【沖縄県知事選】 これでもまだ移設進めるの? 政府に対して根深い不信、無力感
米軍キャンプ・シュワブのフェンスに張られた、辺野古への基地移設反対などを訴える横断幕=16日午後、沖縄県名護市 |
辺野古沿岸部の埋め立て予定地である大浦湾の近くに住む松田藤子さん(74)は「戦争につながる基地建設は反対だ」ときっぱり。翁長氏勝利の報道に「沖縄の夜明けだ。反骨の精神を示せた」と興奮気味に話した。
太平洋戦争末期の沖縄戦で父は沖縄防衛隊の一員として死亡し、女手一つで育てられた。小学1年から働き始め、畑仕事や家畜の世話もした。農作業現場を往復する時間に勉強した。「筆舌に尽くせないほど苦しい生活だった」と振り返る。
1月の名護市長選で辺野古反対の稲嶺進氏が再選を果たしたが、毎日目にする美しい大浦湾で、政府は埋め立て工事に向け海底ボーリング調査を進める。「政府は沖縄を見下している」。松田さんは憤りを隠さない。
辺野古の隣の豊原区。基地負担への補償という条件付きで辺野古移設を容認する区長の宮城行雄さん(63)は選挙結果を受け「政府の沖縄振興策が滞り、辺野古周辺の経済が悪化するのではないか」と懸念を示した。
日米両政府が普天間移設に合意してから18年。名護市民は選挙のたびに分断されてきた。県外移設を高らかに唱えた鳩山由紀夫元首相も、辺野古移設に回帰した。政治に振り回されることの繰り返し。「結局、何も変わっていない。どうせ移設を止めることはできない」と諦め気味に話す。
「新たな基地建設には反対」「反対は現実的ではない」。普天間に近い宜野湾市宇地泊区の自治会長冨名腰義政さん(59)は辺野古移設を容認するが、妻(58)は反対の立場だ。夕食時にたびたび口論になり、議論は平行線をたどる。
冨名腰さんが移設を容認する理由は、普天間の危険性除去だけではない。フェンスに囲まれる普天間には戦前、集落があり、妻の両親はサトウキビを栽培しブタやウシを飼育していた。同様に土地を奪われた人が大勢いる。「生きているうちに土地を解放してほしい」と願い、辺野古移設を前提に5年以内の普天間運用停止を掲げる政府方針に望みを託した。
日夜問わず響く米軍機の騒音。冨名腰さんは「今やらないと永久に固定化しかねない。子や孫の代まで基地を残したくない」と訴えるが、妻は「辺野古に基地を押し付けたくない」。互いに納得できる結論は出せないままだ。
普天間移設問題
普天間移設問題 沖縄県宜野湾市の市街地にある米軍普天間飛行場の移設をめぐる問題。1995年の米兵による少女暴行事件を機に日米両政府が96年4月、普天間返還で合意した。日本政府は99年12月に名護市辺野古への移設を閣議決定、2013年3月に辺野古沿岸部の埋め立てを県に申請した。仲井真弘多知事は13年末、埋め立てを承認し、沖縄防衛局が今年8月に海底ボーリング調査を始めた。年明け以降に埋め立てに着工する予定だが、県外移設を求める県民の反発は根強い。
在日米軍再編
在日米軍再編 冷戦終結や2001年の米中枢同時テロを受けた世界規模の米軍合理化の一環。日米両政府が06年に合意した。在沖縄海兵隊約1万9千人のうち約9千人をグアムやハワイなど国外に移転する。13年4月には沖縄県の米軍施設・区域の返還時期が示され、普天間飛行場(宜野湾市)の返還は名護市辺野古への移設を前提に「22年度またはその後」と明記された。ほか、地元が早期返還を望む牧港補給地区(浦添市)など5施設・区域の計約570㌶を対象としている。
(共同通信)