どうしんウェブ 北海道新聞

  • PR

  • PR

現代かわら版

海外の先住民族 権利 政策が後ろ盾に (2009/04/22)

新しいチセの前で、施設や専門家の必要を訴えるアイヌ民族博物館の野本正博学芸員

先住民族アボリジニが数多く暮らすオーストラリア北部のアーネムランド。土地の返還が進められている

上村英明教授

 アイヌ民族を先住民族と認めるよう求めた昨夏の国会決議を機に、日本政府は総合的な民族政策の立案に向けてかじを切った。海外ではすでに、国立博物館を造るなど先住民族政策を実施している国がいくつもある。各国の実情に詳しい専門家らは「そうした例が日本でも参考になるのでは」とし、日本政府の動向を注視している。(小坂洋右)

【サーミ】
学ぶ場、高い専門性 博物館が充実、職業訓練に力


 アイヌ文化振興法に基づいて、民族の伝統的な生活空間「イオル」の再生事業が行われている胆振管内白老町の財団法人アイヌ民族博物館。事業の一環でポロト湖畔に完成したチセ(家)の前で、アイヌ民族の学芸員野本正博さん(46)が口を開いた。

 「イオル再生事業が自然散策の場づくりで終わったら意味がない。工芸工房やアイヌ文化などの研究施設も併せて必要です」

 念頭には、何度も交流や研究で訪れたフィンランドの国立サーミ博物館がある。「先住民族サーミの工芸品などの展示だけでなく、情報センターとしても、大学生が古老から話を聞き、自然資源の活用を学ぶ場としても機能していた」と野本さん。近くには国立サーミ地域伝統職業教育センターがあり、サーミの人々が工芸ばかりでなく、コンピュータープログラムや福祉の仕事なども無料で学んでいたという。

 野本さんは「アイヌ文化振興法は一定の役割を果たしている」とした上で、「サーミでもオーストラリアの(先住民族)アボリジニでも、工芸や芸能がデザインや芸術性を備えたアートにまで高まっている」と、日本でもより専門性を備えた施設や指導者が必要と提言する。

 国立民族学博物館(大阪)の庄司博史教授(言語政策)によると、サーミが暮らすフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの三国では、代表をサーミ同士の投票で選ぶサーミ議会が設置されている。国がサーミの居住地域で開発行為を行ったり、文化にかかわる施策を推進したりする場合、同議会から意見を聴取する仕組みとなっている。

【マオリ】
公用語として保護 教育界に浸透 国会でも使用


 先住民族の言葉を公用語にしている国もある。その一つがニュージーランド。先住民族マオリ系の人口は約六十万人で、同国の14.6%を占める。

 マオリに詳しい武蔵大(東京)の内藤暁子教授(文化人類学)によると、マオリ語が公用語に認められたのは一九八七年。学校では英語とともにマオリ語の教育が義務付けられ、伝統文化も積極的に保護している。マオリ語だけで学ぶ幼稚園や初等、中等学校も誕生し、民族の視点に立ったニュージーランド史が教えられている。役所での手続きや裁判、国会での発言でもマオリ語を使うことができるようになった。

 「マオリ語放送のテレビ局も開設され、英語のドラマの吹き替えもある。若者の中にも話し手が増えつつある」と内藤教授は話す。

【アボリジニ】
土地の返還 柔軟に 状況に応じて貸与や猶予も


 「カナダの北西海岸では、最も優先されるのが環境保護だが、先住民族が、自分たちが食べるためのサケを捕る権利がかなり以前から認められている。むしろ漁業よりも優先度が高い」と話すのは、同国の先住民族の漁業を研究する三重大の立川陽仁(あきひと)准教授(文化人類学)だ。

 オーストラリア・アボリジニの土地の権利問題に詳しい京都精華大の細川弘明教授(同)は「同国では土地の返還が進められている。といっても、状況に応じて妥協点を見いだす努力がされており、国立公園ならいったん先住民族に返し、あらためて貸してもらうこともあるし、鉱山開発では終了の年限まで待つなどの工夫がある」という。


 非政府組織(NGO)市民外交センターの代表として国連を通じた先住民族の権利回復運動に取り組んできた恵泉女学園大(東京)の上村英明教授(国際人権論)は「オーストラリアでは昨年二月、アボリジニの親子を強制的に引き離した過去の政策にラッド首相が公式に謝罪し、昨年六月にはカナダのハーパー首相も同様に謝罪している。北海道でも『旧土人』という名称で制度的差別や強制移住などが植民地化の過程で行われてきた。政府のアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会自身がこうした歴史認識を明確にし、政府に謝罪勧告を出してほしい」と指摘している。

現代かわら版 コンテンツ一覧

このページの先頭へ