20代の私がまだ小学生だったころ、ユニクロが世界に現れた。安くて品質が悪いものと、高くても品質がいいとは限らない服しか無かった世の中に、ユニクロは「安くて品質がいい」服を連れてきた。
タートルネックやジーンズは使いまわしがきくから重宝した。地元のEDWINが潰れた。2003年にはヒートテックが出た。完売御礼で手に入らないレアアイテムと化したヒートテックのために、転売ヤーまで出た。

オシャレな友人はユニクロをバカにしていた。カラーバリエーションも一世代古いし、形がベーシックすぎる。真実だ。だが、当時流行っていた10代のブランド - CECIL McBEEを筆頭としたギャル服かグランジファッションはどちらも縫製がお粗末すぎて、1回洗えばほつれるような品質。値段はユニクロの3倍。「質を選ぶから、私はユニクロ」と堂々と言える時代だった。

さて、10年経った。

この前久しぶりにユニクロへ服を買いに行った。大学時代に古着屋で買うことを覚えてから、そもそもあまり新品の服を買うことが無くなった。最近の買い物はフリマアプリのメルカリでCelineのバッグを7000円で買ったのと(すごく勇気が必要な値段だった)、Visで3000円の帽子。H&MがAlexander Wangと組んだアウターは気になりつつも、18,990円は高い。最近買った一番高い買い物はAlexander McQueenのストールだけど、ユーズドだから1万円以下。これでも随分高いと思った。"作品"レベルだと思っても1万円以上を服にかけるのはちょっと考えたくない。

そんな奴がユニクロに行ったのはその日急にお泊りになって、服が無くなったからだ。前は楽しみにして入店していたユニクロが、コンビニのパンツみたいに「仕方なく買うもの」になっていた。

そしてスカートを物色。「高っ」と思った。
昔しまむらにあったような品質のスカートが4000円した。でも丈があまりに短すぎてオフィスへは着ていくことができない。まさかJJ読者がユニクロへ行くと思ってるんだろうか。諦めてスカートの下に履くタイツを探す。高い。ヒートテックしかないので、1足1000円する。11月上旬にヒートテックなんて履いたら、オフィスで蒸発しちゃう。私がほしいのは300円で買えるただの黒タイツなのに……。

なんで「ユニクロへさえ行けば最低限の衣類はなんとかなった」時代がなくなったんだろう。まさかのユニクロで「明日何着て生きていく?」と頭を抱えた。「ああ、この百貨店にLowrys Farm、H&M、若作りと言われてもいいからOlive des Oliveでもあれば!」と思って気づいた。

私たちはファストファッション漬けだ。

そう、2000年代からユニクロより可愛くて安く、そして最低限のお洗濯に耐えられるものが世にはたくさん出ていた。Earth Music & Ecology、Lowrys Farm、Rope Picnic、ZARA、E-hyphen World Gallary。私たちの世代はこれらが「ファストファッション」だなんてもう思っていない。立派なカジュアルファッションだと思っている。United ArrowsやSHIPSは高級品だから、アウトレットでしか見ない。アウトレットでもちょっと高すぎると感じている。

ファストファッションに慣れ親しんだ私たちにとってモードファッションもブランドが好きなバブリー世代も「特殊な人たち」だし、オシャレは好きでもがんばらなくたっていい。オフィス勤務ならジャケットはtheoryで3万円を出すかもしれないけど、中はぜんぶZARAでいい。(そもそもtheoryが高級服だと思っているなんて言ったら一昔前は叱られた)もしかしたら10年に1回、すごい金額を出してバッグを買うかもしれないけど、そしたら次の10年使い倒すだろう。

そう考えている人種にとって、ユニクロは「アウターとして堂々と着るには安っぽいし、デイリーで使いまわすには高い」のだ。ワンピースは膝丈のものがぜんぜんなくて、もしかして布地の面積を減らしてコストカットしたのかな?と穿った見方をしてしまうくらいだし、チュニックはLowrysかJEANASISのほうが安い。

今の大学生は幸せだと思う。1万円あれば全身それなりの服でコーディネートできる。ユーズドでいいならブランドだって身に着けられる。フリマアプリでは「20代の頃着ていたシャネルのバッグがもうムリだから」と出品される。リサイクル、リユーズ、リデュース。小さい頃から教わったエコな暮らしは、どうやら浸透している気がする。

たぶんユニクロからこの方針が消えない限り、私はユニクロへ行かなくなるだろう。ほつれても修繕すれば5年着られそうな無印良品のワンピースを買った。

ユニクロは売上げが前月比10.5%増だそうで、きっと買わないほうが間違っているのだ。けれども、友達とユニクロに行った、彼氏とユニクロに行ったって話を聞かない。きっと、20代の世界からは、徐々にユニクロが消えていっている。なんでだろう?と思っていた。判った。ユニクロは高所得者のものとなったのだ。高所得者の、プライベートウェアだったのだ。私たちが、貧しくなったのだ。

私たちは、お金がないから、ユニクロを買えない。


※ 20代後半の年収を見ると、18年前より男性だけの統計でも約50万円年収が下がっています。年収が413万円ある男性にとっての衣類代4000円と、年収が367万円しかない男性の衣類代4000円は、価値が全く異なります。

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