とするアナスタシアにとっては、彼女たちの思想は許せるはずも無く。

「やっぱりボクが来てよかったよ……許さないからね? そんな事絶対許さないからね?」

 そこでナターシャはギュッと拳を握りしめた。

「しかし、私はサルトリーヌと再会したからには、花火を上げなくてはならんのだ。極大爆発呪文――ダークネス・フレアをな」

 笑いを堪え切れない、とばかりにサルトリーヌはその場で腹を押さえた。

「くっ、くくっ……ダークネス・フレア……貴方……あの時の事を未だに律儀に……」

 苦虫を噛み潰した顔で、ナターシャは口を開いた。

「ええい、あの時の事は言うなといっただろうが! だが、約束は約束だっ!」

 今度はアナスタシアがポカンとした表情を浮かべる番だった。

「えっ? えっ? あの時? 約束?」

「ほら、どうするんですか、お姉さま? 妹様が疑問に思われていますよ?」

「……私とサルトリーヌは――そうだな……丁度、アナスタシアと同じ年代の頃に知り合ったのだ」

 ニヤケ面を崩さずにサルトリーヌはナターシャの言葉の補足を行う。

「そうですね。あれは桜の舞う季節でした。魔界……魔都の魔王軍運営士官学校……」

「そして、魔貴族の才覚を持つのは私とサルトリーヌだけだったのでな。色々と境遇も近い」

「まあ、同じ銀髪を見れば分かる通り、ナターシャもサキュバスの遠戚でありますからね」

「50年の間、同じクラスで机を並べたのだ。仲が良くならない方がおかしい。まあ、寮の相部屋で一緒で……毎晩、レズの気もあるこやつに絡まれて困ったものだったが」

 渋面でそういうナターシャだったが、それでも遠い目で柔和な笑みを浮かべていた。
 士官学校で過ごしたと言う50年は、彼女たちの中で良い思い出として残っているらしい。

「サルトリーヌさんとナターシャさんはだから仲が良かったんだ……」

 と、そこで再度サルトリーヌは噴出した。

「いや、仲が良くなったのは……アレが理由ではありませんか?」

「ええい、それを言うなと言うにっ!」

 元魔王の眉間に酔った皺に、一瞬だけアナスタシアは気圧されたが、それでも興味が打ち勝った。

「仲が良くなった理由?」

 首を左右に振り、ナターシャが続けた。

「私は腐女子なのだ」

「えっ……」

「そうです、アナスタシア。この方は……腐っていたのです。そしてサキュバスは性に対しての探求を惜しまない種族。当然、その方面に理解があります」

「腐って……いた?」

 何を言われているのかさっぱり分からないアナスタシアの頭を、サルトリーヌは優しく撫でた。

「ボーイズラブ好き……と言えば分かりますかね? 士官学校相部屋……私の本棚にはそういった洒落本がたくさん所蔵されていたのです。それをこの人が気にいってしまいまして……魔王にまで上り詰めた女が……純正のサキュバスでもないのに……ホモ好き……プっ……ククっ」

「洒落本って……エッチな本って事だよね? ってか……男同士?」

 既に会話のレベルは、奥手なアナスタシアには理解不能な領域に達していた。
 ワナワナと肩を震わせながら、ナターシャは声を荒げる。

「ええい、私がホモ好きで何が悪い!?」

「いや、悪くはありませんけれど? 思えば貴方はあの時から色々と残念でしたわね。今も砂漠を素手で掘り返していると言うではありませんか?」

「だから……残念と言うなと言うにっ!」

「そもそも、いつからその口調に変わったと……おっと失礼。失言でした」

「口調の事は言うなあああああああああ!!!!!」

 あまりの剣幕でナターシャが叫んだために、アナスタシアは尋ねずにはいられなかった。

「ナターシャさんは、昔は喋り方が違ったって事?」

「ええ、そうですよアナスタシア。昔はギ……」

「言うなああああああ! サルトリーヌ! それは言うなあああああ!」

 決死の形相でサルトリーヌの口を塞いだナターシャ。

 懐から一通の手紙を、すっと彼女はアナスタシアに差し出した。

 手紙を受け取ったアナスタシアは絶句した。
 宛名はサルトリーヌ。
 差出人はナターシャとなっている。

 手紙がアナスタシアに渡されたことに気付かないナターシャは、二人でキャットファイトを始めてしまった。

 その間に、目隠しを解いたアナスタシアは手紙に目を通した。
 そして絶句する。

 再度の目隠しを行いながら、ナターシャに問いかけた。

「ナターシャさん……これは?」

「貴様……それを読んだのかっ!? というよりサルトリーヌ! 貴様は何故にそのようなものを持ってきている!」

 扇子を優雅に一凪ぎ。

「貴方の弱みは常に肌身離さず持ち歩いていますわ? 当然の事でしょう?」

「貴様は、貴様はっ! どこまで性根が腐っている?」

「あら? ある程度したたかでなくてはサキュバスの宮殿では生きていけますぬ。それに、腐っているのは貴方でしょうに?」

 ぐぬぬ、とナターシャが言葉に詰まったとき、アナスタシアは彼女に問いかけた。

「これって、本当にナターシャさんが書いたの?」

 しばし考えたナターシャはサルトリーヌに視線を向ける。
 小悪魔の微笑を浮かべているのを確認し、最早言い逃れは出来ぬと悟った。
 昔から――彼女に口喧嘩や陰謀の類で勝てた試しはない。

「ああ、事実だ。それは私が……ダークネス・フレアを編み出した翌日にサルトリーヌに向けて送ったものだ」

「ダークネス・フレア……? 魔王のオリジナルの……極大呪文?」

「ああ、そのとおりだ」

 と、アナスタシアは文面を思い出してみる。
 そして、口に出して朗読してみた。
 その内容は以下の通り。








 ナターシャはぉもった……絶対に魔王になってやるってぉもった……

 戴冠式……やりたぃ……でも……魔王になるのゎ……難しぃ……だから……新しい魔法ぉ編み出す……!!

 それで、研究の結果……誰もいない草原で……ナターシャゎ試し撃ちした……ダークネス・フレア……

 初めてだから……自分も爆発に巻き込まれて……もぅつかれちゃった……でも……あきらめるの……ょくなぃって……ナターシャゎ……ぉもって……がんばった……

 でも……ネイル…われて……イタイょ……

 鞄に入れてた、サルトリーヌに借りてたボーイズラブ本も……燃えちゃった……まにあわなかった……

 ゴメンね……?

 でも……ナターシャとサルトリーヌゎ……ズッ友だょ……!!









 アナスタシアの朗読を終えた瞬間に、ナターシャは叫んだ。

「きええええええええーーーー!!! 読むな! 読むな読むなっ!」

 かつての魔王としての威厳はそこには皆無だった。
 銀髪を振り乱し、狼狽している彼女の姿がそこにはあった。

「それで、あの時……私に借りてた本を燃やした償いに、この人は私が困っている時はダークネス・フレアで助けてくれると約束してくれたんです」

「そんな事が……」 

「それでね、アナスタシア、この人……肌が浅黒いでしょうに?」

「うん。確かにそうだね」

 そこでナターシャの健康的な褐色の肌から血の気が引いた。

「言うなっ! 言うなっ! それは言うなサルトリーヌ!!!!」

 ガン無視して、サルトリーヌは心の底から楽しげに言った。

「元々は色が白かったんですけどね。当時、ギャルを目指していたんですよ、この人は。そして自分の魔術で肌を焼いて――戻らなくなった……プッ……クフフ……カハッ……お腹……痛い……」

「きえええええええええええ!!!!! サルトリーヌううう!!!!」

 ――黒歴史……と言う事なのだろうか。

 アナスタシアは、なんだかナターシャが可愛そうになってきたので、その辺りで質問を辞める事にした。
 よっぽど恥ずかしい過去なのだろう……と。

 そして、サルトリーヌには逆らわないようにしようと、心の底から思った。
 ――色々と、既に……屋敷で待つ彼に知らせては不味い事も知られてしまっている……。マントの男の事とか。マントの男に抱いている淡い憧れとか。覆面をプレゼントした事とか……。
 彼女に嫌われると、何を言われるか分かったものではない。

 ともかく。
 いい加減――女子会をいつまでも行っていてもラチがあかない。
 そう思い、アナスタシアは口を開いた。

「で、どうするのナターシャさん? 人間を殺すことはボクが許さないよ?」

 そうだな……と、ナターシャはその場に落ちていた矢を一本拾う。
 懐から取り出した紙とペンで、すぐさまに手紙を書き終えた。

「手紙……どうするつもりなの?」

「まあ、見ておけ」

 そのままナターシャはじっと瞳を閉じた。

「軍のオドの流れを読むに……なるほど。皇帝はそこか」

 悪魔の笑みに口元を歪ませると、手紙を括り付けた矢を手に、ナターシャは振りかぶった。

 そして、投擲。
 基本的には魔法使いに属する彼女だったが、攻撃力もカウントストップを行っている。
 数キロメートル程度の投擲などは赤子の手を捻るよりもたやすい。


 ――そして、手紙を乗せた矢は皇帝の間まで一直線に飛んでいった。







評価・感想を頂けると泣いて喜びます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ