番外編:はぐれメ〇ルの嫁達最強伝説 その5
砂漠に二人の少女が立っていた。
一人は黒髪ポニーテイルに巫女装束。
もう一人は朱色の瞳に、浅黒い褐色の肌、そしてレザーの軽鎧に身を包んだ銀髪の少女。
彼女達の周囲――地面には半径30メートル程度のクレーターが無数に形成されており、その激闘の凄まじさを伺わせる。
彼我の距離差は7メートル。
元魔王の放った数多の遠距離、あるいは中距離の魔法攻撃をかいくぐり――瑠璃は自らの拳の届く範囲にナターシャを捉えようとしていた。
瑠璃が距離を詰める為に踏み込みを行おうとしたその時、ナターシャはすっと腕を高く掲げた。
「なるほど。昔に魔界で争ったときとは次元が違う――人間よ……種としての限界を超えたか」
「アンタこそ――あの時と全然違う……あの時……完全に遊んでたのね?」
ふふ、とナターシャは楽しげに笑った。
「さあ、これをどう防ぐ?」
彼女たちの周囲100メートル圏内に無数の光の矢が突如として現れた。
その数――総数950。
マジックアローと言う基礎中の基礎の魔術であるが、限界を突破しているナターシャの魔力で発動させれば、その数は桁違いとなる。
「久方ぶりに私の血肉は踊っている――貴様、私を失望させてはくれるなよ?」
ナターシャが掲げた腕を降ろすと同時、亜音速で光の矢が瑠璃に向かい始めた。
『瑠璃? この数と速度――身をかわすことは不可能です』
「分かってるよ姉さん……だったら――」
その場で、瑠璃は重心を低くし、どっしりと腰を落とした。
「――全て叩き落とすっ!」
神速。
音速を遥かに凌駕する速度で、ハタから見れば千手観音のように瑠璃の腕は見えていたかもしれない。
「なるほど、なおもそうくるか――どこまでも変わらぬ力づく……逆に心地良いわ」
瞬時に光の矢を叩き落とした彼女は、そのままナターシャの眼前に迫り寄り――そして右拳を大きく振りかぶる。
「精神生命体レベル10、あの時はダメージを通せなかったけど――」
大気を揺るがす衝撃と共に、ナターシャの顔面に瑠璃の右ストレートがめり込んだ。
「――今なら通るっ!」
ナターシャはそのまま吹き飛ばされるも、後方に風魔法で空気のクッションを形成させることで衝撃を緩和する。
くるりと空中で一回転。
そのまま砂地にふわりと着地した。
そして、己が鼻先から溢れ出る液体を確認する。
「ふはは、ふははははは、拳で私にダメージを通すか……貴様で二人目だ――見事な技、見事な力よ」
そして、とナターシャは続けた。
「謝罪しよう。貴様と言う稀有なる戦力に手加減を施していたことを。私は貴様の力に敬意を表し――その力に本気で返礼させてもらう」
気が付けば、ナターシャの背後に巨大な炎龍が舞っていた。
それは生物ではなく、純粋な炎なのだが――極大の魔力を注ぎ込んだ炎系呪文には生命が宿ると言う。
大賢者シグナムをもってして、2メートル程度のサラマンダー(火トカゲ)を形成させるのが限界のラインだと言う。
けれど――ナターシャは全長300メートルを超えんばかりの炎龍を発生させていた。
「……これが……アンタの……本気……?」
炎龍はそのまま咢を開いて瑠璃へと襲い掛かる。
再度、瑠璃は腰を落とし、拳を振りかぶった。
「――ぬるいっ!」
炎龍の顔面に彼女の左フックが突き刺さり、炎は右方に流れていく。
勝利を確信した瑠璃の脳裏に、姉の声が響いた。
『いや、瑠璃――今のは煙幕――本命は……上……です』
すっと瑠璃は頭上を見上げる。
と、同時に表情から血の気が引いた。
「……マジ?」
頭上に1キロメートルの地点、迫りくるは半径500メートルの隕石だった。
――スターインパクト。
古代魔術によって理論だけは確立されていたが、その必要とする魔力量に今まで使い手がいないとされていた魔術だ。
先ほどの炎龍は、どこまでいっても質量の伴わない炎。
けれど――迫りくる隕石は、何百、何万、何十万トンという馬鹿げた質量を伴っている。
「ふふふ、多少大人げが無かったかな? これで終わりだ、人間よ」
余裕の笑みを浮かべた次の瞬間、ナターシャは絶句した。
隕石の落下と共に破壊の運命を受け入れるしか術の無かったはずの彼女が――空に向かって飛び上がっていたのだから。
「――迎え撃つ気……だとっ!?」
音速を超え、空気を切裂き、隕石に向かって飛び上がりながら瑠璃は思う。
――それでも――日暮より固いという事は――有りえないっ!
ならば……と思う。
――私の拳で――貫けるっ!
「いっけええええええええええええええええっ!」
瑠璃の拳が隕石に接着すると同時――その大質量に大きな亀裂が入った。
この呪文では彼女にダメージは与えられない。
ナターシャはそう察した瞬間、飛び散った隕石群の破片により周囲に被害が出る事を防ぐために、隕石の質量形成術式を解いた。
刹那、隕石は跡形も無く消え去った。
飛び上がった速度をそのまま利用し、瑠璃はナターシャへと迫る。
「ふふ……人間……か……あの男と言い、この者と言い……どこまでふざけた連中だ……」
接触した瞬間、瑠璃はタックルのようにナターシャを押し倒し、二人でもつれあいながら後方にずり下がる事200メートル。
マウントを取った瑠璃は高々と拳を振り上げ、そして振り落した。
そうして――ナターシャの鼻先で瑠璃の拳はぴたりと止まる。
「どうした、人間?」
「私の負けよ。降参するわ」
苦々しげな表情で瑠璃は首を左右に振った。
「流石だな。気づいていたのか?」
「どこまでもふざけた連中って……あんたも大概ふざけてるじゃない。この期に及んで――手抜き?」
心外だ……と言うようにナターシャは目を丸くした。
「いいや、私は本気を出していた。そして貴様はそれを上回った」
プルプルと小刻みに震え、瑠璃はコメカミに青筋を浮かべる。
「アンタ……ダークネス・フレアを使ってないじゃん」
そう、魔王オリジナルの極大呪文。
水爆にも匹敵するあの技を、今回の戦闘で彼女は使用していない。
呆れ顔でナターシャは呟いた。
「貴様は物理攻撃のみで私に対峙している。なれば、私が本気で使用する魔法――私の持ちうる最大物理魔法:スターインパクトによって応じるが道理ではないか」
「それが……人を舐めてるって言ってんのよっ!」
マウントポジションを解いた瑠璃は、その場で眉間に人差し指をあてて考え込んでいる。
しばらく納得がいかない様子でブツブツと独り言をつぶやいていたが、やがて彼女はナターシャに向けて握手を求めるように左手を差し出した。
「ともあれ……これからもヨロシクね、ナターシャ」
「貴様がオアシスに来てから1週間……突然に私と手合せを願いたいと言ってきた時には面を喰らったが……」
瑠璃の手をナターシャは握り返した。
「貴様が私に近づいた理由は未だに教えてはくれぬのか?」
「うん、それはもうちょっとだけ……時間が欲しい。アンタが悪い奴じゃないことは理解したけど、やっぱ昔は魔王だったしね……信用できるかどうかはまだ分からない」
けれど、と彼女は続けた。
「でも、いつか――アンタにお願いする事になると思う。今回の手合せで……アンタがやっぱり規格外ってのは十分に分かったから」
「私としても、この砂漠の開発に……腕の立つ者は一人でも欲しい……期待しているぞ、高峰瑠璃」
――その戦いは、壊れた(バグ)ステータスを持つ者同士の初めての戦闘記録として、後の歴史書に大きく記される事になった。
それはさておき――その1週間後、サルトリーヌよりナターシャ宛に手紙が届けられることになる。
3人衆A(ドヤ顔)「ふふふ、我らの力はそれぞれが大賢者シグナムに匹敵する」
3人衆B(ドヤ顔)「故に、我らは無敵」
3人衆C(冷静) 「日暮さんクラスが何人かいないとこれって無理ゲーじゃね? ノラヌーク国に……応援要請出した方が……良いんじゃ……ないかな?」
※各種事情で……ナターシャを黒髪白肌→褐色銀髪にしました
この展開の反応を知りたいので、評価・感想をお待ちしております。
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